すでに8シリーズ以上、計29試合が選手や関係者の新型コロナウイルス感染のために中止になっているメジャーリーグ(MLB)が、もしも、何とかシーズンをやり遂げることが出来たなら、興味深いことが起こる。

 8月10日月曜日、大多数のチームは60試合しかない公式戦の4分の1にあたる15試合以上を消化した。いつもなら「まだ序盤でしょ?」と言える試合数だが、今季はそんなにのんびりと構えていられない。

 ましてや今季はプレーオフに進出できるチーム数が、通常時の10チームから全30チームの半分以上にあたる16チームに増えたのだ。上位にいるチームは可能な限り、下位のチームを引き離しておきたいし、下位のチームは一刻も早く、上位のチームに追いつきたい。

今年だからこそのアドバンテージも。

 今季のプレーオフ形式ではまず、東、中、西各地区の公式戦の優勝チームがトップ3のシード権を得て、その優先順位は公式戦の勝率によって1位、2位、3位となる。各地区優勝チームの次に無条件でシードされるのは各地区2位チームで、これもシード権は公式戦の勝率によって4位、5位、6位となる。

 上位6チームは各地区における順位が大事になるのだが、通常時と変わらない2枚のワイルドカード(WC)は勝率だ。各地区3位チームの中から、勝率の高い2チームがWCとしてプレーオフ進出の権利を与えられ、最後の7位、8位を得るわけだ(各地区2位のチームより勝率が高くても、シード権の順位は変わらない)。

 シード権と言っても、ベースボールにはバスケットボールやフットボールのような「ホーム・アドバンテージ」はないし、そもそも無観客試合なのだが、新型コロナウイルス対策でホテルに缶詰めにされることなく、家から通えるという大きなアドバンテージがある。もちろん、上位チームにとっては勝率の低いチームが対戦相手になるので、普通に考えれば与し易しとなる。

 たとえば8月10日の試合終了時の両リーグの順位でプレーオフの第1ラウンド=3戦先勝方式のWCシリーズの組み合わせを仮想すると、こうなる。

予想外のチームが進出する可能性。

ア・リーグ
(西地区王者)アスレチックス対WC2位(東地区3位)オリオールズ
(中地区王者)ツインズ対WC1位(中地区3位)インディアンス
(東地区王者)ヤンキース対(西地区2位)アストロズ
(中地区2位)タイガース対(東地区2位)レイズ

ナ・リーグ
(中地区王者)カブス対WC2位(東地区3位)フィリーズ
(東地区王者)マーリンズ対WC1位(西地区3位)パドレス
(西地区王者)ロッキーズ対(中地区2位)レッズ
(西地区2位)ドジャース対(東地区2位)ブレーブス

 新型コロナウイルスの感染拡大前に、ア・リーグのオリオールズやタイガースにプレーオフ進出のチャンスありと想像した人は少ないだろうし、ナ・リーグのフィリーズやレッズのような「台風の目」がプレーオフに進出すれば、それだけで盛り上がる。

 プレーオフ進出チームが増えた最大にして唯一の理由は、「年俸の日割り満額を支給する際の開催試合数」を巡ってMLB機構と選手組合が決裂したため、それが解決策=新たな「臨時ボーナス」の供給源になるからだが、この方式はとても魅力的だ。

今季は1勝の価値が2.7倍に。

「ワイルドカードのチームがリーグ優勝すれば、ペナントレースの意味がなくなるじゃないか!」という意見はアメリカにもあるのだけれど、すでにアメリカでは「ペナントレース=リーグ優勝」ではなく、「ペナントレース=地区優勝」という認識で決着がついているはずなので、それはそれ。プレーオフを勝ち抜いてリーグ優勝を果たし、ワールドシリーズまでたどり着くのは別の話だ。

 念のため書いておくと、ナ・リーグ東地区首位のマーリンズは他の多くのチームが15試合以上を消化している中、新型コロナウイルス感染者が出たことで2シリーズ計6試合が中止になり、10試合しか消化していない。

 それでも再開直後のダブルヘッダーで連勝するなど勢いがあるし、今季は1勝の価値が通常の2.7倍になるので、今の戦績は侮れない。彼らにとっての最大にして唯一の「挑戦」は、全日程の終了が9月27日と決まっているため、過密日程になることだろう。

2日連続のダブルヘッダーも有り得る。

 9月には23日間で27試合を消化しなければならず、それも「これ以上、試合が中止にならないこと」が前提だ。幾ら今季特別ルールの「7イニング制のダブルヘッダー」を着々とこなし、マーリンズからこれ以上の感染者が出なかったとしても、対戦を予定していた相手チームから感染者が出たら、試合は中止になってしまう。そうなると2日連続のダブルヘッダー開催も有り得るし、数少ないオフ日も代替試合開催のために潰されることになる(今は下位に沈んでいるカージナルスの方はもっと酷くて、3シリーズ計12試合が中止となっており、その穴埋めにオフ日を潰してまで予定していたダブルヘッダーが中止となってしまった)。

 以前のコラム(MLBで勝率7割が出る現実度は?)でも書いたように、現時点でメジャーリーグ最高の勝率.769のカブスを筆頭に、アスレティックスやマーリンズなど勝率7割を超えるチームが多発している。

 まさかこのまま続くとは思わないが、マーリンズの試合中止の相手だったオリオールズやナショナルズ、それに連動して中止になったヤンキースやフィリーズ、ブルージェイズの試合数が少なくなったお陰で、勝率7割越えのチームが多数出るような状況になるだけで事態はかなり混乱する。

低勝率でワールドシリーズに勝つ?

 それに上位チームがあまりにも圧倒的な独走態勢を築くと下位球団の勝率は相対的に下がるかも知れない。いつもの年ならそれでいいのだが、前述の通り、今季はプレーオフに進出できるチームが全30チームの半分以上にあたる16チームに増えたのだ。

 過去には1973年のメッツ(82勝79敗、勝率.509)や2005年のパドレス(82勝80敗、勝率.506)のように、かろうじて勝率5割に達したチームが地区優勝を果たしたことがあるぐらいだから、プレーオフ進出チームが大幅に増えた今季は、勝率5割を切ったチームがワールドシリーズ優勝を果たしてしまう可能性だってある。

 それで思い出したが、2006年にワールドシリーズを制したカージナルスは、公式戦では83勝78敗、勝率.516とたった5試合しか勝ち越していない。そういう低勝率でもカージナルスのように地区優勝してくれればまだ体裁は保てるが、今季のフォーマットを活かして「ギリギリ」でワイルドカードを獲得したチームがワールドシリーズに勝ってしまったら、遠く離れた東の国から「喝!」と叱られるかも知れない。

過去最大の「ミラクル」が来るか。

 ちなみに1986年のメッツは、元巨人のデーブ・ジョンソンが監督をしていて、ワールドシリーズ制覇目前だったレッドソックスのミスをきっかけに逆転優勝したことで「Miracle Mets(奇跡のメッツ)」などと呼ばれているが、同年の公式戦では悪天候による試合中止が相次いだため、今季のマーリンズのように23日間で27試合を消化したそうだ。

 今後も味方であろうが対戦相手であろうが、新たな新型コロナ感染者が出ればさらに試合が中止になり、それがマーリンズ絡みなら今以上の過酷なスケジュールになる可能性もある。

 それでも公式戦が終わり、プレーオフが最後まで行われ、マーリンズやカージナルスのようなチームが優勝できたなら、これはもう1986年のメッツ以上の「ミラクル」と呼ぶしかないだろう――。

文=ナガオ勝司

photograph by Mike Stobe/Getty Images