「これが世界のトップレベルだ」と言わんばかりの圧巻のパフォーマンスだった。

 スポーツクライミングの20歳未満の選手を対象にした『第8回リードユース日本選手権』が、10月10日〜12日に富山県南砺市にある桜ヶ池クライミングセンターで開催された。

 今年の誕生日で19歳か18歳になる『ジュニア』、17歳か16歳になる『ユースA』、15歳か14歳の『ユースB』、同13歳か12歳の『ユースC』の4つのカテゴリーに、男女あわせて255選手が出場した。

 今大会はカテゴリーごとに順位を競ったが、登るルートは基本的にはカテゴリーの枠を超えて同一。女子は予選の2ルートは全カテゴリー共通で、決勝ルートはジュニア、ユースA、ユースBが同じ課題。男子は予選、決勝とも体格差のあるユースCのみ別ルートで、ほかの3カテゴリーは同一ルートで争われた。

 このため各カテゴリーの表彰台の行方とともに、もっとも高くまで登るのは誰かにも注目は集まったなか、格の違いを見せつけたのが女子ユースAで優勝した谷井菜月だった。

「久しぶりに登りたくて」

 谷井は昨シーズン、W杯リードのデビュー戦となったブリアンソン大会で3位となって表彰台に立つと、その後もW杯リードでコンスタントに8名で争う決勝に進出し、W杯リードの年間ランキングで3位になった。

 谷井と同じく、ユース年代ながらも日本代表に軸足を置くジュニアの伊藤ふたばやユースAの森秋彩は、今大会の出場を見送ったのに対し、谷井は「W杯が新型コロナの影響でなくなったので、大会ならではの課題を久しぶりに登りたくて」と出場。

 すると、「ヤーニャ・ガンブレットやソ・チェヒョンに勝ちたい」と、来シーズンのW杯リードで世界の頂点に立つことを見据えたトレーニングの成果を存分に発揮した。

 決勝課題は完登に54手を要するロングルートで、ジュニア、ユースA、ユースBのほとんどの選手が6分間の競技制限時間に苦しめられたのに対し、谷井はただひとり完登した上に、制限時間を1分ほど残してというパフォーマンスだった。

「手数が多いルートだったので、タイムオーバーにならないようにペースを早めて登るように意識しました」

 こう明かす谷井と同様に、ほかの選手たちも「登るスピードを早めよう」、「レストを短くしよう」と考えていたという。しかし、それを競技中に実践できる対応力を谷井は備え、他に選手たちは持ち合わせていなかったということだ。

次元の違いを見せた49手目

 もうひとつ谷井が次元の違いを見せたのが、49手目を取る動きだった。ユースAの2位から4位タイまでの4選手は、ここを取れずにフォールして48+の成績に終わったが、谷井はこともなげに通過した。

「そこは別に……普通でした。オブザベ(オブザベーションの略:競技開始前の課題の下見時間)の時に、先に足を高い位置に送って取ろうと考えたくらいかな」

 そう淡々と振り返った谷井だが、ルート終盤の保持力や持久力がすり減ったなかでも、事前に考えたことを実践できるのが谷井の強さの秘訣でもある。

 国際大会ですでに実績を残している谷井が、他を圧倒したのは当然の結果と言えるが、見方を変えれば、これから世界に打って出ようとする選手たちが高めるべきものを、谷井が示したとも言えるほどのパフォーマンスだった。

 ユースBで優勝した中学3年の森奈央は、才能の片鱗を輝かせた。決勝ルートでは正面壁から側面壁へと移行するパートでほかの選手が使ったホールドを見落としながらも、安定した登りを見せてユース大会で初優勝。来年はシニア国際大会に出場できる年齢に達する森や、普段から谷井と一緒に練習をする中学2年の抜井美緒が、これからどれだけスケールアップしていくのかは楽しみなところだ。

アフターコロナの時代を牽引するのは?

 一方、男子はジュニア、ユースA、ユースBで決勝課題を完登した選手は現れなかったが、ユースAでは吉田智音がもっとも高度を稼いで、8月のリードジャパンカップ(LJC)で2位の結果がフロックではないことを証明した。予選1位通過ながらも決勝は8位に沈んだ村下善乙(LJC6位)とともに、この世代のレベルをさらに高めていってくれるはずだ。

 その8月のLJCで優勝し、昨年はW杯リードの優勝も経験したジュニアの西田秀聖は、予選を1位通過しながらも、決勝は余力を残しながらも高度36でまさかのフォールで2位。優勝を同学年の百合草碧皇にさらわれた。「来年はW杯リードで活躍するのが目標ですが、ユース大会に出場できる最後の年でもあるので、しっかりと忘れ物を取りに戻ってきます」と雪辱を誓った。

 ユースBでは安楽宙斗がジュニアやユースAの選手たちを抑えて最高高度を記録して優勝。この2年間ほどで身長が15cm近く伸びたという安楽は、「登っているときの距離感で、まだ背の小さかったときの感覚と迷うことがある」というものの、身長が低かったからこそ磨かれたクライミング技術を存分に発揮して頂点に立った。
 
 スポーツクライミングは8月のLJC、9月から始まったジャパンツアーに続き、今年初めてユース大会の開催に漕ぎ着けた。そして、来月末の11月21日からの3日間で『第6回ボルダリングユース日本選手権』(東京・葛飾区)の開催も決定している。

 今大会にはリードよりもボルダリングが得意という選手たちが出場を見送るケースも少なくなかったが、11月はそうした選手たちも顔を揃えることだろう。新型コロナウイルスの影響でさまざまな制約のなかでトレーニングを積んだ成果を、存分に発揮する選手は誰か。

 その選手がきっと、“アフターコロナ”の時代に日本を牽引する存在になっていくはずだ。

各カテゴリー上位選手一覧

女子ジュニア(2001年1月〜2002年12月生まれ)
1位 小島果琳(こじま・かりん) 岐阜 決勝40+/予選A 41+/予選B 36+
2位 二宮凛(にのみや・りん) 千葉 決勝40+/予選A 40/予選BTOP
3位 栗田湖有(くりた・みう) 新潟 決勝37/予選A 38/予選B 35+

女子ユースA(2003年1月〜2004年12月生まれ)
1位 谷井菜月(たにい・なつき) 奈良 決勝 TOP/予選A TOP/予選B TOP
2位 久米乃ノ華(くめ・ののは) 千葉 決勝 48+/予選A TOP/予選B TOP
3位 阿部桃子(あべ・ももこ) 神奈川 決勝48+/予選A TOP/予選B TOP
4位 中川瑠(なかがわ・りゅう) 大阪 決勝48+/予選A TOP/予選B TOP
4位 柿崎美羽(かきざき・みう) 東京 決勝48+/予選A TOP/予選B TOP
※2〜4位は決勝でのタイム差

女子ユースB(2005年1月〜2006年12月生まれ)
1位 森奈央(もり・なお) 三重 決勝48/予選A TOP/予選B TOP
2位 抜井美緒(ぬくい・みお) 奈良 決勝47/予選A TOP/予選B TOP
3位 小池はな(こいけ・はな) 埼玉 決勝46/予選A TOP/予選B TOP

女子ユースC(2007年1月〜2008年12月生まれ)
1位 小田菜摘(おだ・なつみ) 大阪 決勝42+/予選A TOP/予選B TOP
2位 関川愛音(せきかわ・めろでぃ) 青森 決勝40+/予選A TOP/予選B TOP
3位 藤村侃奈(ふじむら・かんな) 愛媛 決勝38/予選A36+/予選B 30+

男子ジュニア(2001年1月〜2002年12月生まれ)
1位 百合草碧皇(ゆりくさ・あお) 埼玉 決勝43/予選A 33/予選B 38+
2位 西田秀聖(にしだ・ひでまさ) 奈良 決勝36/予選A TOP/予選B 37+
3位 大政涼(おおまさ・りょう) 愛媛 決勝34+/予選A 33/予選B 35+

男子ユースA(2003年1月〜2004年12月生まれ)
1位 吉田智音(よしだ・さとね) 奈良 決勝43+/予選A 31/予選B TOP
2位 田中裕也(たなか・ゆうや) 岐阜 決勝38/予選A 28/予選B 35+
3位 上村悠樹(うえむら・はるき) 東京 決勝37+/予選B 29+/予選B 37+

男子ユースB(2005年1月〜2006年12月生まれ)
1位 安楽宙斗(あんらく・そらと) 千葉 決勝45/予選A 30+/予選B TOP
2位 通谷律(かよたに・りつ) 佐賀 決勝32+/予選A TOP/予選B 38
3位 猪鼻碧人(いのはな・りくと) 埼玉 決勝32+/予選A 30+/予選B 35

男子ユースC(2007年1月〜2008年12月生まれ)
1位 藏敷慎人(くらしき・まなと) 兵庫 決勝TOP/予選A TOP/予選B 35+
2位 石原凛空(いしはら・りく)  東京 決勝35+/予選A TOP/予選B 32
3位 三竿莉平(みさお・りへい)  栃木 決勝33+/予選A TOP/予選B 30

文=津金壱郎

photograph by Ichiro Tsugane