ラグビーW杯の熱狂から1年――2019年9月20日から始まった日本大会で史上初のベスト8入りを果たしたジェイミージャパン。プロップとして全試合に出場した具智元(ホンダヒート)に印象に残っているシーンを改めて振り返ってもらった。

(1)開幕戦の異様な雰囲気

 ロシアとの開幕戦、僕はベンチスタートでした。ウォーミングアップの時は普段とそんなに変わらなかったんですけど、いざ入場して、国歌斉唱があって、キックオフの瞬間には、今まで経験したことのない緊張感に襲われました。始まってすぐ先制トライを奪われた時には、ベンチにいるのに、頭の中が真っ白になりました。

 試合前、「W杯の緊張感は違うぞ」って先輩たちは言っていましたけど、「これがW杯か!」と肌で実感できた開幕戦でした。

(2)福岡堅樹の逆転トライ

 W杯から1年すぎて真っ先に思い浮かぶのは、アイルランド戦のケンキさん(福岡堅樹)のトライです。

 後半に入っても両チームにトライがなく、ジャパンはリードを許していました(9−12)。僕はアサさん(ヴァルアサエリ愛)と交代してベンチから見ていたのですが、途中出場のケンキさんが逆転トライを決めた瞬間、スタジアム全体がものすごい盛り上がりで。ベンチにいた選手たちもみんな飛び上がって、僕も鳥肌が立ちました。夢かと思うくらいうれしかったです。

(3)思わず出たガッツポーズ

 アイルランド戦ではスクラムに押し勝って、ガッツポーズしちゃいました。試合の後、「ガッツポーズなんて珍しいね」って言われましたけど、うれしすぎて思わず出ちゃいました(笑)。
 
 1本目のスクラムはペナルティを取られて、2本目は、ジャパンのFWが8人一体となって押し切った。アイルランドは力任せで無理やり押してる感じがしましたが、ジャパンは真っ直ぐ無駄なく押せて、きれいに割ることができました。

(4)選手たちも驚いた熱狂ぶり

 開幕戦でロシアに勝って、アイルランドに勝ったあたりから、ファンの人たちがめちゃくちゃ増えていることにビックリしました。特に、静岡(アイルランド戦)から移動する際、バスから見える人の多さに、本当に驚きました。

 毎試合毎試合、超満員のスタジアムでプレーすること自体がすごくうれしかったんですけど、ファンの皆さんの声援がここまで力になるんだと、あらためて実感したW杯でした。

(5)ベスト8進出の瞬間

 そういえば、スコットランドに勝った時も、ベンチから見ていましたね。山中(亮平)さんが外に蹴り出した瞬間は、もう本当にうれしかった。試合前は台風の影響で試合できるかわからない状況にまでなりましたけど、大会運営の皆さんの頑張りで無事に試合できて、ついに「W杯ベスト8進出」という目標も達成できて、言葉にならないくらいうれしかったです。

 ただ、交代してベンチに戻ってすぐの時は、「チームにめちゃくちゃ迷惑かけてしまった」って落ち込んでいました……。

(6)堀江さんの「無理したらあかんで」

 スコットランド戦で僕は、前半21分にアサさんと交代しました。実は、前のサモア戦で右わき腹を痛めてしまって、スコットランド戦が始まって、ちょっと力を入れるだけで、かなり痛む。でも、プレーを続けたい。でも、厳しいかもって、心が揺れていました。

 そこで、堀江(翔太)さんが声を掛けてくれました。「無理したらあかんで。あかんかったら早めにいいや」と。

 僕としては、スタメンなのに前半で交代するなんてチームに迷惑がかかると思っていたら、堀江さんは、「そっち(プレー続行)のほうが迷惑かけるで」と。

 いま思えば、堀江さんの言うとおりにして、本当によかったと思っています。堀江さんはW杯中も、W杯前の合宿でもずっとルーミー(ホテルで同部屋)で、いろんなお話をして、すごくよくしてもらいました。心から尊敬できる先輩です。

(7)フミさんのタックル

 先輩といえば、フミさん(田中史朗)にもすごくお世話になりました。フミさんは普段「オフ」の時はやさしいし、冗談も言っておもしろい先輩なんですが、ラグビーのスイッチが「オン」になると、ものすごく厳しいし、激しいし、熱い選手です。

 W杯では先発の流(大)さんに代わって試合終盤に出場して「ゲームを締める」役割でしたが、見事だったと思います。サモア戦のタックルもベンチから見ていて、とても頼もしかったです。

(8)もっと聞きたかった「リーーーチ!」

 キャプテンのリーチ(マイケル)さんがボールを持つたびに、「リーーーチ!」の掛け声が起きましたよね。リーチコールをもっと聞きたいから、僕もリーチさんに長くボールを持ってほしいと思っていました(笑)

(9)南アフリカのスクラム

 大会最後の試合となったベスト8の南アフリカ戦。開幕前に熊谷で南アフリカと対戦したじゃないですか(2019年9月6日、7−41)。スコアは開きましたけど、FWはスクラムで手応えを感じていたんです。「行ける」って。

 でも、東京で対戦した南アフリカのスクラムは、まるで別のチームみたいでした。すごく重いし、速いし、低い。残念ながらジャパンは敗れましたけど、「これが優勝を目指すチームのスクラムなんだ」と、とても勉強になりました。

(10)パレードでの再会

 すべての試合が終わって、最後のミーティングをした時、とても寂しかったですね。もうこのチーム、このメンバーでラグビーすることは二度とないと思うと……。

 それにしても、W杯の後のフィーバーには驚きました。まさか自分がバラエティ番組に出るなんて、W杯前は夢にも思わなかったです(笑)

 でもW杯の後すぐ、パレードでチームのみんなと再会できて、すごくうれしかったです。みんな元気そうだったし、何より、W杯は終わったのにたくさんのファンの方々が集まってくれて。ラグビーやっててよかったなと思いました。

文=朴鐘泰

photograph by Naoya Sanuki