新型コロナウイルス感染症拡大は、高校・大学サッカー界にも大きな影を落としている。

 特に進路を決める時期に差し掛かった学生にとっては、最後のアピールの場となる公式戦を奪われているのが現状だ。サッカーを続ける選択肢を持っていても、JリーグやJFLなどのクラブ、大学への練習参加がままならず、不安な毎日を過ごす学生が数多くいる。

 8月3日、そんな学生たちを救うべく「コネクティング・サポート・セレクションin九州(株式会社リトルコンシェル主催)」が熊本県の大津町運動公園球技場において行われた。これはJクラブ、JFLクラブ、大学サッカーのスカウトが集結し、高校生と大学生が進路を切り開くためのセレクション。いわば、金の卵たちの合同トライアウトだ。

 九州エリアのほか、今後は中国、関西、東海の計4地域でそれぞれ2日間に渡って実施。各会場で大学、高校の部に分かれ、20分ゲームを4本。1本ごとにメンバーが入れ替わるミックスチームで行われる予定だ(東海エリアは高校の部が中止、大学の部が延期)。筆者も九州のトライアウトに同行したが、そこでは選手たちのさまざまな想い、覚悟、そしてトライアウトの難しさを目の当たりにすることができた。

 今回のコラムでは、異なった背景で臨んだ2人の選手にフォーカスを当て、彼らの胸の内、そしてトライアウトの意義に迫った。

プロ入りを目指す大学4年生。

 大学生の部で目に留まったのは、鹿屋体育大のFW伊藤龍生だ。プロ入りを目標に掲げる大学4年生である。

 中学時代はヴィッセル神戸U-15、高校時代は名門・米子北高(鳥取)でプレー。高さと強さを駆使したポストプレーと裏への抜け出しを得意とする大型ストライカーは、高校サッカー選手権で活躍した後、九州の強豪大学に進学していた。

 大学では1年時から出場機会を掴むなど順調なスタートを切ったが、次第に急成長する同期や後輩たちの影に隠れ、4年生になったいまもプロからのオファーはゼロだった。

「最初は『どこからかは声がかかるだろう』と思っていました。でも、だんだんベンチに回ることも増えて、さらに同い年の藤本一輝(FW・大分トリニータ内定)、1学年下の根本凌(FW・湘南ベルマーレ内定)がJクラブの練習参加に呼ばれている現状を見ていた。一輝はすでに大分でJデビューをしているし、凌も3月の段階で(飛び級での)湘南入りが決まり、他の人の結果を見て涙が出たのは初めてだった。2人に負けていると認めたくはなかったけど、痛感させられました」

 鹿児島県にもコロナ感染者が出たことで、大学の活動はストップ。さらにアピールの場となる総理大臣杯は中止、九州大学リーグも開幕が9月に大きくずれ込むなど、重要な時期に自分を表現する場所を失っていた。

「2〜3週間前に今回のセレクションがあると聞いて、『ここで絶対にアピールする』と参加を決めました。右足の太ももに軽度の肉離れを起こしていて、踏ん張れない部分もあったけど、このチャンスを逃したくなかったので、治療しながら準備してきました」

「覇気の無さ」を感じた伊藤のプレー。

 トライアウト当日、彼の右腿にはガッチリとテーピングが巻かれていた。

 1本目、伊藤は不慣れな3-4-1-2の右ウィングバックでプレーをしたこともあり、ボールを触る機会が少なかった。だが、本来のFWのポジションで出場した3本目は、持ち前のオフ・ザ・ボールの動きで相手DFと駆け引きをしながらスペースに何度も顔を出して相手マークに歪みをもたらすと、味方がインターセプトした瞬間には鋭い動きで抜け出し、シュート。ゴールこそ奪えなかったが、この20分だけで3本ものシュートを放った。

 しかし、同じくFWで出場した4本目は、伊藤のもとにボールが集まらなくなった。前線で動き直しをしながら、相手のギャップを突いてボールを引き出そうとするもなかなか思い通りに進まない。徐々にうつむく姿が多くなり、存在感を発揮できないまま最後の20分が過ぎていった。

「3本目は本来のポジションだったし、(鹿屋体育大の)チームメイトも多かったので、いいタイミングでパスが来てシュートまで持ち込めた。でも、4本目は他大学の選手が多く、なかなか連携面が合わなかった。パスがほしいタイミングで来なかったり、シュートまで持ち込めるスペースに動いても見てもらえなかったりと、プレーしながら難しさを感じていました」

 伊藤が話すように“急造チーム”のなかで持ち味を出すことが求められるトライアウト形式において、連携面は重要となる。初めてプレーする選手たちと意思疎通を図ることは簡単ではない。しかし、筆者が伊藤に対して感じたのは「覇気の無さ」だった。

スカウトが見る、ピッチでの振る舞い。

 彼らはあくまで見てもらう立場にある。スタンドにはJリーグを含めたプロ15クラブ以上のスカウトに加え、19もの大学のスカウトや監督が視察に訪れていた。そこで求められるのはチームの完成度よりも、選手ひとりひとりが何をできるか。また、ピッチ上でどう振る舞っているかが重要な選考基準となる。

 闘争心があるのか。キャプテンシーがあるのか。自己主張ができるのか。技術だけにとどまらず、そういった発信力、行動力はスカウト陣にとって大きな評価につながる。うまくいかない難しい環境でどんなプレーをするか、そこに大きな差が生まれるのだ。

 パスが来なければ味方に要求すればいい。自分のプレーを味方に伝えてコミュニケーションを図ればいい。伊藤はそれができていなかった。

 トライアウト後、彼は涙を流しながらこう言葉を振り絞った。

「悔し涙を流すとは思わなかった」

「小さい頃からプロサッカー選手になると決めて、ずっとサッカーが大好きで、米子北で鍛えられ、鹿屋(体育大)でもいろんな壁にぶち当たりながらも何とかしがみついてきました。でも、一輝や凌が活躍する中で、僕は周りから『性格が優しすぎる』と言われてきた。もっと激しく要求したり、ゴールへの執着心を表現しないといけないと思っていたのに、今日は表現できなかった。本当に後悔しています。悔し涙をここでも流すとは思わなかった。自分が本当に甘かったことを痛感しましたし、もっと死に物狂いにならないといけないと教えてもらいました」

 コンディションに不安を抱えながらも、伊藤の持ち味であるオフ・ザ・ボールの動きの質、シュートまで持ち込む推進力とパワーは垣間見ることができた。だが、もっとできた。今回のトライアウトは「後悔」の念だけ残して終わってしまったのだ。

 しかし、それこそがこのトライアウトに出場した大きな意義でもある。

「今日来てくださったスカウトの方々のほとんどが『伊藤はダメだった』という評価をしたと思います。でも、そこから少しでも成長できれば、『あいつ、あのトライアウトをきっかけに変わったね』と思わせることができるかもしれない。だからこそ、もっとゴールを貪欲に目指したいし、余計な優しさを捨てて、全身全霊でやっていきたい」

 プロに進めば、さらに厳しい世界が待ち受けている。要求できない選手は当然、すぐに埋もれていく。「なぜ俺を見てくれないんだ」ではなく「俺を見ろ」。パスが出るまで要求しながら動き続ければ、必ずチャンスはやってくる。ストライカーはその少ないチャンスを生かさないと評価と信頼を掴めない。このトライアウトで改めてその意味を深く理解したことだろう。

溌剌としたプレーが印象的だった青木。

「高校生の試合を見て、こっちの方が気持ちも前面に出ているし、スカウトの人も興味深く見ていると思います。本当に甘さを感じました」

 唇を噛み締める伊藤の視線の先では、高校生の部がスタートしていた。いまいち試合に入れていない選手が多かった大学生とは違い、ピッチ内では要求の声が飛び交い、球際の激しい白熱した試合が展開された。

 その中で一際、気合いに満ち溢れていた選手がいた。丸坊主頭の東福岡高3年・FW青木俊輔だ。

 青木は、すでに関東の強豪大学から複数のオファーをもらっていた。だが、どうしても今回のセレクションに参加したかったのだという。

「僕の夢は10代でプロになって、23、24歳で海外に行きたい。その目標から考えると高卒でプロになるという想いが強いんです」

 全国屈指の強豪でレギュラーを獲得するも、未だプロのオファーはない。大学に進学することも悪い選択ではないが、高卒でプロ入りすることへの想いは強い。

「(トライアウトの参加は)めちゃくちゃ悩みました。コロナの影響もあって、プロの練習に参加できない分、内定をもらえるチャンスの時期も遅くなる。となると、大学の話がなくなり、最悪の場合は何もないまま高校生活が終わってしまうリスクもあります。でも、やっぱり僕の中ではどうしても『10代でプロになる』という思いが強くあって、それを達成するために東福岡に来た。実際に中村拓海(FC東京)さんや荒木遼太郎(鹿島アントラーズ)さんの姿を見て、『絶対に自分も』と思っていたので、どうしても諦めたくなかった」

「人生が変わる大事なチャンス」

 トライアウト前日まで九州大会を戦うハードな日程だったが、青木の目はギラギラしていた。

「プロのスカウトの皆さんに見てもらえる機会があったら絶対にアピールしようと思っていました。(コロナの影響で)なかなか試合ができず、この先を見てもリーグ戦や選手権も開催できるかどうか分からないので、自分を見てもらえる機会は少ないと思っていました。それでもプロに行きたい気持ちは変わらないですし、このトライアウトは僕にとって人生が変わる大事なチャンスだと捉えています。

 今回の目標は自分のストロングポイントをもう一度、整理して(力を)出し切ること。ドリブル、左右のシュート、サイドでの仕掛け、突破してからのクロス。後悔したくないので、人生をかけるつもりで全てを出し尽くします」

 右サイドハーフで出場した1本目。得意のドリブルで右サイドを切り裂いてチャンスを作り、チームに勢いをもたらすと、その後スルーパスに鋭く抜け出して先制点を叩き込んだ。逆転された後に再び右サイドを突破し、角度のないところから同点ゴールを突き刺すなど、2得点の猛アピール。

 2本目、3本目は異なるシステムを敷いたが、それでも青木は大胆かつ堅実なプレーを見せた。ゴールこそなかったが、ボールを持ったら迷わず仕掛ける姿勢、そしてボールを奪われてもすぐに守備に加わり、激しいプレスバックやボール奪取を見せるなど、攻守において抜群の存在感を放っていた。

「結果にこだわっていたので、形にできたことはよかった。緊張感はあったのですが、僕は見られている方が力を発揮できるし、ファーストプレーで仕掛けてうまくドリブルができたので、いい形で試合に入って楽しめました。ゴール以外にも、積極的にボールを受けて流れを作ることも意識しました。もちろん全て納得はしていませんが、あとは結果を待つのみです。もっと積み重ねていきたいですし、このトライアウトを経験できてよかったと思えるようにこれからを過ごしたいです」

明暗が分かれたトライアウト。

 高校生、大学生とカテゴリーは違えど、プロになりたい気持ちは同じ。だが、残酷にも明暗がくっきりと分かれた。ただ、どちらにとっても今回のトライアウトは分岐点となる。

「絶対にこの悔しさを忘れません。こういう結果を招いたのも自分なので、巻き返すのもプラスにするのも自分以外いない。這い上がります」(伊藤)

「この時点でプロの話が何もないので、厳しい立場にいることは理解している。でも(可能性は)ゼロではないので、今回のトライアウトのように後悔をしないようにチャレンジし続けたいと思う」(青木)

 ここで味わった思いを今後にどうつなげていくのか。

 声がかかった。声がかからなかった。この先の答えは決してそれだけでない。

 今回のトライアウトの経験を生かして今後のサッカー人生が大きく変わる。すべては自分次第だ。

 最後まで走り切る姿をこれからも応援していきたい。

文=安藤隆人

photograph by Takahito Ando