今季のブンデスリーガ2部を2位でフィニッシュして、見事1部リーグ復帰を果たしたシュツットガルト。2部降格から1年での1部復帰を果たすために、2部最高額の人件費をかけて戦力を揃えていただけに、昇格はある意味順当な結果とみられてはいる。だがもし遠藤航がいなかったらどうなっていたか。そう考えるとゾッとする。

 選手個々の能力が高くても、サッカーはそれだけでは機能しない。また、ボール保持率を高めて決定機を数多く作っても、点が取れなければ試合には勝てない。そして堅実な試合運びができないと、カウンターやセットプレーで失点を喫してしまう。

 事実、今季のシュツットガルトは不用意な試合運びや軽率なミスにより勝ち点を落とす試合がかなりあった。昇格争いのライバルと目されていたハンブルガーSVもそのような悪循環から抜け出せず、残り2試合で4位に転落して昇格を逃した。

 正直、シュツットガルトが同じ運命をたどる危険性もあったのではないかと思う。チームには、何かあったら崩れていってしまうような不安定さがあった。

遠藤はチームの要になっていく。

 そんなチームが崩壊せず今季を乗り切ることができたのは、遠藤がぶれない芯となったからだ。開幕後に加入したことで当初は出場機会を得られずにいたが、第14節のカールスルーエとのダービーで初めてスタメンに起用されると、中盤で縦横無尽に駆け回り一気にポジションを獲得。その後、遠藤なしのチームは考えられないほどの存在感を発揮するようになった。

 相手チームは、シュツットガルト戦となると自陣深くで守り、じっくりとミスを誘って素早いカウンターからゴールを奪おうとするのだが、遠藤はそのカウンターの起点をことごとく潰した。攻撃を仕掛けようとするところにすっと顔を出して、ボールを奪取する。コロナ禍で無観客試合になる前、遠藤のカウンター潰しに対してサポーターが大きな拍手を送るシーンを何度も見た。そのプレーの大切さを、みんな理解しているのだ。

遠藤、希望のヘディングシュート。

 攻撃面でも、遠藤が繰り出す縦パスがチャンスの起点となるシーンが多かった。3月のビーレフェルト戦後には「自分がいい形でボールを受けた後に相手の背後を狙う動きとか、いい動き出しがあれば、パスを出せる自信はあった。プレッシャーのある中でもチャンスメイクしていくことが求められていると思います」と語っていた。遠藤は、試合の流れを作り出すだけでなく、そこから決定機につなげていくプレーにチャレンジしていた。

 さらに積極的なミドルシュートでゴールを襲い、シーズン終盤はゴール前にタイミングよく顔を出す機会も増えて攻撃に厚みを加えた。そして初ゴールとなったハンブルガーSV戦でのヘディングシュートは、今季チームで最も価値あるゴールの1つとも言えるものだった。

 それは第28節、昇格を争うライバルとの直接対決で炸裂した。この試合までの直近4試合は1分3敗と良くない流れがあり、加えてシュツットガルトは前半だけで2点を失っていた。そのまま試合を落とすようだと、ズルズルと転落していってしまう……。

 遠藤のゴールはそんなチームに大きな希望を与えた。この得点で勢いを取り戻したチームは終了間際のゴールで逆転して、2位に浮上した。まさに、今季の行方を左右するゲームの1つだったといえるだろう。

 チームの主軸として臨む2020-21シーズン、遠藤には1部でその実力を存分に発揮してもらいたい。新しいチャレンジに期待が高まる。

前半苦しんだ原口元気。

 ハノーファーでプレーする原口元気の今季は、順調な船出とはならなかった。ミルコ・スロムカ前監督から信頼を受けることができずに、スタメンから外される試合が多く、地元紙はプレー内容への解釈がかみ合わず、意見の衝突があったと報じた。

 これまではバイエルンやドルトムント、RBライプツィヒやボルシアMGが対戦相手だった。ヘルタ時代はヨーロッパリーグに参戦して、過密日程を戦った経験もある。そんな自分が各国代表選手がいるわけではないブンデスリーガ2部で、満足なプレー機会を得られない。さぞ悔しい思いをしたことだろう。

「1部と2部ではサッカーの質が違う」と、いろいろな選手が口にする。1部経験者が思うように本領を発揮できず、2部クラブでポジションを失うことはよくある。ハイレベルな技術と緻密な戦術での駆け引きより、体をぶつけあい、勢いと迫力で相手を凌駕できるかを競うような雰囲気の中で、それでも求められるパフォーマンスを発揮しなければならない。

「本当に終わると思ったから」

 それでも原口は中心選手として全幅の信頼を置いてくれる新監督ケナン・コチャックの下で息を吹き返し、後半戦は質の高いプレーを見せた。ポジションもサイドの攻撃的MFに限らず、ボランチ、インサイドハーフ、トップ下でも起用されて、どこのポジションでもチームを牽引した。昇格にこそ手は届かなかったが、一時期は3部降格の危機にさえあったことを考えると、次へつながる大事なシーズンだったと言えるのではないだろうか。

 ウィンターブレイク直前のシュツットガルト戦後に、原口はこう語っていた。

「うまく踏ん張れた。ここでズルズルいったら本当にキャリアが終わると思ったから」

 コチャック監督就任がチームにとっても原口にとっても大きな転機になったことは間違いないが、原口はスロムカ前監督の下でも先発で起用されるまで立ち位置を回復させていたことも忘れてはいけない。

「ゲンキのプレーを見たか? 彼が見せられるプレーはすごいんだ。毎試合プレーして、ゴールを決めるくらいじゃないとおかしいくらいだ」。スロムカ前監督は以前、そう話していたこともある。

情熱と決意で必死に踏ん張った。

 人間関係における“合う合わない”は、本人の努力では何ともならないことも多い。やってもムダなんじゃないか、なんのために頑張ってるんだ、と悲嘆にくれることだってあるだろう。でもそこでネガティブスパイラルに落ち込んでしまったら、次にチャンスが来た時に這い上がることができないかもしれない。

 苦しい時こそ人間の真価が問われる。

 自分の心の中で燃えているサッカーへの情熱、今を無駄にしたくないという決意、このまま終われるかという野心。原口は必死に踏ん張り、頭の中を整理して、サッカーと向き合って、自分を信じて、そしてこのシーズンを乗り越えたのだろう。

 原口は、選手としても人間としても大きな成長を果たしたのではないだろうか。

宮市は「プロとして模範的」。

 宮市亮は今季、大きな負傷をせずにシーズンを終えるという最大の目標はほぼ達成することができた。

 第28節ハイデンハイム戦での競り合いで膝をぶつけて、「膝に水が少したまっている」(ヨス・ルフカイ監督)ため次節を欠場。第30節ボーフム戦では再び先発起用されたが、残り4試合は出場機会なしでシーズンを終えた。

 それでもリーグ戦29試合出場はチームのフィールドプレーヤーで最多。ルフカイ監督は「リョウの調子は素晴らしくいい。プロとして模範的な選手だ。オフェンスにおいてスペシャルなクオリティを誇っている」と絶賛し、他のどの選手よりも重宝した。

 一時期は右サイドバックでもプレーし、攻守両面でチームを助けた。2部リーグでは別次元のようなスピードを活かした突破はチームにとって大きな武器となり、チーム最多の7アシストをマークした。

 膝の十字靱帯断裂の重傷により復帰さえ危ぶまれていた時期があっただけに、怪我への不安から解放されて、思いっきりプレーできた今季の喜びは大きかっただろう。

 だからこそ、願うは次のステップだ。宮市は来季に向けてさらなるバージョンアップを図りたいと思っているに違いない。

「なんとかチームを勝たせたい」

 あれは第22節ドレスデン戦でのこと。終了間際に絶好機を迎えた宮市だが、シュートは無情にもポスト直撃。試合は引き分けに終わってしまった。試合後にはミックスゾーンで悔しさをにじませながら、こんなことを話してくれていた。

「(シュートを外して悔しいというのは)怪我をしているときは感じられなかったことでもあって、試合に出続けているからこそこういう問題も出てくるのかなと。ポジティブに考えればそういうところもありますけど、やっぱり結果を出していかないといけないです。

 これだけ試合で使ってもらえていますし、なんとかチームを勝たせたい。やっぱりこのチームにはすごくお世話になっていますし、僕が勝たせられる試合は何試合もあったので、そういうところを決めきっていかないと。次のステージへ、選手としてまた上に上がっていくにはそこが大事になってくると思います」

決して2部で終わる選手ではない。

 負傷離脱している間、ザンクトパウリは常に宮市のことを親身にサポートして、契約延長もしてくれた。受けた恩義にはプレーでしっかりと恩返しがしたい。

 いいプレーをしたで終わりたくはない。誰よりも速いというだけでは納得がいかない。アシストやゴールをもっと積み重ねて、チームを勝たせられる存在になるために、そして自分の選手としてのキャリアをここからさらに輝かせるために、宮市は努力を続けている。

 今季14位と低迷したザンクトパウリは、ルフカイ監督を解任して同クラブのU-19チーム監督だったティモ・シュルツの新監督就任を決めている。

 スポーツディレクターのアンドレアス・ボルネマンは「ティモは若く、情熱的な監督だ。クラブのことを誰よりもよくわかっている。魅力的なオフェンシブサッカーを志向する彼のスタイルがクラブの意向としっかり合致した」と期待をかけている。

 今季のチーム総得点は、降格したドレスデンの32得点の次に少ない41得点。抜本的なてこ入れが必要なだけに、シュルツ監督の手腕に注目が集まる。そして、宮市には攻撃陣の主軸としての活躍を期待したい。決して2部で終わる選手ではないはずだから。

文=中野吉之伴

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