平良拳太郎は“走る男”である。

 横浜DeNAベイスターズに移籍して4年目、彼をグランドやキャンプ地で見かけると、いつも走っている。たとえば以前、横須賀市長浦町にあったファーム施設に練習休日に訪れると、誰もいない中、平良がひとり黙々とランニングをしている姿があった。暑い時期、玉のような汗を浮かべ一歩一歩、着実に進んで行き、スタミナを積み上げる。

 走り終わりに「お疲れさまです」と声をかけると、笑顔を見せペコリと頭を下げる。そんな控え目な対応もシャイな彼らしい。

 今シーズンはDeNAに入団して、初めて開幕ローテーションに食い込んだ。その投球術からは、老練ともいえる巧みさが見て取れる。変化球を低めに集め、打者のバランスを崩し、ゴロを量産する。ラミレス監督も「平良は自分の長所と短所をわかっていて、強みは真ん中から外。スピードを変え、タイミングをずらすなど、そういった部分が非常に長けている」と高評価を下している。

「ランナーは出るものだと思って」

 ここまで2試合を投げ計12イニング、防御率1.50、被打率.167と十分な数字を残しているわけだが、平良は先発投手としての心構えを次のように教えてくれた。

「まずは試合を作ることを第一に考えて、ランナーを出したとしても自分で自分を追い込むようなピッチングをせず、一つひとつのアウトを確実に取っていくことですね。1イニング3人で終わらせるのが一番ですけれど、ランナーは出るものだと思って、そこからいかに抑えるのか、今のところ集中してピッチングができていますね」

 たしかにランナーを出してもカウントを悪くしても、今季の平良は焦る様子を見せることなく、淡々とマウンドをさばいている。頼もしくもあり、メンタル面においても成長が感じられる。

球速アップの要因とは?

 加えて、投球面においても昨季とくらべ随所にレベルアップが見られる。

 まずはストレートだが、昨季は故障明けだったこともあり年間アベレージは130km台後半だったものの、今季は140km超えが目立っている。この2試合は6回に入っても144〜145kmをマークするなど、余力さえ感じさせるほどだった。

「たしかに6回であっても、いっぱいいっぱいといった感じはないですね。投げながら終盤に球速が出ている感覚はありますし、ファールも取れていたので、強いボールが投げられていたかなって。スピードは出ないよりは出たほうがいいですし、基本的に狙って球速を出していくタイプではないのですが、変化球への効果を考えてもバランスよく投げられていると思いますね」

 球速アップの要因は何だろうか。

「昨年よりトレーニングが上手くいっているということと、体のケアを自分で考えてできているのも大きいと思います」

 このオフにはヨガを採り入れたという。

「僕は体が固くて、股関節や腰まわりに柔軟性がないとボールが低めにいかないんですよ。そういう意味ではヨガは役に立っていますし、また初動負荷のマシンなども使いながら柔軟性に加え強度を出していけたらなと」

効果的なシンカー、落ちるスライダーも。

 平良が言うようにストレートが走れば変化球はより活かされる。持ち球である130km台後半のシンカーとカットボール、そして120km台後半のスライダーを巧みに使い分け、ピッチングを組み立てる。特にシンカーに関しては、今季から右打者に効果的に使いゴロを奪っている。

「昨年までシンカーを右打者に投げるときは、左打者のとき同様に抜き気味で投げていたのですが、それだとあまり振ってくれない感じだったんです。だから今は強めに、どちらかというとツーシームのような縦に落ちるイメージで投げています。昨年は右打者からショートゴロやサードゴロがあまりなかったんですが、今季は取れている感じがしますね」

 バージョンアップはシンカーだけにとどまらず、投球の3〜4割を占めるスライダーにも工夫が見られる。昨季までは独特のスリークォーターから放たれる“浮く”スライダーのみだったが、今季は“落ちる”スライダーも活用している。

「じつは昨年までは漠然とスライダーを投げていたところがあったのですが、昨年の後半、結果が出ないときにある先輩に言われたんですよ。『自分の良さを活かすためにはスライダーの使い方が大事なんじゃないか』って。そこで浮くスライダーに加え、空振りを取りに行くスライダーを使うようになったんです」

 使いどころはここ一番、空振りを取りたいタイミング。木塚敦志ピッチングコーチからもバッターの様子をきちんと見ながら使えとアドバイスを受けている。

「特に左打者へのインコースのスライダーは、今年は結構空振りを取れている印象がありますね。昨年はよく打たれていましたから。そいう意味では同じ球種ではあるのですが幅を持たせて使えていると思います」

際立っている「低め」の制球。

 そして平良の老練なコンビネーションの礎となっているのが、言うまでもなく低めへの制球である。以前、平良から「低めに投げる意味がわからないときがあったんですよ。低めに投げても打たれるわけですから」と聞かされ驚いたことがあったが、キャリアを重ね「低く、かつ“強く”投げること」の重要性に気がつき、投球術は磨かれていった。

「ただ昨年の後半、結果が出ないこともあり、低めだけじゃ抑えられないんじゃないかなと思ったことがあったんです。そこで低めを狙わず、甘めで勝負しようとやってみたんですが、上手く行きませんでした。そこでもう一度、低めという意識を強く持つことに。自粛期間中の自主トレではその辺をかなり練習してきたんです。また、アクセントとなる高めのボールも大事だなと改めて感じていますね」

 ピッチャーというのは繊細である。試行錯誤しながら一歩前に進んだかと思えば振り返り、自分の足跡を見つめる。現役が終わるまでおそらく答えは見つからないが、常に高いレベルを堅持しようと奮闘している。

キャッチャー戸柱との関係。

 そんなピッチャーをフォローするのが、言うまでもなく女房役のキャッチャーだ。今季は2戦とも戸柱恭孝がボールを受け、平良の良さを引き出すことに成功した。丁寧にコーナーへリードし、外角の厳しいエリアはフレーミングでゾーンへ収める。

「助かりますよね。外のスライダーを広くとってもらえている印象ですし、自分としてはそれがあって真っすぐなり、シンカーなり、幅を使って投げることができました」

 果たして戸柱とはどんな話し合いをしているのだろうか。じつは平良と戸柱は、昨季までほとんどバッテリーを組んだことがない。

「試合前に言われているのは『1、2失点だったら何の問題もない。0点で抑えようとして小さくなるな』ということですね。たしかに試合でトバ(戸柱)さんとはあまり組んだことはないんですが、組まなくても普段から『どんな感じ?』と訊いてきてくれるので、何度も自分の感覚を話しているんです。だから違和感というのはまったくありませんね」

QSはすでに2試合で達成。

 さて、120試合という短いシーズンは加速度をもって進んで行くが、優勝に向け、平良には年間を通じて先発としての務めを果たすことが求められる。ローテーションの1人として定着しはじめた2年前は悪戦苦闘の末、後半戦で波に乗り、昨季は前半は良かったものの後半戦で失速した。コンスタントに1シーズンを投げ切ることが信頼へとつながる。

 こだわっているのはクオリティ・スタート(QS、6回以上3自責点以内)だ。昨季15試合に登板し達成率は約43%だったが、今季は2試合ともクリアしている。

「先発ピッチャーとして、最低限QSをクリアすることが大事だと思っています。そうすれば成績もついてくるでしょうし、今後は7、8、9回が課題になってきます」

 だから平良は走る。誰よりも遠くに。

「問題は球数をいかに上手に減らしていくか。ファームのキャンプで大家(友和)ピッチングコーチから『球数を投げれば体力がつくというものじゃない。1イニング15球を目標に投げてみろ』と言われ、たしかにそうだって納得しました」

 平良の打たせて取るピッチングは高度なテクニックを要するが、投球内容を鑑みればすでに方向性は見えていると言っていいだろう。体力の温存と出力のバランス。微細なコントロール。ランナーを出したとしても焦らず考え、平常心で集中すること。個性的な右のローテーション投手として、いまや平良はチームになくてはならない存在だ。

「とにかく粘り強くピッチングしていきたい。このポジションを手放すことがないように、チームの勝利に少しでも貢献したいと思います」

 いつもは優しくはにかんでいる表情を引き締め、平良は力強い口調でそう語った。

文=石塚隆

photograph by Kyodo News