フィギュアスケートの2020-21シーズン前哨戦ともいえる「Dreams on Ice 2020 Go for Tomorrow」が9月12、13日に開催された。

 トップスケーターたちは、試合形式のアイスショーで今季の初演技を披露。なかでも注目が集まったのは、鍵山優真、佐藤駿、友野一希の3人が火花を飛ばしあった4回転バトルだった。

3人とも牽制しあうような様子で

 3人は、間違いなく来季に五輪切符を争うライバル同士。今季のうちにどこまで4回転を身に付けられるか、そしてアピールできるかが重要になる。

 まず12日のショートは、久しぶりの試合形式とあって、3人とも牽制しあうような様子で6分間練習が始まった。

 今回はコロナウイルス対策のため、コーチもリンクサイドに立てず、選手は自分ひとりで調子を確かめなければならない。

 鍵山は、ちらちらと佐藤のジャンプを見ながら、それを振り払うかのようにアクセルを跳んだが1回転半に。深呼吸をして再び挑戦し、トリプルアクセルと4回転サルコウを降りた。

 するとそれを見ていた佐藤がすこし跳び急いで、4回転が2回転に。その横を、自分に集中しきっている友野がサーッと通り抜け、4回転トウループを決めた。

 16歳の佐藤と17歳の鍵山は、ともに今季シニアデビューを迎える。しかも佐藤は昨季のジュニアGPファイナル覇者で、鍵山は四大陸選手権銅メダリスト。否が応でもお互いを意識する。一方の友野は22歳で、今大会では最年長のお兄さん。自分に集中する術では、一枚上手と見えた。

新ショート『パイレーツ・オブ・カリビアン』

 そして迎えたショート本番。

 3人のなかでトップバッターとなった佐藤は、新ショート『パイレーツ・オブ・カリビアン』を披露した。冒頭の4回転トウループは回りすぎて回転が止められずにステップアウト。つづく4回転ルッツは力んで2回転になってしまった。

 それでも、初めてブノワ・リショーにリモートで振付を依頼したというプログラムは力強いステップが印象的で、内にエネルギーを秘めている佐藤のキャラクターによくマッチしていた。

「ジャンプのミスはありましたが、初めて滑ったにしては良かったです。去年は(ジュニアのルールのため)ショートで4回転を入れたのは全日本選手権だけでした。今回挑戦して、難しいなと感じました」

初めてローリー・ニコルに振付を依頼した

 続く友野は、昨季と同じ『クローマ』。4回転トウループと4回転サルコウに挑み、前衛的なモダンバレエを取り入れた作品を、見事に演じ切った。

「去年に続いてのショートなので、完成度、演技の質を高めたいです。メダルを獲れる選手になれるよう頑張りたいです」と語る。

 そして最終滑走となった鍵山は、初めてローリー・ニコルに振付を依頼した『Vocussion』を初披露。2014-15シーズンに故デニス・テンが演じた名プログラムを、同じ振付師であるニコルがあえて選んだもの。所々で同じポーズも盛り込まれ、デニスへのオマージュとしての要素を感じさせる一曲だ。

 鍵山は冒頭で「4回転サルコウ+2回転トウループ」を成功。特筆すべきはその助走のスピードで、鍵山が前を通過していった時に、疾風が客席に舞い込んだ。

 飛距離も流れもあるジャンプで、試合ならばGOEプラス3〜5を期待できる完成度だ。

「ヨッシャーという気持ちになりました」

 続いて得意の4回転トウループ、トリプルアクセルを難なく決めた。絶え間なくステップがつめ込まれたプログラムの間もエネルギーが溢れ、昨季とは別人ともいえる力強さが加わっていた。

「まずはジャンプが決まって、ヨッシャーという気持ちになりました。最初からすごく踊るプログラムで、ステップも身体をすごく大きく使い、しんどいです。ローリーさんが伝えてくれたことをまだ完全には表現しきれてないけれど、頑張りたいです」

 さらに翌日は、面白いことがあった。朝に行われた公式練習で、誰ともなしに“4回転バトル”が起きたというのだ。鍵山は言う。

「45分間の公式練習のうち、40分くらいずっと、皆で4回転をやっていました。皆が4回転バンバン跳んでいるので、誰かが跳んだら、もう自分も跳ばなきゃ、みたいな感じになって、自然に4回転合戦が生まれたんです。全日本選手権の前日練習みたいな雰囲気で練習していました」

トップ選手同士が集まり、刺激しあえる時間

 鍵山は、プログラムに入れる4回転トウループとサルコウに加えて、4回転ループにも挑戦した。佐藤はルッツ、トウループ、サルコウを、そして友野は4回転サルコウとトウループを、次々と跳び続けた。鍵山はこう続ける。

「今日はプログラムには入れない4回転ループも練習しました。降りられなかったけど、やる気が入っていたので、質の良い練習が出来ました」

 佐藤も言う。

「他の選手が4回転を跳んでいるのを見ながら、自分もこうやったら跳べるのかなとか、たくさん吸収できるポイントがありました。(鍵山と友野の)4回転それぞれに良い所があるので、自分が今後やるべきこともたくさん見つかったので、今後の練習に活かしていきたいです」

 実は、このアイスショーでの練習というのは、大きな成長のチャンスだ。

 羽生結弦が2011年のアイスショーの練習で、無良崇人と4回転合戦になり、その場で初めて4回転サルコウを降りたということがある。普段は会えないトップ選手同士が集まり、刺激しあえる時間。それを3人も肌で感じながら、4回転をブラッシュアップしていたのだ。

佐藤が1人で大きな声援を送っていた

 そして迎えた、夕方のフリー。本当は3人ともにクタクタになっていたことだろう。6分間練習が始まると、3人とも明らかに前日よりもジャンプが乱れている。いかに朝の練習に本気で挑んでいたかを物語っていた。

 フリー本番は鍵山から。直前にプログラムを変更した『ロード・オブ・ザ・リング』のミュージカル版。冒頭の「4回転サルコウ+3回転トウループ」を勢いよく決めたが、続く4回転トウループと、後半の4回転サルコウは転倒した。

 すると、リンクサイドから「ガンバー」という太い声と共に、力強い拍手が聞こえてきた。今回はコロナウイルス対策の運営上、コーチも関係者もリンクサイドには入れないはず。よく見ると、選手通路にいる佐藤が1人で大きな声援を送っていたのだ。鍵山も、最後まで滑り抜くと満足そうな笑顔を見せた。

「後半に4回転とトリプルアクセルが入っているので、体力がすごく大事になると感じました。冒頭の4回転サルコウは、普段の練習でも決めていたので良かったと思います」

鍵山と佐藤から「ガンバー」の声援

 続く佐藤は、ショートと同じリショー振付の『Battle of the Kings』。冒頭の4回転ルッツは勢いがありすぎて後ろに吹っ飛ばされた。続く4回転サルコウは成功、4回転トウループも1本は転倒したが、その直後に4回転トウループ+3回転トウループを降りた。

 今度は、滑り終えた鍵山とこれから滑る友野がともに、手が痛くなりそうなくらいの拍手を1つ1つのジャンプに送っていた。佐藤は言う。

「初めて4回転4本に挑戦しましたが、4回転ルッツのミスもありましたし、今後もっと練習してノーミスできる様にしたいです。体力はけっこうキツかったのですが、最後は根性で頑張りました」

 そして鍵山と佐藤からの「ガンバー」の声援を受けながら、最終滑走の友野が登場。4回転トウループは高さがあったが転倒し、続く4回転サルコウは両足着氷に。

 次のトリプルアクセルを成功すると、鍵山と佐藤は「ヒュー」と叫んで盛り上げた。無観客のリンクに、男子2人の太い声が響き渡る。友野は演技後半の4回転サルコウも何とか耐えると、熟練の演技力で『ムーラン・ルージュ』の世界を展開した。

 友野は「今年から本格的に4回転3本を入れようと練習しています。今日は、まだまだ後半に体力がないと感じました」と話した。

 4回転バトルと、力いっぱいの声援。3人は、五輪切符を争うライバルであり、お互いを高め合う仲間でもある。コロナ禍のなか始まる2020-21シーズンだが、選手たちの熱情と成長は決して止まることはないと感じた。

文=野口美惠

photograph by Dreams on ICE 2020