昭和を感じさせる男が広島に帰ってきた。河田雄祐がプロ野球人生をスタートさせた地、広島にヘッドコーチとして2017年以来4年ぶりに復帰することが決まったのだ。

 第一声「ご無沙汰しています」と挨拶した会見から、熱い思いがあふれ出た。「機動力の精度向上」「打倒パ・リーグ」「常勝西武イズム注入」「スペシャリスト育成」「田中広輔再生」など次々にチーム再建プランも飛び出した。

 広島野球で育ち、常勝西武で緻密な野球を血肉とした。機動力野球を熟知し、熱い情熱を持つ指導者には、赤いユニホームがよく似合う。

 2020年の広島には、3連覇したときのような姿はなかった。シーズン開始早々に下位に落ちると、浮上することもできなかった。それどころか、チームから上昇ムードを感じることも、できなかった。チーム内からは「こんなに早く、こうも変わってしまうとは思わなかった」という嘆きも漏れ聞こえてきた。

 河田氏も敵として、変化を敏感に感じ取っていた。

「元気というか、湧き出るパワーがちょっとなかったのかなと敵としては見ていた。試合をやっていく中で、一番そこが大事だと思うんですよ。結果うんぬんではなく、何とかしてやる、その気持ちがなければ相手に勝てないと思う」。

 心技体の一番上にある「心」の重要性を2020年の広島から再確認した。

選手によって接し方を工夫する「河田流のコーチング」

 25年ぶり優勝の16年、連覇した17年は、黒田博樹、新井貴浩という大きな柱がチームの雰囲気づくりに大きな役割を果たした。その裏で、チーム全体にピリッとした厳しさをもたらし、前を向かせるムードづくりをしていたのは河田外野守備走塁コーチ(当時)だった。

 若手には厳しく、主力選手にはあまり指摘しない指導者もいる。だが、河田氏は若手であろうが、主力だろうが、ベテランであろうが、指摘することは指摘する。だからこそ、選手は素直に聞き入れられる。

 一方で、選手には「大人扱いしないといけない」とリスペクトを持って接している。選手の性格やキャラクターを重んじて、強制するようなことはしない。「明るい子もいれば、そこまで明るくない子もいる。内に秘める子もいれば、表に出る子もいる」。選手個々と向き合い、選手によって接し方も変える。

 チームメートの前でベテラン選手に指摘するときも、陰では「みんなの前でも言うからな。いいな?」と事前に伝える配慮もする。ベテランにはベテランのプライドがあるからだ。

 指導力に長けているだけではなく、一本筋が通った人間力に、選手はついてくる。

 空振りした後のしぐさや守備の緩慢さ、手を抜くプレーなどを河田ヘッドは見過ごさないだろう。大きなズレは、小さなことから徐々に大きくなって生じるもの。河田ヘッドは小さなほころびも、ゆがみもすぐに正す実行力がある。

相手によって「勝てるスタイル」を変えられるように

 西武、広島、ヤクルトでは外野守備走塁コーチとして、投球動作の分析、走塁技術指導、三塁コーチとしての状況判断などで、その手腕を発揮してきた。

「根拠のない盗塁は何も意味を成さない」。

 メディアは数字を取り上げたがるが、盗塁数がすべて得点に直結するわけではない。相手にダメージを与えてこそ、攻撃となる。走らずに相手を揺さぶることもまた機動力。「機動力=盗塁」ではなく、盗塁はあくまでも機動力の一部に過ぎない。

「ほかにも動かし方がある。いろいろと手を打たないといけないところはあると思う」。

 強攻策で得点を狙うだけの攻撃では限界がある。今季リーグ2位のチーム打率を残しても、接戦になると1点に泣いた。特に各球団の苦手な投手相手にはとことん打てなかった。「西(勇輝、阪神)に対して打つ(策)だけでは攻略できないことは今年立証されている。そこはバリエーションがないと勝てない」。ほかにも菅野智之(巨人)や大野雄大(中日)の名前を挙げながら、攻撃の幅の広がりを求めた。

 盗塁と同じように、機動力の一部であるバントの精度向上もテーマに掲げる。「(天然芝の)マツダスタジアムを本拠地にしているならバントの確実性向上は欠かせない。相手にとって嫌なことはしていかないと」。主体的に攻撃を組み立てるだけでなく、対戦相手にとって何が嫌なのか。勝つスタイルだけを確立するのではなく、相手によって勝てるスタイルを変えられる準備をする。細かな野球の追求が、大きな力を生む。

野球を楽しんで、相手に勝つ

 来季から、職場は三塁コーチャーズボックスから、ベンチの佐々岡真司監督の隣となる。守備走塁だけでなく、攻守両面で指揮官をサポートする参謀役を務める。

 入団会見を行った19日には早速、秋季練習を一塁ベンチに座る佐々岡監督の隣で見守った。2人で常に言葉を交わしながら、野球観や選手の情報などをすりあわせた。実はこの二人、同学年でお互いに「ササ」、「雄祐」と呼び合うほどの仲。来季からは「監督」と「ヘッド」と呼び合う首脳として、チーム強化を推し進めていく。

「とにかく選手が、体の芯から熱の入った動きがキャンプから出来るように、こちらから仕向けていくのが第一。あとは若いコーチ陣と一緒に成長できれば。カープの選手たちは野球小僧ばかりいるので、野球を楽しんで相手に勝つんだという気持ちを出せるように仕事をしていければいいかなと思っています」。

 佐々岡広島を押し上げるキーマンは、新ヘッドコーチかもしれない。

文=前原淳

photograph by KYODO