話題はバイエルンにフランス人選手が多く在籍するようになったのはどうしてか、クラブのマネジメントをかつてのスーパースターが手がける伝統がどうしてできたのか、さらにはクラブを運営していく際の理念などに及んでいく。なかでも筆者(田村)の興味を引いたのは、バイエルンとPSGの選手に対する考え方の違いだった。スターの獲得を優先するPSGと、才能と将来性を重視するバイエルン。その違いが、先日のCL決勝に端的に現れたように筆者には見えた。

 ルンメニゲの言葉からわかるのは、バイエルンには世界の他のどこにも存在しない独自の文化・独自のDNAが存在するということである。【全2回の2回目/#1(https://number.bunshun.jp/articles/-/845074)から続く】

(田村修一)

印象に残っているフランス人選手は誰ですか?

――今、バイエルンには多くのフランス人選手(キングスレー・コマンとミカエル・クイザンス、ルカ・エルナンデス、タンギ・クアシ、バンジャマン・パバール、コランタン・トリソの6人)がいますがどうしてでしょうか?

「それがクラブの伝統になったことに誇りを感じる。道を切り開いたのはビセンテ・リザラズ(1997〜2004年、2005〜06年にバイエルンに所属)とウィリー・サニョル(同2000〜08年)のふたりで、彼らはサイドの中心的存在だった。その上2人は強いパーソナリティを持ち、チームのメンタリティを強化するうえで大きく貢献した。彼らはクラブの歴史に刻印を残した。そのメンタリティとプレースタイルで、フランス人選手はバイエルンというクラブに見事に適応した。フランゾーゼン(註:ドイツ語でフランス人たちの意)には大いに感謝している」

――ブンデスリーガ全般でもフランス人は人気が高いですが……。

「フランスは現世界チャンピオンだ。ワールドカップは運だけで優勝できる大会ではない。だが、最も素晴らしいと思うのはフランスの育成システムだ。世界で唯一と言ってもいい。フィジカル、テクニック、戦術……、フランス人はあらゆる面を過不足なく育てている。だから20歳にしてプレーでも人格面でも成熟している。彼らの存在がドイツのクラブをより豊かにしている」

――この傾向は今後も続いていきますか?

「そう思う。もちろんフランス人選手は贈り物ではない。だが、彼らは、対費用効果の面でも素晴らしい。私たちはフランス人を尊重し、フランス人もまたドイツに心地よさを感じている。選手供給源としてフランスは特異な存在だ。ドルトムント時代から、私はウスマン・デンベレのプレーを見るのが大好きだった。私のお気に入りの1人で、だからバルセロナに移籍してからは、フィジカル面で様々な問題を抱えて限界を超えられないのが歯がゆくてならない」

――印象に残っているフランス人のエピソードは何かありますか?

「2010年にウリ・ヘーネスの別荘で、フランク・リベリーと彼の将来について2時間ほど話し合ったことがあった。フランクは代理人を連れずに1人でやって来た。代わりに一緒に来たのがクラブの顧問弁護士で通訳も務めたフランク・ゲーリンガーだった。話が終わり、フランクが帰った後でゲーリンガーはこう言った。

『彼が契約を延長することは絶対にないだろう』

 私は即座に『フランクの契約延長に賭ける』と反論した。ヘーネスも同じ意見だった。そして実際に、フランクはほどなくしてバイエルンとの契約を延長した。賭けの戦利品として、南フランス産の最高級赤ワインをせしめたよ(笑)。

『フランクの残留は100%確信していた』とヘーネスは後に語っていた。彼はフランクにとって第二の父親のような存在で、私は第二の母親のような存在だからね(笑)」

――多くのフランス人選手が在籍しながら、バイエルンにはまだひとりもフランス人監督が誕生していません。ニコ・コバチの後任としてアーセン・ベンゲルに声をかけなかったのでしょうか?

「アーセンとは電話で話した。だが、彼にはバイエルンの監督になる意志はなく、われわれも具体的なオファーは出さなかった。過去を遡れば、1990年代のはじめ(1994年)に彼はミュンヘンに来る機会があった。フランツ・ベッケンバウアー、ウリ・ヘーネスとともに私はニースで彼と昼食をともにした。このときは合意に達したのに、後にアーセンはどうしたわけか断りを入れてきた(註:モナコに説得され契約を延長したが、直後に成績不振で解任された。その後、最初にオファーを受けた名古屋グランパスの監督に就任)。私から見たら彼は常に立派な紳士であるし、アーセナルでは素晴らしい偉業を成し遂げたと思っている」

ビッグネームよりも「将来性のある若手」を獲得したい

――バイエルンがブンデスリーガ8連覇を達成したことでマンネリ化し、リーグの魅力が損なわれると思いますか?

「面白さの点では何も心配していない。去年の秋にわれわれは、首位から勝ち点7引き離されていたことを思い出して欲しい。あのときはCL出場権を確保できるかどうかも不安で、今年に入り驚異的な連勝記録を打ち立てた(17試合で16勝1分)からこその優勝だった。それに2018〜19年シーズンも、優勝が決まったのは最終節で、2位のドルトムントとは勝ち点2しか差がなかった」

――それでは今のブンデスリーガで、バイエルンの最大のライバルはどこでしょうか?

「それは常にボルシア・ドルトムントだ。プレーのクオリティは高く、選手も若い才能を揃えている。移籍市場が活発化して選手を引き抜かれない限り、来季のやっかいなライバルになるのは間違いない」

――これからもヨーロッパのトップクラブであり続けるために、どんな哲学を具体的に持っていますか?

「バスティアン・シュバインシュタイガーやフィリップ・ラーム、フランク・リベリー、アリエン・ロッベンがチームを離れて世代交代が一気に進み、ここまでとてもうまくやっている。今のチームで30歳を超えているのはマヌエル・ノイアーとロベルト・レバンドフスキの2人だけだ(註:実際はこれ以外にも、トーマス・ミュラーなどをはじめ30歳超えた選手が在籍)。この2人は、それぞれのポストで世界最高の選手だからね。

 これからの2シーズンは日程がもの凄くきつくなる。だからできる限りグループを拡充していきたい。アルフォンソ・デイビス(19歳、カナダ)は大成功だった。実績のあるビッグネームよりも、彼のように将来性のある若手をさらに獲得していきたい」

――ただ、新戦力に関しては、バンジャマン・パバールを除きフィリペ・コウチーニョもルカ・エルナンデスもイバン・ペリシッチも、最初のシーズンは期待通りの活躍ができませんでした。

「われわれのグループは16〜17人のワールドクラスの選手たちで構成されている。新しく加入した選手が、既存のヒエラルキーを覆すのにひとシーズンかかるのは仕方がない。だが、レオン・ゴレツカなどは、チームに合流した当初はそれなりのものでしかなかったが、今日では貴重な戦力の一端を担っている。この2年で著しく成長し、将来ワールドクラスに到達するのは間違いない。新戦力は忍耐強く見守る必要がある」

バイエルンとPSGの違いは?

――では、バイエルンとPSGとの違いはどこにありますか?

「パリはキリアン・ムバッペやネイマールなど世界的なスターに関心を寄せている。つまりグループの構成がわれわれとは異なっている。PSGには大いに敬意を抱いている。ドルトムントとのCLラウンド16は、2試合とも主導権を握る戦いをして突破は順当だった。とりわけパルク・デ・プランスでの第2戦は素晴らしかった」

――ビッグクラブによるヨーロッパ・スーパーリーグ構想が立ち上がって久しいですが、明日にも実現するのでしょうか?

「バイエルンは特定のクラブのみによるスーパーリーグにはまったく関心がない。現状のCLは理想的なフォーマットであるし、UEFAとの関係も極めて良好だ。スーパーリーグが日の目を見るとすれば、それは全会一致で承認されたときのみだ。今日、危機的な状況に直面して、すべてにおいて合理的な判断が迫られている。現状のフォーマットは未来のフォーマットでもある。どうしてそれを変える必要があるのか? CLは魅力に溢れた大会だ。選手も監督もクラブ首脳もサポーターも、誰もが満足している」

クラブOBが監督を務める“バイエルンの伝統”

――クラブのレジェンドである偉大な選手が会長に就くのがバイエルンの伝統です。最初はフランツ・ベッケンバウアーで2002年からあなたが引き継ぎ、2022年1月1日からはオリバー・カーンが新たに就任します。世界のどこにもこんなクラブは存在しないし、特異なモデルであるといえます。確固たるポリシーとして実践しているのでしょうか?

「元々はヴィルヘルム・ノイデッカー会長(在任期間は1962〜1979年)が、ウリ・ヘーネスを1979年にゼネラルマネージャーに任命したことから始まった。それがスタートで、1994年にベッケンバウアーが会長に就任し、2002年に私が引き継いだ。ほどなくオリバー・カーンの時代が来るが、彼はサポーターから絶大な支持を得ている。最高の選択だったと思っている。

 結局のところわれわれの哲学は3つのSに要約される。セリユー(英語ではシリアス)、ソリデール(英語ではユナイテッド)、ソリッドだ」

――その哲学を、長期的にも持ち続けますか?

「バイエルンには卓越したパーソナリティを持つ選手がたくさんいる。たとえばトーマス・ミュラーは、ユーモア感覚に溢れた成熟した人物だ。ヨシュア・キミッヒはピッチの上でもピッチを離れても、望ましい道のりを辿っている。求めているのは長くバイエルンで選手としてのキャリアをまっとうし、引退後はフロントでも重責を担える人材だ」

――バイエルンだけがこのモデルを確立し得たのはどうしてでしょうか?

「それは何よりクラブを構成するすべての人々が互いに信頼しあっているからだ。ウリが先駆者で、彼が道を切り開いた。彼の存在、彼が実践したことがクラブの文化となり、私はそこに誇りを感じているし、ヨーロッパで唯一であるという自負もある。このモデルとともに、われわれは経験を積み成功を収めてきた」

――不思議に思うのはクラブマネジメントではそれだけかつてのスーパースターが貢献しながら、監督としては誰も長期的に成功を収めていないことです。

「たしかにここまでは、OBたちはマネジメント面で多大な貢献を果たし成功を収めてきた。だが、数カ月前から、ハンジ・フリックが監督に就任した。クラブのOBで、現役時代には4度(1986年、87年、89年、90年)ブンデスリーガで優勝している。まさに当たり籤だとわれわれは考えている。今日のサッカーでは、トップレベルの監督は地域の中にはいない。チームと完ぺきに密着できる監督を見出すのは簡単ではない」

――どうもありがとうございました。

文=アレクシス・メヌージュ

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