J3からJ1へ“2段階昇格”を実現した片野坂知宏監督が指揮を執る5年目のシーズン。GKを含めた最終ラインから丁寧なビルドアップでボールを動かし、スキを狙ってスピードアップする“大分スタイル”は確立している。

 今シーズン、新たなトレンドを発見するのは難しいかもしれないが、指揮官は「新しい戦術に取り組んでいる」と明かした。リーグ、リーグカップの開幕戦はいずれも無得点で黒星スタートとなったが、どちらの試合も相手の守備を慌てさせた場面は数知れず、逆にピンチの回数は片手で済むほど。詰めの甘さが時折見えたものの、チーム全体に悲壮感はない。

 4カ月余りの中断期間で戦術浸透度は増し、幅を広げることにも挑戦した。片野坂監督は「ある程度の手応えはある」と話す。

得点力不足は新加入選手が解消?

 具体的な変化は攻撃面に見出せる。今季の焦点だった得点力不足解消だが、補強した選手と既存組との融合がその解決策だ。

 2桁得点が期待される新加入の知念慶は、「前線の関係はトレーニングマッチを通して良くなっている。大分の特徴であるサイド攻撃にも慣れてきた。クロスからのチャンスが多くなると思うのでワンタッチゴールを極めたい」と、周囲との連係にまずまずの手応えをつかんでいる。

 1トップの知念の能力を引き出す2シャドーは定まっていない。昨年までは小塚和季、三平和司が定位置としていたが、今季は渡大生(わたり・だいき)や町田也真人、野村直輝ら実力者が加わった。片野坂監督は「コンディションやコンビネーションを見極めたい」と先発を固定せず、対戦相手との相性や連戦への負担を考慮して、毎試合入れ替える可能性を示唆している。

 このポジションの適性は、左右に流れ、あるいは下がってボールを受けてラストパスを狙えるチャンスメーカー兼フィニッシャーであること。交代枠が5人となったことで前線3枚の同時替えやシステム変更を含め、貧打解消の鍵を握るポジションとなりそうだ。

相手に合わせたバリエーションを。

 ボールを握る片野坂サッカーにおいて、極めて重要な役割を担っているのがボランチだ。ビルドアップに顔を出し、シンプルなさばきでチームにリズムを生み出す。

 大卒2年目の長谷川雄志は、「FW陣が大幅に変わったので攻撃のアプローチが変わった。バイタルエリアで勝負できる選手が増えたので、くさびのパスが多くなったし、そこからのミドルシュートが増えそう」と昨季との違いを口にしている。

 基本スタイルはこれまでと同じつなぐサッカーだが、「そこを狙ってくる相手が増えているのは確か。そういうときには長いボールを効果的に使っている」と、状況に合わせたバリエーションを持ち合わせていると話す。

個々のレベルの高さに驚いた。

 昨季中盤から固定された3バックは盤石。左から三竿雄斗、鈴木義宜、岩田智輝と並び、それぞれの持ち味である1対1の対応もさることながら、カバーリングでも周囲と好連係を見せている。

 知念は「大分に加入して選手個々のレベルが高いことに驚いた。特に最終ラインは個人の能力と組織力が噛み合っている」と絶賛する。加えて、自らの飛び出しに呼応した後方からの長いボールが効果的に届き、次々に決定機を生み出している。

 戦術的に高い位置でボールを奪い、素早く攻撃に転じるような形は狙っておらず、攻め急ぐ必要はない。今季は「昨年以上にポジショニングが細かくなった」(松本怜)と言う。

 相手に使わせたくないスペースを明確に定めて守備を始める位置を柔軟に変えるなど、局面に応じた陣形を用意しているのだ。対戦相手や状況次第では自陣深くまでラインを下げることも躊躇わない。片野坂監督が率いたここ5シーズンで最も安定感を感じさせる守備が大崩れする心配はなさそうだ。

頼もしいふたり、得点力上がった。

 注目選手が知念なのは間違いないが、同じ新加入の渡大生の存在も面白い。今季初の公式戦となったルヴァンカップの湘南戦で先発出場。ポジションはFWではなく、ひとつ下がったシャドーだが、ゴール前に飛び出し泥臭く得点を狙うストライカーのスタイルは変わらない。最前線の知念が作り出したスペースを突き、あるいは知念の近くに位置取り、その落としを受けてフィニッシュに持ち込む。

 また状況によって役割を変え、前線に張るケースも出てきそうだ。新加入だが、連係はまるで長きに渡って所属しているかのようにフィットしている。「後ろから見ていても、あのふたりは頼もしい。僕らが想像しないようなシュートを決める。昨季より間違いなく得点力は上がった」とGK高木駿も頼りにしている。

 前線の枚数を増やしたいときは知念と渡の2トップも考えられる。新たなオプションとなって渡がゴールを量産できれば、大分の躍進は現実のものとなるはずだ。

降格なくても結果にこだわる。

 短期決戦の連戦続き、再開初戦は無観客試合。「いろんなことが起こりうるシーズンになる。心配もあるが、90分戦える準備はできている」と片野坂監督は言葉に力を込める。どんな苦境に立たされようとも、武器であるチームワークの良さ、団結力を持ってリーグ再開へ向けて準備は着々と進められている。

 今季の目標は「6位以内を狙う」と当初のまま。降格のないシーズンであるが、結果にこだわることを明かした。

 戦術の幅を広げる新たなチャレンジの姿勢が、今季の成否にも関わってくるはずだ。

文=柚野真也

photograph by J.LEAGUE