「4年連続日本一は目標じゃないな。もう義務だよ」

 これは『週刊ポスト』89年1月6日号に掲載された、黄金時代の西武ライオンズのチームリーダー石毛宏典の言葉だ。それに対して、「さすが優等生。これだから、年俸一億円を2割8分の打率でもらえるわけだ(笑)」なんて茶化したのが、若かりし日の工藤公康である。元号が昭和から平成に変わる直前、3年連続日本一レオ軍団の正月座談会で先輩に突っ込む恐れ知らずのやんちゃな“新人類”。時は流れ、その工藤は57歳になり、令和の時代にソフトバンク監督として4年連続日本一を達成することになる。

 2020年11月25日水曜日、福岡PayPayドームで日本シリーズ第4戦が行われた。個人的に昨年のシリーズ以来、1年ぶりの九州だ。ただ、新型コロナウイルスの影響で今年のシリーズは約1カ月遅い11月下旬開催、ニューエラの坂本2000安打記念パーカー姿だと少し冷える。GoToトラベルクーポン適用でホテル代は通常の35%安くなり、相変わらず博多の街は日本シリーズ慣れしていて普通の雰囲気だったが、公園ではお散歩中の保育園児たちが「あつお〜!」と絶叫。その数時間後に、俺は球場のスタンドで「はたけ〜!」と絶望することになる。

1年ぶりの福岡PayPayドーム 15周年を迎えたソフトバンクホークス

USBの充電コンセントすらあるよっ!

 3連敗の巨人が負けたら終わりの崖っぷちで迎えた第4戦、打順を組み替えたG打線が初回にいきなり2番坂本の左翼フェンス直撃のタイムリー二塁打でシリーズ初の先制点。今日こそいける……とマジで思った数分後、ソフトバンクの3番柳田悠岐が巨人先発の畠世周から右翼席へ逆転2ランをかっ飛ばす。2回裏には9番甲斐拓也にも左翼ポール際に2ランを運ばれ、畠KO。4対1と冷静にみればまだ序盤の3点差だが、試合開始からわずか1時間足らずの攻防で、ホークスファンが多数を占める球場全体にハッキリと“巨人終戦”という雰囲気が充満した。

 野球の質と選手層の圧倒的な差。史上初の2年連続4連敗、誰がどう見ても完敗だ。ちくしょう……なんつって無数の巨大モニターで試合経過を追いながら、地域共通クーポン券を使い球場内の「ラーメン海鳴」で魚介豚骨ラーメン(780円)を食べたら、悔しいくらいに美味かった。今頃になってやけに骨身にしみる味だ。写真を撮っておこうと思ったらスマホのバッテリーが残り少ないことに気付く。やべぇ充電がない……ってコンコースのテーブルにUSBの充電コンセントがあるよっ! いや不覚にもコードをホテルに忘れてきちまった……って球場隣のシーホークギャレリアにコンビニがあるよっ! ちくしょう快適だぜ、東京ドーム色々負けてるよ。リースじゃない自前スタジアムの強み。球場グルメや設備面でも大きな差をつけられちまった。

「ラーメン海鳴」の魚介豚骨ラーメン(780円)、悔しいが美味しい コンコースのテーブルにUSBの充電コンセントまで…充実している

38歳中島&亀井に頼った巨人、38歳内川を使わなかったホークス

 マウンド上では巨人3番手の戸郷翔征が力投を続けている。解説者やファンの間でも、今季9勝を挙げたこの20歳右腕の中途半端なリリーフ起用には否定的な意見が多かった。正直、自分もそう思う。だからといって、仮に戸郷が先発していても、巨人が日本一になれたとは思わない。このチームの生命線は、坂本勇人、丸佳浩、岡本和真、菅野智之の“コア4”だったはずだ。ペナントレースの彼らの活躍がなければV2はできなかったし、この舞台にも立てていない。同時に彼らが機能しないとゲームプラン以前の問題に陥る。

 坂本は第4戦のタイムリーがシリーズ初打点だったし、岡本は打率.077、丸は打率.133でともに打点0だ(チーム打率.132はシリーズワースト記録)。初戦に先発した菅野は4失点を喫し負け投手に。こんな時こそ、ペナントで存在感を見せた吉川尚輝や大城卓三や松原聖弥に期待したいが、彼らも結果を残せず揃って第4戦はスタメン落ちした。まだ若いからしょうがない? いや、シリーズMVPのソフトバンク栗原陵矢やパ・リーグ盗塁王の周東佑京は、さらに若い96年生まれの24歳である。この世代の台頭がない限り、チーム力の底上げは難しい。

 最後まで38歳の中島宏之や亀井善行らベテランに頼った巨人と、同じく38歳の内川聖一をシーズンラストまで一軍に上げず走りきったソフトバンクの差。もちろんそれは球団側も痛いほど自覚しているはずで、今年のドラフト会議で巨人の史上最多12名の育成選手の指名が話題になったが、次代に向けてチーム編成のベースからの再構築を始めようとしている。

限りなく透明に近い日本シリーズ

 それにしても、全戦DH制の受諾、第2戦先発に今季5勝の今村信貴の奇襲ともとれる起用と、今思えば、戦前から原監督もまともに対峙したら勝算は薄いと感付いていたのではないだろうか。個人的に巨人ファンとして、これほど不完全燃焼感が強い日本シリーズは初めてだ。昨年の4連敗だって、名実ともに「阿部慎之助の引退から新時代へ」というテーマがあった。13年の星野楽天との対戦でも、3勝3敗で迎えた第7戦で最後はリリーフ田中将大の前に日本一を逃したが、悔しさの中にも「やることはやった」という妙な充実感があった。

 でも、G党にとって今シリーズは無だ。限りなく透明に近い日本シリーズ。グラウンドを叩いて悔しがる元首位打者の長谷川勇也とは対照的に、代打であっさり三振してうつむきながらベンチに戻る巨人のもう若手とは呼べない選手たち。ゲームセットの瞬間、ただ虚しさだけが残った。なのに、今日から試合がないんだよ。

俺らにはこんな時こそ野球が必要だった

 第4戦は球場全体の雰囲気を味わえてテーブル付きで原稿メモを取りやすい外野のHIPバー指定席を、菅野のNPBラスト登板になる可能性も高い第5戦は近くで見ようとプレミアムソファ席のチケットを取っていた。でも、その第5戦はない。今年のプロ野球が終わっちまったんだ。不完全燃焼感を晴らすには、来季開幕まで4カ月も待たなければならない。

テーブル付き外野のHIPバー指定席 球場全体の雰囲気を味わえる良い席だったが……

 ……ってこの原稿は博多のホテルでコンビニおにぎりをレッドブルで流し込みながら書いているが、昨夜あれだけ情けない負け方をしたのに「もう見るのやめる!」じゃなくて、「来年も日本シリーズへ行くから早く開幕してくれよ!」なんて思う野球ファン特有の明日を信じるメンタリティに自分でも驚いている。

 とにかく、約3カ月遅れで開幕して、ペナントからポストシーズンまで完走できて良かった。このコロナ禍の気の滅入るニュースが多い世の中で、もしプロ野球が開催されていなかったら、個人的にもっと暗く憂鬱な日常になっていただろう。こんな時に野球かよ、じゃなくて俺らにはこんな時こそ野球が必要だった。

この原稿は博多のホテルでコンビニおにぎりを食べながら書いている 第五戦に向けて連泊で予約していたホテル

監督・原辰徳、最後の関門

 さあ、来年だ。リベンジには日本シリーズに出続けて、絶対王者に食らいつくしかない。4連敗した巨人にあっさり独走を許したセ・リーグ各球団も含め、挑戦者なのだから。なにより、原辰徳がこの2年連続スイープの屈辱を抱えたまま引くとは思えない。振り返れば、選手時代は同期入団の石毛の存在と「打倒・西武」を追い続けた男だ。引退直前の『週刊ベースボール』95年10月30日号のインタビューでは、若大将タツノリがこんなコメントを残している。

「自分の野球人生の中で、最後にやり残したことは何だろう?と考えたときに、とにかく西武に勝ちたい。プロ13年目を終えるくらいのときに思いましたね。僕の心の中では、西武とは石毛・西武なんですよね。年は僕よりも上ですが、同期でプロに入った石毛さんのいる西武に勝ちたい。そういう気持ちが強かったですね」

 そして、実際に94年の日本シリーズで西武を破り、翌95年に現役引退する。同じように、監督となった今、「とにかくソフトバンクに勝ちたい」と願っているはずだ。WBCで世界一にもなり、三度目の指揮でリーグ連覇を達成し、巨人の監督最多勝利を更新して、阿部慎之助という自身の後継者候補にも目処がついた。正直、もはやすべてをやり遂げた感すらあった。だが、ここにきて大きなテーマができた。奇しくも、相手は黄金時代西武の左のエース工藤公康が指揮を執るチームだ。

「打倒・ソフトバンク」

 これこそすべてを手に入れた監督・原辰徳に残された、最後にして最大の関門となるだろう。昭和、平成、令和とプロ野球大河ドラマは終わりなく続いていく。

 See you baseball freak……

©Nanae Suzuki

(文中写真=中溝康隆)

文=中溝康隆

photograph by Hideki Sugiyama