神宮球場来場のファンクラブ会員にメロンプレゼント――。

 最初にその知らせを聞いたときには「メロン」ではなく、「メロンパン」だと思った。しかし何度見ても、「メロン」は「メロン」だった。次に思ったのは、青果店の店頭で販売されている「串刺しメロン」、あるいはコンビニで売られている「カットメロン」のプレゼントだと思った。

 しかし、コロナ禍のご時世にあって食品を配るのはいかがなものなのだろうかと、いくら注意して読んでも「串刺し」や「カット」というワードはない。どうやら「丸ごと1個」らしいのだ。9月6日にリリースされたヤクルト公式ホームページのニュースには、次のように書かれている。

当日のチケットをお持ちの2020 Swallows CREW会員様へ
北海道北西部苫前町産「とままえメロン」をプレゼント(後日配送)いたします。

3試合で合計10000名にメロン1玉!

 そうなのだ。「串刺しメロン」や「カットメロン」を「後日配送」するはずがない。やっぱり「メロン丸ごと一個」をプレゼントするのだ。当然、「抽選で5名様に」などの文言が添えられていることだろうと思ってみたものの、公式ホームページにはこんなことも書かれている。

イベント対象者数/3日間で合計10,000名様へ「とままえメロン1玉プレゼント」
※各日、3,000名様以上の応募用紙をご用意しております
※各日、配布数量に達し次第、応募用紙の配布を終了いたします
※1会員様1日につき、ご応募1回とさせていただきます

 対象となる3試合で合計10000名にメロン1玉! 1万人で1つのメロンを山分けするんじゃないよ! 1万人にメロン1玉プレゼントだよ! 送料だけでもバカにならないはずだ。ヤクルト球団の太っ腹具合にいたく感動しつつ、この日神宮に行くと、たまたま旧知の球団関係者に出会った。思わず「すごい太っ腹ですね」と感想を告げると、彼は「えぇ、こちらとしても驚いています。先方からのご提案なんです」と興奮気味に語っていた。「先方」とは、どちら様なのだろう?

勝つしメロンもらえるし、何てすばらしい日……

 そして、9月16日、17日、「とままえメロンスペシャルday」が開催された。この日、受付ブースに行き、当日のチケットとファンクラブ会員証を提示すると、QRコードが書かれた応募用紙が配られた。すぐにアクセスして、会員番号、観戦日、メロンの配送先を入力する。ものの2分もしないうちに登録完了。あとはメロンが届くのを待つだけだ。

 16日は上田剛史の好守でようやく連敗を止めた。翌17日は投打の歯車がバッチリと噛み合って、1カ月ぶりの連勝を遂げた。興奮と歓喜の中で、僕はふと思う。

(ヤクルトは快勝するし、メロンはもらえるし、何てすばらしい日なのだろう……)

ミスタースワローズ・若松勉の出身地、留萌

 そして、球団関係者の語っていた「先方」という言葉が気になり、手元のスマホで検索すると、どうやら「先方」とは「苫前町農業協同組合」であること。さらに、このイベントが池山隆寛二軍監督との縁で行われたことを知る。

 北海道建設新聞社の公式サイトには8月30日付で、「善意のリレー、スポーツマスクが留萌に」と題されたこんな記事が掲載されている。

善意のリレーでスポーツマスクが留萌に――。建設資材の販売などを手掛ける堀松産商(本社・留萌)は26日、同社が東京表参道で運営するカフェ「HOKKAIDO PIZZA rururu(旧・とままえ風)」を通じて親交のある、ヤクルトスワローズ2軍監督の池山隆寛さんから贈られたマスク2400枚を留萌振興局に届けた。

 この記事によれば、池山さんと親交のある北海道の堀松産商という会社を通じて、北海道留萌の子どもたちにマスクが送られたのだという。ヤクルトファンならば「留萌」という地名にピンとくるはずだ。そう、ミスタースワローズ・若松勉の出身地であり、現役では五十嵐亮太の故郷でもある。

ヤクルトファンにメロンで恩返し

 なるほど、見えてきた。留萌出身の若松さんと、その愛弟子・池山さんとの関係から、留萌と縁ができたことで、池山さんはコロナ禍の中で留萌の子どもたちに支援をした。そして、その善意に対して、留萌サイドが「恩返し」として、ヤクルトファンに名産であるメロンをプレゼントした。そんな流れなのだろう。実にいい話だ。

夕張メロンに負けない苫前メロン

「……えぇ、そうです。池山さんにはとてもよくしていただいています。私は建設資材の販売が本業なんですが、飲食部門も手がけていまして、東京・表参道で北海道の名産をご提供するカフェをやっているんです。そこに池山さんがよくいらっしゃっていたんです」

 受話器の向こうで経緯を説明してくれているのは、今回のイベントの仲介役となった堀松産商・堀松克之社長だ。会社は北海道留萌市にあるという。

「すると、池山さんから“留萌の子どもたちに新型コロナの災禍から早く元気になってほしい”とお話があったんです。それで、私どもはあくまでも池山さんからマスクを預かった立場で、留萌振興局さんにお届けしたということなんです」

 それが、今年の8月26日のことだった。マスクを送られた留萌市サイドも「心のこもった贈り物をいただいた。運動を楽しむ(管内の)多くの子どもたちに届けたい」(宇野稔弘局長)と感激を隠せなかったという。地元紙の『日刊留萌』(8月29日付)によれば「スポーツマスク2400枚(185万円相当)」の心のこもったプレゼントだった。

「それで、池山さんのご厚意を受けて、留萌としても何か恩返しをしたいとお考えになったんです。苫前町の名産としてメロンがあります。でも、《北海道メロン》と聞くと、多くの人は夕張メロン、富良野メロンを思い浮かべると思います。そこで、苫前メロンのPRも兼ねて、ヤクルトファンのみなさまにプレゼントしようと考えられたんです」

若松さんに花束を贈らせていただいたこともある

 新型コロナウイルス騒動により、海外からの観光客が激減した。苫前メロンは多くのインバウンド需要に支えられていたという事情もあった。また、農林水産省が推し進める「元気いただきますプロジェクト」の支援対象となったことで、公的支援を受けることも決まっていた。さらに、販売促進事業として「安価でメロンを提供することができ、しかもメロンをプレゼントすることもできる!」という目論見もあり、とんとん拍子で今回のイベントが実現したのだという。

「私自身も留萌の出身で、小中高校と野球をやっていました。子どもの頃から若松さんが大好きで、若松さんと同じ北海高校の野球部出身なんです。若松さんが2000本安打を打って、北海道に凱旋してきたときには、花束を贈らせていただいたこともあります。ヤクルトファンの一人として、こうしたイベントのお手伝いをできたことを嬉しく思います」

まだ届かないメロンが待ち遠しい

 そして、このメロンプレゼントイベントは、神宮球場だけでなく、池山監督率いるファーム公式戦でも、9月18〜20日にかけて、埼玉・戸田球場にて【苫前町presents とままえメロンとブンブン丸のメロンスペシャル3days】が開催される一大プロジェクトとなった。

 なるほど、先の新聞の見出しにあるように、まさに「善意のリレー」だった。僕も含めたファンクラブ会員はメロンをもらえるし、今回のイベントを通じて「とままえメロン」の知名度は一気に上がったし、何よりもチームは連勝したし。そのすべてのきっかけを作ってくれたのが、池山二軍監督だったのだ。そして、その橋渡しとなった堀松社長は若松さんと同じ北海高校野球部の主将として、第60回センバツでは真中満元監督が在籍していた宇都宮学園と対戦したこともあるという。

 池山二軍監督から始まり、堀松社長を通じて、苫前町農協との関係が深まり、こうした顛末を経て、僕らの下にメロンが送られることとなったのだ。まだメロンは届いていない。今から、待ち遠しくて仕方がない。

文=長谷川晶一

photograph by Naoya Sanuki