マンチェスター・ユナイテッドの試合を見たい。

 6月30日のプレミアリーグ第32節ブライトン戦(3−0)の勝利で、直近のリーグ8試合を5勝3分けとして意気揚がるマンUは、リバプールの優勝が決まった現在、試合自体の重要性などは抜きにして単純に「見たい」と思わせるチームだ。

 ブライトン戦と、その前節のシェフィールド・ユナイテッド戦(3−0)での2連勝は、昨季途中から指揮を執るオレ・グンナー・スールシャール体制下で最高の完勝だろう。

 その痛快な勝ちっぷりは、プレミア無敗街道に乗る直前の第24節バーンリー戦、0−2で敗れた一戦の不甲斐ない内容と結果にホームの観衆からもブーイングを浴びたチームとは別人のようだった。

 畳み掛けるような攻撃の迫力にしても、カウンターの勢いにしても、栄光に満ちたサー・アレックス・ファーガソン時代を彷彿させるものがあった。ちなみに、スターに事欠かなかった当時のマンUの中でも、筆者は抜群のセンスとテクニックをさり気なく披露するポール・スコールズのプレーに目を奪われたものだ。

63億円の値打ちにふさわしい活躍。

 新型コロナウイルスによるリーグ中断を挟む今季終盤戦で、最も好調なチームと言えるマンUにおいては、ブルーノ・フェルナンデスの姿が強烈に目を引く。

 今年の1月30日に4700万ポンド(約63億円)でスポルティング・リスボンから来たポルトガル人のMFは、デビューを果たした2月1日の第25節ウルブズ戦(0−0)から、リーグ戦8試合で5得点3アシスト。トップ下の新戦力として、その間にチームが奪った計15得点の半数以上に関与している。

 四半世紀以上も前にマンUのユースから一軍に上がり、当初のセカンドトップから中盤の策士として勢力を振るったスコールズとは、同じ攻撃的MFでもタイプは異なる。だが、気づけばフリーになっているポジショニング、巧みなボールさばき、果敢にミドルも狙う積極性とシュート力といった魅力は同じだ。

 マンUでのデビュー戦に関しては、巧妙なチップキックで初得点を奪ったスコールズと同じくネットを揺らすというわけにはいかなかったが、オールド・トラッフォードの観衆がバーンリー戦に続くホームゲーム無得点ながらブーイングではなく、「ブルーノ!」コールを奏でたように、強い好感と大きな期待を観る者に抱かせた。

最強リバプールにも孤軍奮闘した。

 B・フェルナンデスがマンUの選手として見せたファーストタッチは、4-2-3-1システムの2列目右サイドで先発したフアン・マタへのナイスなパスだった。前半15分過ぎには、1トップのアントニー・マルシャルにスルーパス。新顔ながらも立ち上がりから声を出し、ボールと周囲の動きを要求しながら、相手ゴールへ向かう積極姿勢を促していた。

 その3日前、マンチェスター・シティとのリーグカップ準決勝第2レグ(合計2−3で敗退)では、ジェシー・リンガードが2トップの背後で先発していた。

 ユース出身のリンガードは、縦パスを狙えた場面で背後のフレッジにボールを戻して、スールシャールに見切りをつけられた。対照的に、移籍の翌々日に先発フル出場したB・フェルナンデスは、チームでの練習が正味1日だけでも元FWでもある指揮官が「マンUのチャンスメイカー」に求めるプレーを見せようと奮闘していた。

 ウォルバーハンプトン戦の33分には、ペナルティエリア外から移籍後初のシュートも放った。結果は枠外。同じくポルトガル人のMFが主力にいる敵軍のサポーターからは、「ルベン・ネベスの劣悪版だな」とのチャントで野次られもした。

 しかし、アウェイでの第23節リバプール戦(0−2)からノーゴールだったチームの中で、躊躇なくゴールを狙っていたのはB・フェルナンデスのみ。その5分後には枠内へ放ったミドルで、やはりポルトガル人の相手GKルイ・パトリシオにセーブを強いている。

 マンUで最初のイエローカードを受けたのは55分。ボランチのフレッジがラウール・ヒメネスにかわされてしまったのを受けて、テクニカルファウルで止めてみせた。それは勝利への責任感と執念が窺えるシーンでもあった。

周囲を生かすポジショニングとパス。

 移籍直後からマンUの主力らしい姿を見せたB・フェルナンデスだが、チームを活性化した最大の要因は、やはり周囲を生かして力を引き出すことにも繋がる、優れたポジショニングとパスワークにある。

 好例は、第31節シェフィールド戦で2得点に絡んだプレーだ。

 44分のチーム2点目に至る過程では、相手ペナルティエリア手前の左サイドでノーマークになってパスを受けると、中央に流れながらキックフェイントで2人かわし、その間に右インサイドでフリーになったポール・ポグバにボールを叩いたことで、マルシャルにアシストした右SBアーロン・ワン・ビサカのクロスが可能になった。

 74分の3点目では、ポグバがハーフライン付近から入れたクサビをヒールキックで繋ぎ、マルシャルがマーカス・ラッシュフォードとのワンツーからネットを揺らした。

 パス成功率に関しては、移籍後の8試合で75.3%とチーム内でも下から数えた方が早い数字にとどまってはいる。だが、その背景には閃きあるパスを含め、無難な選択ではなく勇敢な選択を好む基本姿勢がある。

ポグバとの縦関係も新たな見所。

 シェフィールド戦は、手術を要した足首も癒えたポグバとの縦のコンビという、新たな見所がマンUに加わったことを示した。試合後、B・フェルナンデスは「ポールとは練習から息が合っていた」と語っていた。

 故障前からパフォーマンスに一貫性がなく、売却も噂されたチーム最大のビッグネームのポグバは、前線に加入したトップクラスへのボール供給を第1任務とする。とはいえ、チャンスメイクのサポート役に回ることで逆に中盤中央での存在感が高まることになりそうだ。

 ポグバは、B・フェルナンデスの進行方向に頭で落とした開始早々の2分から、まずは新たな相棒へのパスを意識していた。実際に届けたパスは前半だけで6本を数える。他のチームメイトの誰に対するパスよりも多い。

 この試合のマン・オブ・ザ・マッチを選べば、リーグ戦ではファーガソン後のマンUで初のハットトリックを達成したマルシャルになるが、『スカイ・スポーツ』のテレビ中継観戦者を最も興奮させたのは、試合開始から実現した両者の初共演だったに違いない。

スコールズ曰く、カントナみたい。

 続くブライトン戦でも、29分にB・フェルナンデスが決めたチーム2点目は、ポグバがお膳立てを務めている。そして、50分の自身2点目はドリブルで駆け上がったメイソン・グリーンウッドからのクロスを、ボックス内でジャストミートして叩き込んだ。

 カウンターの切れ味がファーガソン時代さながらで、鮮やかなフィニッシュは当時のマンUでボレーの名手として知られたスコールズのレパートリーと比較しても、まったく遜色のない一撃だった。

 スコールズは、自身が背負っていた18番をつける新MFについて「エリック・カントナを思わせる」とBBCのインタビューで語っている。

 カントナは、ファーガソン体制下でのプレミア初優勝をはじめ、言わずと知れたマンU黄金期突入を支えた1人。確かに、スコールズが「チームに欠けていた違いを生み出せる素晴らしい選手。味方にパスを通すだけでなく自分でもゴールを狙い、リーダーシップも発揮できる。ドリブルもある」と絶賛するB・フェルナンデスにも、似た香りがある。

 ピンと立てた襟がトレードマークの“キング・エリック”同様、B・フェルナンデスも目立ったインパクトをチームに与えている。

レジェンド候補のラインに乗った。

 B・フェルナンデスのデビューを境に、マンUを取り巻く状況は一変した。プレミアの次期解任監督の最有力候補として1月を終えたスールシャールに、もはや早期解任の声は聞かれない。

 当の指揮官もバーンリー戦後には「力が足らない」「創造性に欠ける」と嘆いた自軍を、ブライトン戦後には「確かなクオリティがある」「見ていてワクワクするほど素晴らしい」と表現するまでになっている。

 もちろん、在籍5年間でチームを4度のリーグ優勝と2度のFAカップ優勝へと導いたカントナと、実質的にマンU歴3カ月目でしかないB・フェルナンデスを同じ土俵で語ることはできない。

 だが、今季中断前と再開後に出場した国内のカップ戦と欧州でのヨーロッパリーグ戦を含む無敗の計13試合を見る限りは、マンUでの滑り出しからトップ下のレジェンド候補ラインに乗ったとは言える。

 同時にチームも、ついに「マンUらしいマンU」へと向かうレールに乗ったと言える。

文=山中忍

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