ソフトバンクの日本シリーズ2年連続4連勝で幕を閉じた2020年のプロ野球だが、“これまでのプロ野球”と同じで人気は保てるのか? 記録とNPBの構造という2つの視点からの提言(全2回の1回目/#2はこちら)。

 このコラムで日本シリーズで巨人が惨敗した原因として、「DH」とともに「先発完投型の投手起用」だと指摘した。エースが大車輪の活躍をしてチームを優勝に導いたのは、昭和の時代のプロ野球だ。それから何十年も経過し、日本プロ野球は大きく変貌したにもかかわらず「先発完投」の4文字は今も根強く残っている。

 本当に「先発完投」は今の野球に必要なのか、考えてみたい。

 日本野球の伝統はエースを中心とした「守りの野球」だった。バットを振り回すアメリカ野球に対して、つなぐ打撃でもぎとった少ない得点を、エースが腕も折れよとばかりに力投して守り抜く。これが日本野球の美学だった。

エースが中心のチームが覇権を握った昭和

 プロ野球も昭和の時代は、エースを中心にしたチームが覇権を握ってきた。

 沢村栄治、ビクトル・スタルヒン、金田正一、稲尾和久、杉浦忠などの大投手は、チームを1人で背負ってきた。1961年、西鉄ライオンズの稲尾和久はチームイニング数の32.5%にあたる404回を投げて勝利数の51.9%に当たる42勝を挙げている。

 稲尾はこの年30先発して25完投しているが、それ以外に48試合で救援登板をしている。昔のエースとは「先発完投」をする合間に、救援でも投げていたのだ。

 このころの投手数は少なかった。この年の西鉄は、140試合を37人の選手で戦ったが、このうち投手は32.4%にあたる12人だけだった。

 昭和の時代は「先発完投」型のエースがいれば、チームはペナントレースを有利に戦うことができたのだ。

 しかし今は状況が大きく変わっている。今季、中日ドラゴンズの大野雄大は両リーグ最多の148.2回を投げたが、それはチームイニング数の14.1%に過ぎない。そして11勝はチーム勝利数18.3%に過ぎない。

 また両リーグ通じて最多勝の巨人、菅野にしても14勝はチーム勝利数の20.9%だった。それもあって今は、投手の数が非常に多い。今年の中日は120試合を全選手のうち55人で戦ったが、このうち投手は50.9%にあたる28人もいるのだ。

「エースの完投」は優勝に直結せず?

 現代の野球は「先発完投型」のエースがいるだけでは勝てない。2番手以下の先発投手、そして多くの救援投手がそろっていなければ優勝戦線を戦うことはできないのだ。

 さらに言えば、「エースが完投すること」は必ずしも重要ではない。

<ここ5年間の両リーグの優勝チームの完投数。カッコ内は完投数のリーグ順位>
・2016年
 セ・広島 7完投(5位タイ)
 パ・日本ハム 9完投(2位)
・2017年
 セ・広島 4完投(5位タイ)
 パ・ソフトバンク 4完投(6位)
・2018年
 セ・広島 3完投(5位)
 パ・西武 7完投(4位)
・2019年
 セ・巨人 3完投(4位タイ)
 パ・西武 3完投(3位タイ)
・2020年
 セ・巨人 4完投(4位タイ)
 パ・ソフトバンク 3完投(3位タイ)

「先発完投」型のエースがいることと、優勝することは相関関係がないのだ。

セ3連覇を果たした当時のカープもリリーフ陣が安定していた

 そして、完投数が増えることは、投手が故障したり以後のパフォーマンスが低下するリスクが高まることを意味している。

ここ10年で10完投以上した投手の翌年は

 ここ10年で10完投以上した投手は4人いるが、いずれも翌年は完投数、イニング数が低下している(2011年のダルビッシュは翌年にMLBに移籍したが、参考までに載せる)。

<田中将大(楽)>
2011年 14完投 226.1回
2012年 8完投 173回

<ダルビッシュ有(日→レンジャーズ)>
2011年 10完投 232回
2012年 0完投 191.1回

<金子千尋(オ)※現在の登録名は金子弌大>
2013年 10完投 223.1回
2014年 4完投 191回

<菅野智之(巨)>
2018年 10完投 202回
2019年 3完投 136.1回

 昨年の菅野は腰痛のために戦線離脱して、規定投球回数に届かなかった。

 この傾向を見た上でだが――今年、10完投を記録した中日、大野雄大が2021年にどんな成績を上げるのか、気がかりではある。

 完投できるような能力の高い先発投手がいることは、チームにとって有利だ。しかし救援投手がたくさんいる今、完投にこだわる必要性はないと言えよう。

「今の投手の体は弱いから」は本当?

 もちろん現代のプロ野球でも、昭和の稲尾和久のようにチームイニング数の3割を1人で投げる大エースがいれば、チームは圧倒的に有利になる。しかし現実問題として、そんな投手はどこを探してもいないのだ。

 では、そういったタイプの投手がなぜいなくなったのか?

 昭和の大選手たちは「今の投手の体が弱いからだ」と言う。「俺たちの時代のように走りこまないからだ」「昔の投手とはスタミナ、精神力が違う」なんて表現も利いたことがある。

 筆者はテレビや生で、金田正一、米田哲也、鈴木啓示、堀内恒夫、山田久志、東尾修などの大投手の雄姿を目の当たりにしてきた。偉大な投手に対するリスペクトは人に劣らないつもりだ。しかし「昭和の昔の野球の方が、今よりレベルが上」という意見には、異議を唱えざるを得ない。

単純に昔よりも球速が上がっている

 まず、単純に球速が違う。

 スピードガンは1970年代後半からプロ野球で導入された。中日の小松辰雄は1979年に150km/hを記録して「スピードガンの申し子」と言われたが、当時の投手でそれ以上の球速を出す投手はほとんどいなかった。

 金田正一は生前「わしゃ170km/hは出ておったと思う」と言っていたが、それを証明するものはない。

 NPBで最初に160km/hを記録したのは2008年、巨人のマーク・クルーン(162km/h)だとされるが、今は160km/hを出す投手は、両リーグで10人はいる。

 それどころか、大谷翔平や佐々木朗希は高校生にして160km/hを計測している。今では高校生でもドラフト上位にかかるクラスの多くは普通に150km/hを出している。

 球速が上がれば、投手の肩、ひじへの負荷は増す。そのスピードで長いイニングを投げれば故障やパフォーマンス低下のリスクが高まると言える。

野手の体格、球場のスケールも大型化

 さらに、対戦する一流打者の体格が違う。

 昭和の大打者、王貞治は身長177cm、長嶋茂雄は178cm、野村克也は175cm。当代の坂本勇人は186cm、柳田悠岐は188cm、中田翔184cmとやはり大きい。、もちろん173cmの吉田正尚や171cmの近藤健介のような「小さな大打者」もいるが、プロ野球選手はここ半世紀で確実に大型化した。当然、パワーも増大した。

坂本も身長186cmの大型ショートだ©Hideki Sugiyama

 それとともに球場の大きさも変化してきている。1988年に開場した東京ドームを皮切りとして、NPBの本拠地球場は大型化した。昭和の時代、球場サイズは両翼90m中堅120mほどだったが、今は両翼100m中堅122m、昔は多かった「飛距離100m以下のホームラン」はほぼ絶滅した。

 昔の40本塁打と今の40本塁打は、サイズが全く違うのだ。

 端的に言えば、昭和の野球と平成、令和の野球はスケール感が異なっているのだ。

多くの変化球を投げれば肩ひじにも影響が

 広くなった球場でも大型化した選手を抑えるために――現代の投手はツーシーム、スライダー、チェンジアップ、カットボール、スプリッターなど様々に変化するボールを投げる。昔の投手は速球で空振りを奪ったが、今の投手はこうした変化球で三振を取っているのだ。こうした変化球の多くが速球以上に肩、ひじに負荷を与えると考えられている。

 これら野球そのものの変化によって、昔のように毎試合「先発完投」して、何百イニングも投げるような投手は絶滅したのだと思う。

 特にここ2、3年、菅野智之や大野雄大などごく一部の例外を除いて、先発投手の完投数が激減し、投球回数が減少している。2010年には28人(セ12人、パ16人)いた規定投球回数以上の投手が、2018年17人(セ8人、パ9人)、2019年15人(セ9人、パ6人)、2020年14人(セ6人、パ8人)と、どんどん減少している。

 これは、日米のプロ野球が大きく変化していることと関係がある。

 昨今のMLBでは極端な守備シフト、フライボール革命、オープナーなどこれまでにない投手起用が象徴的だが、毎年のように野球が大きく変わっている。その背景にはビッグデータの活用や、トラッキングシステムなどによる動作解析、投打球解析の進化がある。

 これがNPBにも波及して、プロ野球の既成概念を揺さぶっているのだ。最近の先発投手よりも救援投手を重視する動きは、これと関連しているのではないか。

 もちろん、長いイニングを投げられる投手は救援陣を休ませられるという点で希少価値が高い。ただ、はっきり言えば「先発完投」は現代プロ野球で、昭和の時代に比べて意味を失いつつある。

「沢村賞」もプロ野球の実態に即していない?

 投手をめぐるサイエンスは、これからも大きく変動するだろう。懐古趣味と言っては言い過ぎだろうが、「先発完投」を重視する「沢村賞」は、今のプロ野球の実態から乖離しつつある。

 MLBの最高の投手に与えられる「サイ・ヤング賞」は、当初は沢村賞と同様、先発完投型の投手が選出されてきた。しかし野球の戦術、用兵の変化に伴って「先発完投」などの指標を参考にしなくなり、救援投手も含めたベストの投手を選出するようになった。

 NPBも「沢村賞」の基準を抜本的に改めるべきだろう。

「沢村賞」だけでなく、プロ野球は既成概念にとらわれず、どんどん変わっていくべきだとも思う。

(そもそもセ・パ2リーグ制が限界? 関連記事より『野球人気低下打破へ「2リーグ制“解体”→3地区制」さらに新球団誘致しては』もお読みください)

文=広尾晃

photograph by Hideki Sugiyama/Kyodo News