開幕から快進撃を続けてきた巨人に暗雲が立ち込めている。

 7月9日の甲子園球場での阪神戦のスタメンから坂本勇人内野手の名前が消えていた。

 実は雨天中止となった前日に本人が脇腹痛を訴え、中止決定前に発表されていた先発メンバーからも外れていたのである。

「ムリさせる必要はないというところですね。本人が試合前に脇腹をちょっと気にしていたということなので。明日は様子を見て……」

 原辰徳監督はそう説明していたが、結果的には翌日の試合も大事をとっての欠場となった訳である。

主力選手に故障禍が広まっている。

 坂本は2018年の7月に左脇腹痛で出場選手登録を外れて、復帰までに約1カ月かかった過去がある。いわば古傷の再発。それだけに慎重に慎重を期したということなのだろう。

 しかもここにきての巨人は、坂本だけでなく主力選手に故障禍が広まっているのが気になるところだ。

 7月4日の中日戦では先発した田口麗斗投手が3回1安打無失点の好投をしながら、左太もも裏の張りを訴えて4回のマウンドに上がることなく降板。翌5日に登録を抹消されている。

 さらには田口が抹消された5日の中日戦では1点を追う9回にマウンドに上がった守護神、ルビー・デラロサ投手が先頭のダヤン・ビシエド内野手に本塁打を浴びた直後に異変を訴えた。

 すぐさま宮本和知投手チーフコーチがマウンドに走り、本人と話すと両手でバツを作って降板を決定。デラロサは左脇腹の肉離れという診断で、こちらも6日に登録を抹消されることになった。

3人とも「筋肉系の故障」という共通点が。

 次々と起こった故障禍だが、この3人に共通しているのが、いずれも筋肉系の故障だということだ。

 しかもこの現象は巨人だけではなく、開幕から2週間が経過した前後から球界全体で目立ってきている現象なのである。

 ざっと調べると中日では6月27日に又吉克樹投手が左腹斜筋損傷、7月3日にはソイロ・アルモンテ外野手が左脇腹痛、9日には柳裕也投手が右腹直筋の挫傷で登録を抹消された。

 ソフトバンクも長谷川勇也外野手が7月7日に右脇腹筋挫傷で抹消されると、8日にはマット・ムーア投手が左ふくらはぎの筋損傷で登録を外れた。

 オリックスも6月27日に山岡泰輔投手が左内腹斜筋損傷、7月8日には比嘉幹貴投手が左大腿二頭筋損傷でそれぞれ一軍登録から外れている。

この現象を危惧していた人がいた。

 この他にも7月4日には日本ハムの堀瑞輝投手が背中の張りで、5日には西武の金子侑司外野手が首痛で、と続々と筋肉系の故障で戦線離脱を余儀なくされている。

 特に7月3日から9日までの間には毎日、誰かが筋肉を痛めてチームから離れざるを得なくなっているということなのだ。

 もちろんプロ野球選手にとって故障はつきものといえばつきものである。ただ、開幕から1カ月もしない内に、これだけ同じような故障者が続出するのは、まさに“異常事態”と言ってもいいことかもしれない。

 実はこの現象を危惧していた人がいた。

 日本より6週間早い5月5日に開幕した韓国プロ野球のサムソン・ライオンズで二軍の指揮を執っている落合英二監督だ。

日本とほぼ同じ現象が、韓国でも起きていた。

 6月3日付の中日スポーツの名物コラム「龍の背に乗って」で渋谷真記者が、落合監督のこんな証言を紹介している。

「肉離れが多発しているんですよ。どの球団にも1人は出たって感じです。投手なら脇腹、野手はふくらはぎ、太ももですね」

 この時点で韓国プロ野球も開幕からほぼ1カ月が経過しようとしている時期だった。そこでいまの日本とほぼ同じ現象が、韓国でも起こっていたということだ。

 考えられる理由として落合監督が推察したのが、やはり新型コロナウイルスによる開幕延期と調整期間の問題だという。

「練習期間にはユニホームを着ないでしょ? 体が締め付けられるっていうか、やはり感触が違うんです」

戦闘モードでの体の負担の違い。

 要は本当の意味での戦闘モードに入ったときの体の負担の違いということだ。

「無理をするなと頭ではわかっていても、いざ試合となれば本能がリミッターを振り切ってしまう。韓国で起こったことは、日本でも起こり得る」

「120試合といつもより短いシーズンではあるが、序盤は自分が思っている以上にブレーキが必要だということだ」

 同記者はこう結論付けている。

 専門家の立場から見るとどうなのだろうか。何人かの選手のケアと治療を行っているあるトレーナーに聞くと、やはり調整期間の違いと急仕上げの問題という見解が返ってきた。

「プロ野球選手は自主トレからキャンプ、オープン戦と一連の流れの中で1つ1つ積み上げるように体と気持ちを作って開幕に臨んできます」

「いつもとは違う仕上がりで開幕を迎えた」

 例年とコロナ禍の中での今年の違いを、そのトレーナーはこう説明する。

「今年はキャンプからオープン戦に入った段階で1回、その過程が途切れています。キャンプで基本的な体が出来上がったところで試合を重ねて、独特の緊張感や咄嗟の動きなどにも徐々に慣れていく。

 そうして最終的に心身ともに開幕を迎えられる状態が出来上がる訳ですが、今年はその過程がかなり違った。どうしても急仕上げが否めませんし、いつもとは違う仕上がりで開幕を迎えた選手は多いはずです。

 そこに気づかずにいつもと同じ感じで動いてしまうと、筋肉への負荷が自分の想像以上に強くなってしまって、それが故障の原因になっているというのは十分にあり得ると思います」

今年のチームマネジメントの重要なポイント。

 いつもは1つ1つ積み上げて準備をしていく過程が、今年は一度に2つか3つずつ積み上げて開幕を迎えなければならなかった。

 そこでいきなり実戦で「リミッターを振り切った」動きをすると、筋肉が悲鳴をあげてしまう。

 それがこの筋肉系の故障が頻発している原因として推察されることだ。

 7月10日からは5000人の人数制限はあるものの、観客をスタンドに入れての試合もスタートする。8月1日には収容人員の半分の観客を入れた中で選手たちはグラウンドに立つことになる。

 ただ、その中で手を抜くのではなく、どう動きを制御しながらパフォーマンスを上げていくのか。すでにここまでけが人が出てしまったが、残された選手たちにとってはコロナ禍の中での今年のシーズンを乗り切るためには、これも1つの大きな課題となるはずである。

 120試合に短縮されたシーズンでは、主力選手のケガでの離脱はよりその意味が重くなってしまう。危ないと思ったら決してムリをしないし、させないことも、今年のチームマネジメントの重要なポイントになるはずである。

文=鷲田康

photograph by Kiichi Matsumoto