いよいよ7月。予定通りであれば、5月はお預けとなった大相撲の本場所が遂にやってくる。今回も3月場所と同様に無観客で行われる上、スケジュールも2週間遅れとなっているが、それでも長らく取り組みそのものが見られなかった相撲ファンにとっては喜ばしいことである。

 力士たちも、それぞれの部屋において徐々にぶつかりや申し合い稽古を再開。場所に向けて日々真剣に取り組んでいる。

 今回は、26歳になったばかりの先月、入籍を発表して世の中にうれしいニュースをもたらしてくれた、“角界きっての元気印”阿炎を紹介したいと思う。

いつもニコニコしていた少年力士。

「こんにちはー! こんにちはー!」

 少年相撲のとある大会。ニコニコと無邪気な笑顔で、ほかのクラブの知らない人にまで挨拶をしまくっている可愛い小学生がいた。

 彼の名は堀切洸助。

 現在、錣山部屋所属の阿炎である。

 彼よりも2つ年上で、同じ埼玉県出身の北勝富士は、阿炎と初めて会ったときのことをこう振り返る。

「昔はモヒカンみたいな頭をしていた僕に、急に『その髪触っていい?』って話しかけてきたんですよ。それまで話したこともなかったのに、いきなり。びっくりですよね(笑)」

 その後もすくすくと成長し、今では大相撲の土俵で活躍を見せている阿炎。彼の力士としての魅力を、改めてここにしたためよう。

阿炎の魅力その1:長い手足と突っ張り

 彼の取り口を語る際に欠かせない特徴は、なんといってもあの長い手足だろう。

 まさに“最近の子”といったスタイルの良さ。柔軟性も相まって、天高く上がる彼の四股は、多くの相撲ファンを魅了する。

 そんな阿炎の持ち味は、恵まれた体形を生かした、相手を遠くへ遠くへと押しやる豪快な突き。

 アマチュア時代からの武器だが、プロになった現在と比べると、「体重が増えたことで重みが増しました。少しずつ力もついていますし、相手の感じる重みは変わったと思います」と話している。

 阿炎の師匠である錣山親方は、言わずと知れた“突っ張りの寺尾”。「突き押しに関しては、師匠はプロフェッショナルですから、言われたこと1つひとつが大切なものだと思っています。錣山部屋を選んだのも、師匠を尊敬していて大好きだったからです」と、普段はひょうきんな阿炎も、師匠の話になると、いつになく真剣な口調で語る。

 親方は以前、阿炎の相撲について「取組になるとすり足ができず、足がバタついてしまうのが課題。何度言っても直らない」と、厳しく指摘していた。しかし、改善点があるということは、それだけまだ伸びしろがあるということ。そう期待して、今後の阿炎の進化した突っ張りを待ち望んでいる。

阿炎の魅力その2:愛されるキャラクター

 人物紹介をするとなると、どうしても彼のキャラクターばかりが前面に出てしまうことになるのだが……その人懐っこさが群を抜いているのだから仕方がない。

 とにかく人が好きなのだろうが、誰にでもあの明るさでどんどん話しかけにいくので、いつまでもあどけない少年のような雰囲気になってしまうのだ。こうして人に対して分け隔てなく接する彼は、昔から多くの人に愛されて育ってきたといえる。

 また、根っからの「正直さ」も彼のいいところだ。

 思い出深いシーンとしては、初めて横綱・白鵬を破って金星を挙げたときの勝利者インタビュー。

 マイクを向けるNHKのアナウンサーに対して「早くお母さんに報告したいから、もう帰ってもいいですか?」と、自らインタビューを切り上げてしまったのだ。あまりに自由過ぎて、正直過ぎて、見ていて思わず笑ってしまった。

 後日、この時の話を聞いてみた。

「勝った後、興奮状態のまますぐにインタビュールームに連れていかれたので。でも、そのとき既に泣きそうだったから、一刻も早く帰りたかったんですよ(苦笑)。とにかく早く帰って、大声を上げて、喜びを表現したかった。その時に電話した母自身も、もう何を言っているのかわからないくらい泣いていたし、そんな母の声を聞いて、自分も大泣きでした」

 このお母さんとのエピソードを聞いたとき、改めて、彼の心の清らかさと純粋さ、優しさに触れた気がした。

阿炎の魅力その3:義理堅さ

 普段からニコニコと明るい阿炎は、語り口調も軽い、まさに現代っ子なのだが、実は非常に義理堅い性格であることも知られている。ここが……多くのファンが“ギャップ萌え”しているポイントである。

 力士の行きつけの店を紹介しながら、食生活について話を聞く筆者の連載記事「力士のエビスコ!」(月刊『相撲』/ベースボール・マガジン社)で、阿炎は両国にある豚料理の店「わとん」を紹介してくれた。そこは、自身がかつて通っていた草加相撲クラブの恩師が経営する店だった。

「ここは、僕が本当に心許せる場所。恩師はもちろん、相撲で素晴らしい人たちに囲まれて育ったからこそ、いまも自分が自分らしくいられています。そういう大事な義理は、絶対に忘れないようにしているんです」

 また同部屋で同郷の先輩・彩には、公私にわたり兄のように慕う。一度十両から陥落し、長い低迷期があった阿炎。生活が荒れ、相撲を辞めようかとさえ思っていた彼を再度奮起させたのが、彩だった。

「彩さんに『いつまで腐っているんだ! 目を覚ませ!』って怒られたとき、図星だと思いました。自分が甘えているだけってわかっていたけど、誰かに指摘してほしかったんです。そのとき、彩さんが自分の思っていたことを全部言ってくれて、稽古場でも目をかけてもらえて。そこから僕は変わりました」

 普段はやんちゃなイメージの阿炎だが、こうしたエピソードを耳にすると、彼への印象がまた少し変わって見えるのではないだろうか。

今こそ、阿炎の天真爛漫さが必要!

 コロナ疲れと大相撲ロスに世の中が苛まれるいま、どの力士のどんなコメントにも元気をもらえることは間違いない。しかし、いまこそ阿炎の天真爛漫さが世の中を元気づけてくれるのではないかと思い、筆を執った。

 残念ながら5月場所ではその雄姿を見ることはできなかったが、その分あと半月は力をためて、土俵上で大暴れしてほしい。

 それまでは、いつもと変わらぬ笑顔で、周囲を明るくしてくれていることを願うばかりだ。

 彼ならば、持ち前のポジティブさを生かして、この逆境をプラスに変え、ますますパワーアップしてくれること間違いなし。

 期待を込めて、頑張れ阿炎!

文=飯塚さき

photograph by Kyodo News