10月26日に開催予定のプロ野球ドラフト会議。コロナの影響でセンバツも夏の甲子園もなかった今年は「甲子園ヒーロー」がいない。それだけに、どの球団が「どんな選手を獲得するのか」により一層注目が集まるかもしれない。そこで、本誌でこれまで紹介してきた「プロ野球ドラフト会議」に関する記事を特別に公開する。

 アマチュア時代は無名だった選手がホークスに入ると急成長してレギュラーをつかむ。この現象の源流には、磨けば光る原石を確実に見極めるスカウティングの極意があった――。
【初出:Sports Graphic Number 989号(2019年10月31日発売)「ホークス日本一の組織学。『ドラフト大化けの秘密。』」/肩書などはすべて当時】

 今季のプロ野球は、福岡ソフトバンクホークスが4連勝という怒濤の進撃で、セ・リーグ王者の読売ジャイアンツを退けて日本一の座についた。

 その磐石なソフトバンクのベンチ入りメンバーに、育成ドラフト経由の選手が5人もいたことは注目に値する。

 エースの千賀滉大に、レギュラーマスクをかぶる甲斐拓也。この2人はすでに押しも押されもせぬ大看板だが、その他にも、リードオフマンの牧原大成に、勝負所の代走として快足で本塁を陥れる周東佑京、さらに、故障さえなければシーズンでも中継ぎの一角として奮投したはずの石川柊太。チームを日本一に牽引した原動力に「育成出身」がこれだけいたことに驚かされる。

 対する巨人の「育成出身」が、わずかに代走で2試合出場した増田大輝内野手だけだったのに比べれば、育成制度の活用の仕方に大きな差が見られたとも言える。

40人獲って、ドラ1級が1人でも混ざってたら帳尻は合う

 このソフトバンクの成果については、これまでもずいぶん語られてきた。千賀、甲斐の成功を例に挙げて称えるものが多いが、2005年に育成ドラフトが始まってから、2018年までの14回のドラフトで、58人が育成選手として入団。そのうち、はっきりと一軍戦力になっていると言えるのは先に挙げた千賀、甲斐、牧原、石川、周東のほか、今季106イニングを投げて5勝を挙げた左腕投手の大竹耕太郎だろうか。すでに移籍、引退した選手が36人もいると聞けば、そんなに成功確率の高いものじゃないとも思える。

 実際に、’13年の石川と曽根海成(現・広島)らから、’17年の周東、大竹までの間の3回の育成ドラフトで入団した19選手中からは、一軍出場選手は出ていない。ソフトバンクの育成にも冬の時期はあるのだ。

 以前、ある球団のスカウトが、こんなことを言っていた。

「ドラフト1位の契約金が1億円として、育成選手は支度金が1人250万円。育成選手を40人獲って、その中にドラ1級が1人でも混ざってたら、帳尻は合うんです」

 その論法からいけば、ソフトバンクの育成ドラフト戦略は確かに大成功と言える。

 ソフトバンクの関係者は、こうした育成ドラフトのコツのようなものをなかなか明かしてくれないが、それはおそらく、大切な企業秘密なのだろう。

甲斐、牧原……育成選手たちの共通点

 千賀について、こんなことを話していた関係者がいた。ひょんなご縁で、いい投手がいる……という話が伝えられ、練習を見に行った。チームがあまり強くなくて公式戦で目立てないから、スカウト網の盲点になっていた。しかし、ピッチングを見るとフォームに我流のクセがなく、フォークがあって140km出るのなら、育成指名もアリなんじゃない? そこで、指名となったという。

 ソフトバンクのドラフトを長年眺めていると、1つの共通項にたどり着く。

 ずば抜けたもの、つまり、プロで勝負できるだけの武器を2つ以上持っている選手は支配下ドラフトで指名され、その武器が1つだけの選手は育成ドラフトで指名されている。’05年の育成ドラフト開始以来、ソフトバンクに入団した選手たちを辿っていくと、そうした傾向が見てとれる。

 甲斐は「鉄砲肩」、牧原は「快足」と、それぞれ武器を1つずつ持って育成入団し、そこに足がかりを作っておいて、そのほかの要素を根気強く伸ばしてきた。

 スカウトからコーチに選手の課題が伝わる。

 ソフトバンクの春季キャンプでは、練習中のグラウンドで、スカウトとコーチが話し込んでいる場面をよく目にする。残念ながら、他球団ではあまり見ない光景だ。

指名する前から、もう育成が始まっている

 たとえば大竹は早稲田大の1、2年時には絶対的なエースだったのに、それ以降、打ち込まれる試合の連続で、自信喪失していた。その大竹を’17年の育成4位で指名した時は驚いた。球団関係者が言う。

「大竹は、調子が落ちていた理由がはっきりしてましたから。フォームの崩れです。右足のヒザが早く前を向いてしまう。だから、タメが効かずにリリースで瞬発力が出ない。もともと1年生で早稲田のエースをやってたぐらいですから、ピッチングセンスはあるし、頭はいい。直せば使える。それはわかってました」

 アマチュア時代の情報、状況がスカウトから的確に現場のコーチに伝わる。これもソフトバンクのチーム力であろう。このチームのスカウティングの肝になっているのは、こうした選手の情報を分析する「インテリジェンス」なのだろうか。

 柳田悠岐が2位指名された’10年、その年、間違いなく九州ナンバーワンの鉄砲肩と評された捕手が大分の楊志館高校にいた。

 それが甲斐だった。

 敏捷性を生かした捕球にガッツに溢れたプレースタイル。心惹かれるものはいくつもあったが、当時の甲斐は気分にムラがあって、プレーが安定しなかった。そんな甲斐をある日、ずっと見守り続けていた担当スカウトが一喝した。

「プロでやりたいって言ってるくせに、いつまでフワフワしてるんだ。人のせいにしてないで、自分で自分を作ってみろ! 野球と真っすぐに向き合う気があるなら獲ってやる!」

 そこから彼の意識は少しずつ、プロ野球選手へと変わっていったという。

 ソフトバンクの育成ドラフトは指名する前から、もう育成が始まっていたのだ。

(Sports Graphic Number 989号より)

文=安倍昌彦

photograph by Hideki Sugiyama