今季の欧州王者は、史上初となる全試合一発勝負のミニ・トーナメントで決することになった。

 今週から12日間にわたって、チャンピオンズリーグの準々決勝以降がポルトガルの首都リスボンで集中開催されるのだ。パンデミックの副産物ではあるが、W杯やEUROの決勝トーナメントのようなハイレベルな短期決戦はとても楽しみだ。

 疫病の影響により大会が中断されていた間、UEFAが残りのシーズンの代替案を模索し、6月中旬にこの新方式を決定。先週末にラウンド16の未消化分が行われ、クライマックスに臨む8チームが出揃った。

 ただし非常時のシーズンらしく、そこにあるはずのチーム名がない。昨季王者リバプール、ダントツの最多優勝回数を誇るレアル・マドリー、イタリアの盟主ユベントス、昨季準優勝のトッテナム・ホットスパーがラウンド16で敗退。つまり、過去4シーズンの優勝チームだけでなく、過去3シーズンの全ファイナリストがベスト8にひとつも残れなかったわけだ。世の中と同じように、波乱に満ちている。

“いびつな”トーナメント表に。

 7月中旬に決まったトーナメント表もいびつだ。

 片方の山には、アタランタ(イタリア)、パリ・サンジェルマン(フランス)、ライプツィヒ(ドイツ)、アトレティコ・マドリー(スペイン)と、過去に優勝したチームがいない。かたや、もうひとつのやぐらには、バルセロナ(スペイン)、バイエルン(ドイツ)、マンチェスター・シティ(イングランド)、リヨン(フランス)が入り、彼らの合計優勝回数は10(バルセロナとバイエルンが5度ずつ)。全体でフランス勢の数がイングランド勢を上回るのも、見慣れない欧州8強の光景だ。

 一発勝負のノックアウトラウンドでは、何が起こっても不思議ではない。それでも、アタランタ対パリ、ライプツィヒ対アトレティコ、シティ対リヨンは順当にパリ、アトレティコ、シティが勝ち進むのではないか。

バルサvs.バイエルンは戦力が拮抗。

 唯一、戦力的に拮抗しているのが、バルセロナ対バイエルンだ。

 前述した優勝回数が示すように、どちらも伝統と風格を備えるクラブ・フットボール界の巨頭である。

 ともに昨季は、チャンピオンズリーグでのちに優勝するリバプールの前に屈し(バルセロナが準決勝、バイエルンはラウンド16)、国内では連覇を達成。しかし今季はバイエルンが8連覇を遂げた一方、バルセロナは終盤にレアルに首位の座を譲り渡し、3連覇ならず。その要因は、複数のクラブ首脳陣の辞任や監督交代の不手際、リオネル・メッシら主力選手とコーチ陣の不仲など、クラブ内部の騒動にありそうだ。

 実際、リーガで首位に立っていた時に指揮官を代え、新監督のもとで順位を下げてしまったのだから、目も当てられない。ナポリとのラウンド16第2戦は切り抜けたが、次の相手はそんな状態で乗り越えられる壁には見えない。

レバンドフスキは7試合13得点!

 ドイツの巨壁バイエルンは逆に、シーズン途中の監督交代が吉と出た。一時は7位にまで順位を下げたが、最後の20試合を19勝1分で駆け抜けて見事に逆転優勝。アシスタントから昇格したハンジ・フリック新監督の手腕もさることながら、ロベルト・レバンドフスキの存在が何よりも大きい。

 ポーランド代表のエースストライカーはブンデスリーガで34ゴールを叩き込んで得点王となり、CLでもここまで13得点でスコアランキングの首位に立つ──どちらもキャリアハイだ。また先週末のチェルシーとのラウンド16第2戦でも2度ネットを揺らし、今季のCLでは出場した全7試合でゴールを奪っている。

 今季決勝の2日前に32歳となるベテランが、ドルトムントに所属していた7年前の決勝で、現所属先に敗れて逃した悲願のタイトルを手にするか。チームも圧倒的な攻撃力を示しており(今大会の総得点31、次点はパリとシティの20点)、バイエルンを優勝候補の最右翼に位置付ける向きも少なくない。

来季以降もCL参加のマンCも充実。

 本稿執筆時点の優勝予想オッズ(ウィリアム・ヒルより)で、バイエルンを上回るチームがひとつだけある──先週末に8強入りしたシティだ。

 彼らもピッチ外の問題に揺れていたが、ファイナンシャル・フェアプレー違反の疑惑は証拠不十分となり、来季以降もこの大会に出場できることになった。その影響はピッチ上にもポジティブに表れており、以降のプレミアリーグを全勝したあと(FAカップ準決勝ではアーセナルに敗れたものの)、盤石に見えたレアルにも競り勝って、リヨンとの準々決勝に駒を進めた。

 ペップ・グアルディオラ監督の戦術的な洞察力と、ケビン・デブライネやベルナルド・シウバらの創造性、ラヒーム・スターリングやガブリエル・ジェズスらの決定力をもってすれば、やや心もとない守備面を補い、クラブの宿願の欧州初制覇に近づけるかもしれない。

 こちらも今季CLの出場全試合で得点しているメンフィス・デパイを擁するリヨンは不気味な存在だが、ここを突破すれば、バイエルンかバルセロナとの大一番を迎える。

長い休養明けのPSGか、それとも。

 反対の山からは、リーグ・アンが途中で打ち切られてたっぷりと休養できたパリSGが、そのアドバンテージとキリアン・ムバッペやネイマールら豪華な攻撃陣を生かして、初の決勝に到達すると考えるのが妥当か。

 いや、あまりに長い休息は試合勘に悪影響があるから、ラウンド16でリバプールに競り勝ったアトレティコがしぶとく歩みを進めるだろう。そんな見方もありそうだ。

 それとも一寸先が見えにくいこの現世のように、すべての試合で波乱が起こり、まったく誰も予想しなかったファイナルのカードになるのか。今週から約2週間、真夏のリスボンから目が離せなくなる。

文=井川洋一

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