9月8日、プロゴルファー横峯さくらは所属事務所を通じて、第一子の妊娠を発表した。現在は妊娠5カ月の安定期に入り、医師の判断のもとでプレーしているという。

 その発表から数日後、横峯はオンラインによるインタビューに応じてくれた。

 ふんわりとしたグレーのブラウスに身を包み、「今日は宜しくお願いします」と礼儀正しく頭を下げた。その姿は、1月の米ツアー第2戦でお目にかかった時と変わらないように見える。

「いや、ちょっと前に測った時、4kgぐらい増えていました」

 そう言って微笑む姿に、母親になる嬉しさが滲み出ていた。

飛距離は落ちた、でも体調は問題ない

 現在は無理のない範囲でゴルフに取り組んでいるという。

「妊娠前は朝から晩まで200〜300球を打って、18ホールをプレーし、トレーニングもしていました。今は、お昼ぐらいからハーフ(9ホール)を回って、日によって練習場で打ったり、打たなかったりという感じです」

 出産を経験した全ての女子プロゴルファーは「お腹が大きい時は、ドライバーが飛ばなかった」と口を揃えて言う。それに横峯も同意する。

「それこそ2日前ぐらいにゴルフをしたら、飛距離がすっごい落ちていました。15〜20ヤードぐらい。ミート率がすごい低くなって、(インパクトの)タイミングが難しいなって」

 たとえゴルフに支障があっても、体調に問題はない。2カ月ほど前に食べつわりの症状があったものの、今は落ち着いた。

「(その期間に)吐くってことは一回もなかったのですが、1日中ずっと何か食べたいみたいな。毎晩、お菓子をつまみたくなったんですけど、体重が増えるペースが早かったことと、カロリーなどを考えて、お菓子の代わりに桃やミカンなどフルーツを食べていました」

 今季は米女子ツアーの産休制度を利用し、出産後の2021年後半を目処に競技復帰を目指す。

「引退はないです」と即答

 今年の12月、横峯は35歳になる。すでに輝かしいキャリアを築き上げ、年齢的に「引退」の2文字が頭を過ぎることもあっただろうか。

 しかし、横峯は「引退はないです」と即答する。

 米ツアーでは出産後に引退するより、復帰する選手の方が断然多い。無料のデイケアサービスが帯同し、働きやすい環境が整っていることで、選手は安心して出産し、そして競技復帰を選択できる。

 ジュリ・インクスター、クリスティ・カー、カトリオナ・マシューなど、“お母さんゴルファー”の活躍を間近で見たことで「いつか子供ができたら、私も必ず復帰する」と以前から決めていたと横峯は語る。

 ただ、ゴルフのモチベーションを失った時期はあった。2009年に国内ツアーの賞金女王になった後である。

「(プロゴルフ人生最大の目標を達成したことで)燃え尽き症候群みたいになってしまって、いつ辞めてもいいと思っていました」 

プライベートと仕事を切り離さなくていいんだ

 次の目標が定まらない時間を過ごしていた横峯は、2014年に森川陽太郎氏と結婚。専業主婦になって子育てすることも夢の1つだったため、ゴルフを辞めるかどうかを森川氏に相談すると、アメリカ行きを後押しされた。ジュニア時代から密かに米ツアーに憧れていたという横峯の本音を、夫が尊重したのである。

 実際に米ツアーに参戦すると、これまでの価値観がひっくり返った。

 何人もの選手がプロゴルファーを続けながら子育てを両立させ、試合日の朝、自身の子供と一緒に朝食を食べる――。何気ない日常だが、選手とその家族の自然体で幸せそうな様子に衝撃を受けた。

「プライベートと仕事を切り離さなくていいんだと学びました。結婚したら夫と一緒に、子供ができたら家族みんなで。その都度、現実に向き合うことが、自分と家族の幸せに繋がると考え方が変わりました」

無理をしない「任せられるところは、甘えたい」

「いつか子供ができたらいいな」という願望は、思わぬきっかけで現実となった。コロナ禍である。それまで、夫婦の目標として東京五輪を目指してきたが、状況が変わり、家族のことを第一に考えることとなった。

 出産後は、義理の両親もできる範囲でのサポートをしてくれると話してくれた。

 全力で試合に挑んだ上に、完璧に家事をこなそうなんて、はなっから考えてない。たとえば、遠征中は夫婦で役割分担をしている。食事は夫の森川氏が作り、横峯は片付けをするという感じ。家族が幸せであるために、無理をしすぎないことが大事だと意識している。

「本当に恵まれているなと。1人で転戦しながら子育てすることはすごく厳しいので、(家族に)任せられるところは、甘えたいです」

勝ちたい気持ちは高まっている

 復帰後の目標に「アメリカツアー1勝、国内ツアーでの永久シード」を掲げる。

 永久シードとは、その選手が出場する意欲がある限り、ツアー公認の試合に出場できる権利のことである。その条件は通算30勝。横峯は米ツアーを主戦場とするため、国内ツアーの出場試合数は限られている。国内ツアーで、あと7勝を挙げることは容易ではないだろう。

 しかも、2014年11月以来、ずっと優勝から遠ざかっている。

 だが、「永久シードという目標は、何年もかけてやらないと達成できないし、その目標があるから頑張れます」とモチベーションは高い。何より「悔しいですよ」と横峯自身が誰よりもその事実を痛感し、優勝を渇望している。

 夢だった米ツアーに参戦したものの、何度も予選落ちを喫したことで、とっくの昔に燃え尽き症候群は消え去った。

「『試合に出たい! 試合で勝ちたい!』という気持ちが年々高まっています」

 黄金世代など、生きのいい若手選手たちは多い。しかし、まだ自身のゴルフに伸び代も感じている。事実、トレーニングに取り組んできたことで、米ツアールーキーだった5年前より、ドライバー飛距離が10ヤードも伸びた。年齢を重ねても、勝負できると信じている。ゴルフが好きという思いこそ、現役生活を続ける一番の原動力だ。

“同期”ポポフが全英制覇を達成

 体調面を考慮して慎重に過ごしている間に、嬉しいニュースが飛び込んできた。

 2015年の米ツアールーキーの同期に当たるソフィア・ポポフ(ドイツ)が、約1カ月前にプロ初勝利を挙げた。しかも、初優勝が全英女子オープンというメジャーの大舞台だった。

「(ポポフの優勝は)励みになりました。何度か同組で回ったのですが、そんなに良いスコアではなかったいう印象です。なので、どこでどう変わるか分からないのが人生だなと思いましたし、私にも勝つチャンスがあるんだなと。(出産後に掲げる目標も)達成できると思ってやります」

 安定期に入ったことで、自重していたトレーニングを再開した。

後輩たちの選択肢の幅を広げたい

 さらに母となる自身が活躍することが、後輩たちの選択肢の幅を広げることになると考えている。

「国内では出産して復帰する選手はまだ少ない。私が出産して、復帰して、しっかり復活できたら、『さくらさんがやってたから私も』って思ってくれるかもしれないので」

 女子ゴルフ界を牽引してきた横峯らしい力強い言葉。

「まずは、しっかり元気な赤ちゃんを産むこと。頑張ります!」

 響き渡った明るい声に、こちらも幸せな気持ちになった。

文=南しずか

photograph by Ken Ishii/Getty Images