満を持してというのかようやくというのか、格闘技イベントRIZINが興行を再開した。8月9日、10日の2DAYS。2月の浜松大会以来の開催で、会場は格闘技初使用の「ぴあアリーナMM」である。

 この半年間、無観客大会を行なわなかったのは「(同じ場所で)お客さんと選手がエネルギーを交換し、感情を共有するのがRIZIN」(榊原信行CEO)というスタンスからだ。とはいえ予定されていた3大会(横浜、仙台、大阪)がキャンセルとなったのは痛かった。トータルで7億円もの売り上げを失ったという。

クラファンはうまくいったが、それでもギリギリ。

 興行再開にあたり、RIZINはクラウドファンディングを実施している。

 題して「RIZIN活動継続クラファン」。

 この2DAYS興行だけでなく、RIZINの存続そのものに必要な資金を一般ファンから募ろうということだ。説明文には、榊原CEOの悲痛ともいえる言葉が並んだ。

「現在『RIZIN』が置かれている状況は、私のやせ我慢だけでは乗り切れない状況にあるのです」

 支援のリターンは、人気選手のサイン入りグッズやトップ選手の「オンラインディナーショー」(試合の裏話などのトーク)、榊原のオンライン講演会などさまざま。

 目標金額の5000万円は大会直前になって達成され、その後も金額が増え続けている。

 ただ今後の活動を考えると、5000万円でも十分ではない。それも記者会見で主催者側が言及していたことだ。なりふり構っていられない。そんな雰囲気だった。

興行再開……だが“元に戻った”のではない。

 大会開催にあたっては新型コロナウィルス感染予防の取り組みも欠かせない。

 入場時の検温、手指消毒はもちろんのこと、事前の来場者情報登録も必須。厚生労働省の接触確認アプリ、神奈川県の「新型コロナ対策パーソナルサポート」LINEへの登録も推奨された。

 7月に開業したばかりのぴあアリーナMMは、最大1万2000人ほどの収容人数。今回は“密”を避けて1席ずつあけての着席、集客の上限は5000人となる。が、それでも両日ともに満員にはならなかった。お盆休みながら感染者急増の世の中、そもそも外出しようという気にならない人も多かったはずだ。実際、プロレスも含め多くの団体が集客に苦戦している。

 興行は確かに再開した。しかしそれは“元に戻った”ということではない。

「(コロナ禍は)これが現実。受け入れるしかない。大事なのは受け入れてどうアクションを起こすか。新しいRIZINの価値を創造していきたい」

 初日のオープニングで、榊原はそう語っている。

 続いて場内のスクリーンにクラウドファンディング支援者の名前が表示され、試合がスタート。マッチメイクもまた、当然ながら今まで通りとはいかなかった。なにしろ外国から選手を呼ぶことができないのだ。

外国人選手抜きでのマッチメイクの難しさ。

 強さの競い合い、その水準を高める意味でもスケール感を出す意味でも、“メジャー格闘技イベント”には強豪外国人が欠かせない。

 たとえば2000年代前半にコロナ禍が発生したとして、ピーター・アーツやアーネスト・ホーストのいないK-1、エメリヤーエンコ・ヒョードルやミルコ・クロコップが来日できない状態でのPRIDEは考えられない。

 RIZINは当時に比べれば主力に日本人が多いが、それでもマッチメイクは難しいものになる。特に日本人トップ選手の相手が見つけにくい。今回は全試合が日本人選手、日本在住の外国人選手たちの対戦になった。UFCとの契約を終え、今年からRIZINに参戦している井上直樹は拠点にしていたニューヨークから帰国し、練習環境を変えて試合に臨んだ。

「ニューヨークでは練習ができなかったですし、不安はありました」と井上。それでもリアネイキッドチョーク(裸絞め)で一本勝ちを収め、ワールドクラスの実力を示している。

予想していた以上に中身が濃かった2日間。

 一本、KOが多かったこともあり(判定決着は2日間・18試合で3つしかなかった)、大会を見た印象は“これくらいしかできない”ではなく“ここまでできる”だった。

 日本人対決には出世争い、生き残りをかけた潰し合いというシビアな要素もある。久しぶりの実戦という面も含め、選手たちのモチベーションは総じて高かったようだ。前女子王者の浜崎朱加のように「こんな時期だからこそ」と出場を望んだ選手もいた。

 2日目のメイン、すなわち大トリとなるバンタム級王座決定戦ではライジングスターである朝倉海が紆余曲折を経て這い上がってきた実力者・扇久保博正にTKO勝利。海が圧倒的と言うしかない強さを見せつけたことで、昨年夏以来となる堀口恭司との再戦がさらにバリューを増した。この“メガリマッチ”は大晦日に行なわれる模様だ。

新しいスタイルでの興行に手応えアリ!

 海だけでなく浜崎にホベルト・サトシ・ソウザ、元谷友貴といった上位陣があらためて力量を示し、一方で修斗王者の斎藤裕、神龍誠、井上たちは“RIZINファイター”として名を上げた。結果として、この2日間・18試合はRIZINにとって大きなプラスだったと言えるのではないか。

 誰もが、試合ができること自体に特別な喜びを感じていた。顔を売るため、あるいは生き残るために必死だった選手も多い。

 運営サイドにとっては、限定条件のもとでの“総力戦”。そこでもたらされたのは日本勢の底上げだ。いつになるかは分からないが、次に彼らが“世界”と対峙する日がより楽しみになった。

 そしてクラウドファンディングに参加し、会場もしくは配信で大会を見たファンは、今まで以上にRIZINを深く愛するようになったはずだ。

文=橋本宗洋

photograph by (C)RIZIN FF SUSUMU NAGAO