ソフトバンクのセットアッパー、リバン・モイネロの奪三振率がものすごいことになっている。

<今季、両リーグで30イニング以上投げた投手の奪三振率(K9=9イニング当たりの三振数)ベスト10>1モイネロ(ソ)16.25
(34.1回62奪三振)

2パットン(De)11.13
(32.1回40奪三振)
3フランスア(広)11.08
(31.2回39奪三振)
4笠谷俊介(ソ)11.03
(31回38奪三振)
5国吉佑樹(De)10.80
(33.1回40奪三振)
6今永昇太(De)10.70
(53回63奪三振)
7千賀滉大(ソ)10.60
(63.2回75奪三振)
8山本由伸(オ)10.38
(80.2回93奪三振)
9金子弌大(日)10.09
(30.1回34奪三振)
10戸郷翔征(巨)10.02
(64.2回72奪三振)

アウトの約6割を三振で奪っている

 この数値が9.00を超えれば、平均で毎回1三振を奪っていることになる。さらに10.00を超えれば三振をバッタバッタ奪うパワーピッチャーと言えるが、モイネロの数値は16.25、それどころではない。

 K9は「27のアウトを取る間に何個の三振を取るか」という数字でもあるが、モイネロは実にアウトの60%を三振で奪っている。

 先発投手ではNPBを代表する本格派と目される、ソフトバンクの千賀とオリックスの山本がランクインしている。しかしモイネロとは数字の次元が違う。こんなK9を記録した選手は過去にはいなかったのだ。

これまでの「K9」ベスト10は?

<NPBでシーズン50イニング以上を投げた投手のK9ベスト10>

1佐々木主浩/1997年(横浜)
14.85(60回99奪三振)
2サファテ/2015年(ソフトバンク)
14.20(64.2回102奪三振)
3藤川球児/2011年(阪神)
14.12(51回80奪三振)
4ファルケンボーグ/2011年(ソフトバンク)
14.03(50.2回79奪三振)
5増井浩俊/2017年(日ハム)
14.01(52.2回82奪三振)
6ジョンソン/2019年(阪神)
13.96(58.2回91奪三振)
7サファテ/2017年(ソフトバンク)
13.91(66.0回102奪三振)
8佐々木主浩/1992年(大洋)
13.86(87.2回135奪三振)
9藤川球児/2006年(阪神)
13.84(79.1回122奪三振)
10大塚晶則/1997年(近鉄)
13.83(82.2回127奪三振)

佐々木、サファテ、藤川ら名リリーフが

 史上1位は、日本一に輝く前年の横浜、佐々木主浩の14.85。この年38セーブで3回目の最多セーブに輝いている。

 続いて2015年ソフトバンクのサファテ。41セーブで初の最多セーブ。以下、救援投手がずらっと並ぶ。それぞれ一時代を築いたセットアッパー、クローザーだ。

 なお100イニング以上投げた投手では、これまで1998年のヤクルト石井一久の11.05(196.1回241奪三振)が最高だったが、2019年にソフトバンク千賀滉大が11.33(180.1回227奪三振)と更新した。

 単純計算で、K9が13.50を超えれば、アウトの半数以上を三振でとったことになる。ここに並ぶ数字だけでもすごいのだが、今季のモイネロの記録は、これら過去の投手の記録からも頭ひとつ抜けている。

NPBに来てから奪三振の割合アップ

 モイネロはキューバ出身。MLBを経由せずにNPBに来た。

 キューバでは17歳からトップリーグで投げている。将来を嘱望された投手ではあったが、CNS(キューバ・ナショナルシリーズ)でのK9は、通算で8.66(245.1回236奪三振)だった。つまり、NPBに来てから奪三振の割合が伸びたのだ。

2017年 9.08
(35.2回36奪三振)
2018年 11.23
(45.2回57奪三振)
2019年 13.04
(59.1回86奪三振)
2020年 16.25
(34.1回62奪三振)

 まさに長足の進歩だ。

 奪三振とともに注目すべきは、与四球である。

 9回あたりの与四球数「BB9」を見ると、キューバ時代のモイネロは3.93(245.1回107与四球)。ひどいというわけではないが、決して制球が良いとは言えない数字ではある。しかしNPBに移籍後の通算も4.11(175回80与四球)と改善していない。

 最近、NPBの投手コーチは投手に「ああしろ、こうしろ」と言わないのが主流になっている。そして短所を治すのではなく、長所を伸ばすことが主眼になっている。モイネロもやや難があった制球力を矯正するのではなく、まだまだ伸ばせそうな長所だった奪三振能力をアップさせることに力を注いだのだろう。

 そういう意味ではソフトバンクという先進的なチームに入ったことの意味も大きい。

158kmの速球を“見せ球”にできる

 バッタバッタと三振を奪う投手と言えば、剛速球が売りのように思う人も多いだろう。

 モイネロも最高158km/hの速球を投げる。ただし、今の野球では速球だけで三振の山を築くことはできない。モイネロは鋭く曲がるスライダーとカーブ、チェンジアップを投げる。

 筆者は今季2度、モイネロの登板を観たが、どちらの登板でも速球は見せ球に過ぎず、スライダーやチェンジアップで空振りを奪っていた。緩急を活かしたこの「配球の妙」が、モイネロの進化の核心ではないかと思う。

派手な活躍はMLBが放っておかない

 規定投球回数に達しない救援投手の記録はなかなか目にいかないが、イレギュラーな状況で開催される今シーズンにあって、すごい記録が達成されようとしていることは注目に値する。

 モイネロのホールド数は28。楽天のハーマンに7差をつけて1位だ。初タイトルも見えてきた。

 ただし派手に活躍をすると、MLBが放っておかない。

 昨年、セットアッパーとして大活躍した阪神ピアース・ジョンソン(現パドレス)のように、MLBからオファーが来る可能性が高くなる。

 そういう意味でプロ野球ファンとしては“痛しかゆし”なのだが、今後もモイネロの快投が続くことを期待したい。

文=広尾晃

photograph by Hideki Sugiyama