2020シーズンの日本シリーズはソフトバンクが巨人相手に4連勝し、シリーズ4連覇を果たした。2013年から8年連続でパ・リーグ球団が日本一になる現状、セパの格差はどこで生まれたのか? 投打の記録をピックアップし、2回にわたってお届けする(打者編はこちら)

 最後の打球がソフトバンクの二塁手、周東佑京のグラブに収まると、ドームの天井から驚くほど大量の金の紙吹雪が落ちてきた、その中でソフトバンクナインが歓喜の雄たけびを上げた。

 それは素晴らしいシーンではあったけれども、ここまで「一方の雄」が弱すぎると、日本シリーズの価値や権威までもが、かすんで見えてしまう。

 なぜ、巨人は2年連続で全くソフトバンクに歯が立たないままに敗退したのか?

 直接的には10月以降の両軍の勢いの差や、本拠地でない京セラドーム大阪で戦ったことなど、いろいろな原因があげられるだろうが、マクロでみれば、筆者は2つの数字的な観点からこの敗北を見ることができると思う。2回に分けて論じたい。

沢村賞、実は5年連続で「セの投手」が受賞

 ひとつは「昭和の野球」が「平成、令和の野球」に負けたという観点である。

 日本シリーズや交流戦で、セ・リーグはずっとパ・リーグに敗退しているが、両リーグ通じて「最高の先発投手」に与えられる「沢村賞」は、2015年以降、今年の中日、大野雄大を含め、5回連続でセの投手が受賞している(2019年は該当者なし)。

「沢村賞」は、先発完投型の投手を理想形としている。セ・リーグの投手が連続で選出されているのは、セの投手起用が沢村賞の理念である「先発完投」を重視しているからだ。これに対してパ・リーグはそこまで重視していないから、沢村賞を受賞する投手が出てこないのでは、という一面があるのだ。

 以下、ここ5年間の両リーグのセーブ数、ホールド数、完投数の推移。カッコ内は試合数に占める完投数の割合である。

2016年
セ 200SV 530HD 47完投(5.48%)
パ 219SV 541HD 46完投(5.36%)
2017年
セ 195SV 620HD 34完投(3.96%)
パ 221SV 610HD 57完投(6.64%)
2018年
セ 204SV 585HD 43完投(5.01%)
パ 213SV 617HD 42完投(4.90%)
2019年
セ 188SV 697HD 30完投(3.50%)
パ 225SV 754HD 19完投(2.21%)
2020年
セ 154SV 518HD 36完投(5.00%)
パ 175SV 558HD 19完投(2.64%)

 5年前の段階では、両リーグの完投数に大きな差はなかった。むしろ2017年のようにパ・リーグがずっと多い年もあった。2017年は則本昂大(楽天)が8完投、菊池雄星(西武)、金子千尋(オリックス)が6完投と完投能力が高い投手がパ・リーグにいたことも大きい。しかし菊池がMLBに移籍、則本、金子の成績が下降していくとともに、パ・リーグでは完投数が激減した。そして救援投手の活躍の機会が増えた。

 セ・リーグも完投数そのものは増えてはいないが、各チームには今も「先発完投型」のエースがいる。今季はその中でも中日の大野、巨人の菅野智之、阪神の西勇輝らという先発完投型の投手が活躍したこともあり、完投数は増加。そしてセーブ数、ホールド数は減少した。

山本由伸や千賀は十分完投できそうだが

 現在のパ・リーグにも、オリックスの山本由伸やソフトバンクの千賀滉大など、頑張ろうと思えばもっと完投、完封数が増えそうな投手はいるが、彼らを擁する球団は9回まで投げることに固執せず、救援投手にスイッチするようになってきた。

 最近になってパ・リーグ各球団の投手起用の考え方が変わってきたのではないかと考えられる。先発の投球過多を回避し、肩、肘の損耗を防いで、長持ちさせようとする意識が強くなったのだろう。

巨人の救援陣を支えた高梨と鍵谷は……

 端的に言えば昭和以来の「先発投手重視」のセ・リーグと、「救援投手重視」のパ・リーグ。

 両リーグの野球はくっきりと分かれているのだ。

 セ・リーグの球団は先発投手にできるだけ長く投げてほしい、できれば完投を――と期待するケースが多い。しかし先発が降板した後は、先発より力の落ちた救援投手が投げるケースがままある。優勝チームの巨人でさえも「勝利の方程式」は確立されていなかった。

 大竹寛、田口麗斗のように巨人の救援の中には先発から回った投手もいる。救援陣が充実していないことは、今季の救援陣を支えた高梨雄平(元楽天)や鍵谷陽平(元日本ハム)がパ球団からの移籍であることからもわかる。

 また、日本シリーズで、本来、先発2番手のはずの戸郷翔征を救援に回したのも、原辰徳監督が救援陣に心もとなさを感じていたからだと思われる。

 しかし、付け焼刃は通用しなかった。

ムーア被安打ゼロの継投策が象徴

 これに対し、パ球団は先発投手にはQS(6回投げて自責点3以下、先発投手の最低限の責任)か、7回を投げてくれればと期待し、そのあとには「勝利の方程式」が控えている。ソフトバンクで言えば圧倒的な奪三振率のモイネロ、左殺しの嘉弥真新也、そして走者を出しても粘り強い森唯斗らだ。今季の日本シリーズで巨人は彼らに屈したといってもよいだろう。

 後ろに優秀な救援陣が控えていることで、パの先発投手は「6回、7回まで投げればいい」という意識になるはずだ。だから頭から飛ばしていく。完投も含めたペース配分を考えなければならないセの先発とは意識の部分でも違うのではないか。

 11月24日の第3戦で、ソフトバンクの先発ムーアが被安打0のまま7回93球で降板し、モイネロにつないだ。これは現在のパの投手起用法を象徴している。

沢村賞がいても、強いチームとは限らない

「指名打者制」が導入された当初、打順が回って投手に代打を送って投手を交代させる必要がなくなるので、パ・リーグには長いイニングを投げる本格派の先発投手が増えるのではないか――と言われた。

 確かに導入当初は、先発完投型の投手が増えた時期もあったが、エースクラスの投手のFA制度による移籍やMLBへの流出が続き、セーブやホールドという指標が導入される中で、ここ近年はパ・リーグの投手の価値観が大きく変わったのだ。

 昭和の時代は全投球回数の3割近くを1人で投げる大エースがたくさんいた。多くの投手は300イニング、400イニングを投げていた。そんな時代は、両リーグともにエースを中心にチーム作りをするのが常道だった。

 しかし、今の先発投手は昔の半分のイニング数しか投げない。これは、今の投手が駄目になったわけではなく、野球そのものが変質したのだ。今は、複数の優秀な先発投手と、専門的な救援投手陣がいるチームを作るのがセオリーになりつつある。

 沢村賞投手がいても、強いチームができるとは限らないのだ。

「先発失格」の投手を救援に回すのではなく

 沢村賞の選考委員は「先発完投型」の投手を重視する姿勢を変えていない。沢村賞のもととなった沢村栄治が活躍した巨人としては、これを重視せざるを得ないのかもしれないが、一方で「それだけではパ・リーグには勝てない」のだ。セ・リーグ球団は投手の育成、起用について大転換をするべき時が来ているのではないか。

 巨人は日本シリーズ敗退の翌日からチーム再建に着手することになるが、最優先は「救援投手の整備」だと思う。これまでのように「先発失格」になった投手を救援に回すのではなく、最初からセットアッパーやクローザーに向く資質の投手を見つけ出し、経験値を高めることだろう。

 そういう変革がなければ、セ・パの格差は縮まらないと思う。NPB全体の繁栄のためにも、セ・リーグは変わるべきだと思う。

文=広尾晃

photograph by Nanae Suzuki