周東佑京が泣いていた。

 9月12日の福岡PayPayドーム。試合終盤の8回、ホークスの守備が終わると、セカンドを守っていた周東は一塁側ダグアウトに走って戻った。2列あるベンチのうち前列中央あたりの自分の居場所にすっと腰を下ろす。すると、すぐに顔を突っ伏してしまい、大きなタオルを広げて目元を覆った。

 少し時間が経って、我に返って背筋を伸ばす。瞳は真っ赤に染まっていた。涙を浮かべるなんてものではない。誰が見ても分かるほど号泣する姿がテレビ中継映像に大映しになった。

「2つのエラー」周東が号泣した理由

 8回の守備機会で、この日2つ目となるエラーをしていた。

 場面は1死一塁。ここで打席のメヒアが放ったのはセカンドほぼ正面の緩いゴロだった。

 少し前進して大事に捕球しゲッツーを狙う。しかし、ボールが右手の指先に引っ掛かりすぎたのか、送球は二塁ベース上ではなくショートの守備位置方向に逸れてしまい、そのままレフトファウルゾーンまで大きく転がっていった。痛恨の悪送球で1死二、三塁となり、次打者の犠飛でホークスは失点を喫した。

 一塁走者は大ベテランの栗山巧だし、打者走者はメヒアだ。慌てる必要は決してなく、凡ミスと言われても仕方のないプレーだった。

 この試合、1つ目のエラーは7回にあった。この回先頭の呉念庭の打球はバットを折られたこともあり、ボテボテの詰まったゴロだった。周東は猛然と前進し軽快にさばいて一塁へ送球。だが、一塁手のミットが届かないほど本塁方向へ少し流れてしまった。

 また、この回は記録に残らない拙いプレーがもう1つあった。1死一塁からの三塁ゴロ。松田宣浩が「5−4−3」で併殺を狙いに行ったが、周東との連係が合わずに二塁ベース上でもたついた。チェンジにできず走者が残ってしまい、ここで先発の武田翔太はイニング途中の降板となってしまった。

 試合自体はホークスが3回までに7点もリードしていたので、周東のミスが勝敗に直結することはなかった。しかし、周東本人は度重なる失態がただただ悔しかった。そして申し訳なかった。頭の中はぐちゃぐちゃだ。唇を震わせて泣いた。あふれる涙を我慢することができなかった。

「他の誰より、僕が一番じゃないですか(笑)」

 それにしても、人生は山あり谷ありだ。

 たった1日前、周東は誇らしげに笑っていた。

 前日11日のライオンズ戦ではヒーローになった。3回だ。難敵ニールからライト前に放った先制タイムリーも見事だったが、その後が圧巻だった。次打者の中村晃の2球目に二盗を成功させると、すかさず3球目には三盗を決めた。そして、中村晃がきっちりセンターへ打ち上げたのを見て、犠飛で本塁に生還。これぞまさしく「スピードスター」と拍手喝采がスタンドからそそがれた。

 試合後はお立ち台を終えて、報道陣の囲み取材に応じた。マスク越しでもニコニコ笑顔が伝わってくるほどのハッピーオーラに満ちていた。

「ニール投手も前よりクイックが速くなっているのは頭に入れていて、その中でも足を上げて投げることがあるので、自分は準備をしていました」

 この二盗、三盗が今季16個、17個目のスチールだった。今年のパ・リーグ盗塁王レースはし烈で、この時点で周東は西川遥輝(ファイターズ)を抜いて2位に浮上し、パ・リーグ盗塁王に立つ和田康士朗(マリーンズ)に1つ差に迫った。

「(盗塁王は)すっごい意識しています。他の誰より、僕が一番じゃないですか(笑)。ネットや新聞でロッテ戦と日本ハム戦は必ずチェックしています。ただ、この前遥輝さんから『高いレベルで競い合えたらいいね』と声を掛けてもらいましたし、とにかく僕は1つ1つを積み重ねていくだけです」

「今宮先輩にダメ出しばかりされていたけど……」

 昨年、育成枠から支配下入りしてすい星のごとく現れると、球界随一ともいえる足の速さで魅了した。その一芸で日本代表入りまで果たし、侍ジャパンのプレミア12優勝に大きく貢献もした。

 当然相手の警戒が強まった今季はシーズン初盗塁まで開幕31試合を要するなど、なかなか思うように走れなかった。

「次は投手がストレートを投げるんじゃないか、牽制が来るんじゃないかと色々考えすぎていました。今はシンプルに、いいスタートが切れれば行くということしか考えていません」

 チームの首脳陣から何度も背中を押された。特に一塁ベースコーチャーも務める本多雄一内野守備走塁コーチは熱心だった。周東はホームの試合前の打撃練習は早い順番で打つ。それが終わると守備や走塁の練習時間となるが、外野の隅っこで本多コーチが投手役となりスタートを切る練習を繰り返し行った。そのおかげで今季4個目の盗塁成功あたりから完全に気持ちを吹っ切ることができた。

 また、その取材の流れの中で、筆者が「守備も、1月の自主トレでは今宮(健太)先輩にダメ出しばかりされていたけど、最近安定したのでは?」と水を向けると、「試合出場を重ねる中でいろいろな打球を捕れているし、自信になっています」と目じりを下げた。

「もちろん、セカンドを守っている先輩方を見ていると、僕はまだまだ足りない。もっと安定性を求めないといけません。技術が足りないので」

 そのように言葉を継いだところで、一時欠場も余儀なくされた右肩の状態を訊ねると「もう治ったといって過言ではありません」と胸を張ってみせた。

試合中の涙に“賛否両論”

 良かれと思って守備の話題も振って取材をした約24時間後に、まさか悔し涙を浮かべるシーンを見るとは思わなかった。

 試合中の涙について、この日の放送に携わった解説者の意見は真っ二つだったようだ。OB諸氏からは「まだ試合は終わっていない」と否定的な意見も多かったようだが、筆者としてはそれだけ1つのプレーに熱い想いを込めていた証だったと受け取っている。ただ、賛否はどちらもあっていい。

 また、翌日の試合にスタメン出場がなかった点も賛否が分かれるところだ。筆者は使ってほしかったが、工藤公康監督が試合前に「またここで失敗をしてしまうと、立ち直るのに時間がかかってしまう」と理由を明確に説明してくれたことで納得できた。

居残り練習に励む姿

 その一方で、周東自身はその気遣いに甘えるでもなく、自分の犯したミスと正面から向き合おうとしていた。

 12日のナイターが終わった後、翌日は13時からのデーゲームにもかかわらず、本多コーチに付き添われて送球練習に励む周東と、ショートを守った川瀬晃の姿があった。

 13日の試合前も周東は本多コーチにアドバイスをもらいながら、右手に持ったタオルを頭の上でぐるぐる回していた。肩を使わずに手先を器用に動かす。スナップスローを上達させるための方法だ。さらに試合後はまたグラウンドで居残り練習を行った。

 重ねて記すが、人生には山があれば谷もある。自信と反省。それを繰り返して人は成長をしていく。

 試合も野球人生も、これからまだまだ続く。今週末からはより多くのファンが球場に戻って来られることになった。ホークスでは人気イベントの「鷹の祭典」がイーグルス戦、週明けのバファローズ戦まで6試合行われる。例年ならば7月に行われるが、球団は「時期はずれでも楽しみにしてくださっているファンの方に喜んでいただけるようイベントを行いたい」と企画した。試合後の花火も特別バージョンとなっており、この夏に多くの花火大会が中止となり寂しい思いをした分をPayPayドームで楽しんでほしいとの思いが込められている。

 また、今年の鷹の祭典はお祭りを演出するだけでなく、選手会の発案によってユニフォームやキャップに「ブルー」の色を使って願いを込めた。医療従事者をはじめとするエッセンシャルワーカーの方々への感謝の気持ちを表している。

 周東は、今や人気選手だ。彼が懸命に頑張ることで、勇気づけられたり励みになったりするファンは大勢いる。これからのプロ野球人生でも再び谷はやってくるだろう。感情を抑えきれなくなる場面に出くわすかもしれない。だけど、何度だって這い上がってほしい。

 そうすれば、その次に山の頂上に辿りついたときには、以前の山を見下ろせるくらい高いところに立てているはずだ。

文=田尻耕太郎

photograph by Kyodo News