今週は東西で2つの重賞が行われる。いずれもこの後の3歳三冠最終レースにつながるトライアルレース。20日の日曜日には中京競馬場で秋華賞トライアルのローズS(GII)が行われ、翌20日の月曜祝日には中山競馬場で菊花賞の前哨戦にあたるセントライト記念(GII)が開催される。

 5年前の2015年、このセントライト記念を優勝したのが後に2年連続で年度代表馬に選定されるキタサンブラック(栗東・清水久詞厩舎)。オーナーが大歌手の北島三郎さんだった事でも有名になった名馬である。

 キタサンブラックはこの年の1月に東京競馬場・芝1800メートルの新馬戦で後藤浩輝騎手を背にデビューした。この時の評価は3番人気。しかし、そのレースぶりは実に堂々としたもの。後にGIを勝つのも頷ける強さで完勝してみせた。

支持は低くても結果は出した

 翌2月、再び東京競馬場に輸送された鹿毛の3歳馬は芝2000メートルの自己条件、500万下条件に出走した。初戦はレースぶりこそ強かったものの、稍重馬場で1分52秒3という平凡な勝ち時計だったせいか、この2戦目も14頭立ての9番人気という支持に過ぎなかった。しかし、北村宏司騎手に乗り替わったこの関西馬はまたも世間の評価以上の走りを披露する。デビュー戦同様かそれ以上に強いと感じさせる走りで、2着馬に3馬身の差をつけて見事にデビューからの連勝を飾ってみせたのだ。

 2戦2勝となった同馬を、清水久調教師はみたび、関東圏に遠征させる。丁度1カ月後の3月22日、500キロを超す雄大な馬格を持つこの若駒を、今度は中山競馬場で行われた重賞、スプリングS(GII)に挑戦させたのだ。

 後にドバイでGIを勝つリアルスティールが1番人気に推されたこのレースで、キタサンブラックは単勝12.3倍の5番人気。先述した通り初戦、2戦目と実に強い勝ち方をしていたにもかかわらず、ここもまたそれほど高い支持を受ける事はなかったのである。

 ところが彼はまたしても皆をアッと言わせる競馬をする。終始2番手を追走すると早目に先頭に立ち、最後はリアルスティールの追い上げをクビ差しのいで先頭でゴール。実に3戦3勝で重賞初制覇を飾ってみせたのである。

デビュー以来、初めての惨敗

 こうして完全にクラシック戦線に乗った同馬だが、皐月賞(GI)でドゥラメンテの3着に敗れ、初めて土がつくと、続く日本ダービーでは14着。デビュー以来、初めての惨敗で、勝ったドゥラメンテとの差は皐月賞よりも開いてしまった。

 ちなみに皐月賞と日本ダービーに於けるキタサンブラックはそれぞれ4、6番人気だった。勝っても勝っても、好走しても好走しても、それほど人気にならないタイプの馬は時おりいるが、この馬も正にそういう感じの馬だったのだ。

好走を繰り返しても人気にならなかった理由

 さて、当時のキタサンブラックが好走を繰り返してもなかなか人気にならなかった要因の1つとして、血統的な背景が考えられた。

 父はブラックタイド。その父母はそれぞれサンデーサイレンスとウインドインハーヘアだからあの名馬ディープインパクトの全兄にあたる。もっとも三冠ばかりかジャパンCや有馬記念も制して7つのGIを勝ったディープインパクトと違い、ブラックタイドの主な勝ち鞍はスプリングS。22戦の競走馬人生の中で3勝を挙げたが、GIには縁がないままその現役生活を終えていた。

 そんな地味な父方に加え、母方の血がキタサンブラックを評価するにあたり、少なからず影響を与えていたのは間違いないだろう。

 母はシュガーハートで、その父はサクラバクシンオー。1993、94年とスプリンターズS(GI)を連覇した名スプリンターだったのだ。

 先述した通り、デビュー戦から日本ダービーまで、キタサンブラックが走ったのは1800〜2400メートル戦。快速でならした母の父にとっては、長過ぎるという判断を多くの評論家やファンが下した結果が、どれだけ素晴らしいパフォーマンスを披露してもそれほど人気にならないという現象につながったのだろう。

キタサンブラックを信じた男

 さらに自身の最長距離となった日本ダービーで初めて惨敗を喫した事で、セントライト記念も出走15頭中6番人気という支持に終わる。後に3200メートルの天皇賞(春)を連覇、それも2度目はレコードで制すような馬ではあったが、この時点では誰もが半信半疑だったのである。

 しかし、そんな中「長い距離も心配はない」と自信を持つ男がいた。キタサンブラックを管理する清水久調教師だ。彼は当時、次のように語っていた。

「ダービーで大きく負けたのは息の入らない流れになってしまった事とイレ込んでしまったのが要因です。決して距離が長過ぎたとは思っていません。レースぶりや調教の感じから、距離に関しては全く心配していません」

 だから、ここを使った後は予定通り3000メートルの菊花賞に臨むつもりだと続けた。また、菊花賞へ向かうステップとして、関西馬にとっては輸送が短くて済む神戸新聞杯ではなく、わざわざ関東へ運んでもセントライト記念を走らせる理由については、次のように言った。

あくまでも菊花賞が目標

「菊花賞までの間隔を考慮に入れました。神戸新聞杯だと中3週になるけど、セントライト記念なら4週あります。また、中山は実際に重賞(スプリングS)を勝っている舞台という事も考えて、こちらを選択しました」

 また、それほど人気にならなかった理由の1つとして、前走比プラス12キロの532キロという馬体重が懸念された可能性もあった。これについて、指揮官は言う。

「あくまでも菊花賞が目標ですから、確かに100パーセントの仕上がりではなかったかもしれません。でも、体重についてはほとんどが成長分だと考えていました。元々大型馬だし、このプラス体重は気にしていませんでした」

名実ともに優れた馬に

 結果、キタサンブラックは清水久調教師が考えていた通りの走りを披露した。マイペースで逃げるミュゼエイリアンの2番手を追走すると、最後の直線でこの馬をパス。4分の3馬身、抜け出して自身2度目の重賞制覇を飾ってみせたのだ。

「レース前は会う人、会う人、皆に『距離は大丈夫ですか?』と質問されました。そのたび、絶対大丈夫と返事をしていたので、実際にこういう結果を出せて良かったです」
清水久調教師が、レース直後の中山競馬場で“してやったり”の笑みを見せつつそう語ったのが印象的だった。

 こうして秋初戦で好スタートを決めたキタサンブラックは、続く菊花賞では更なる距離延長を克服。三冠最後の関門となる3000メートル戦で、自身初のGI制覇を飾ると、古馬になってからは先述した通り天皇賞(春)の連覇やジャパンC(GI)に有馬記念(GI)など、引退するまでに実に7つものGI制覇を果たす。当然だが、その頃にはもうこの馬に対し距離不安を唱える声は一切出なくなっていた。キタサンブラックと清水久調教師にとって、セントライト記念が大きなターニングポイントになったのは間違いない。

 さて、今年のセントライト記念は各馬の今後の進路にどのような影響を与える結果が待っているだろう。勝敗だけでなく、距離適性や成長度など、色々な点に注目して見てみたい。

文=平松さとし

photograph by Satoshi Hiramatsu