レズビアンであることを公表している元バレーボール選手の滝沢ななえさんが、スポーツ界に求められる多様性への姿勢について語った(全2回の1回目/後編はこちら)。

「何か一歩踏み出すという行動をするのが大事なんじゃないか、そういうところは伝えたいと思います」

 バレーボールに打ち込み、現役生活から退いた現在はトレーナーとして活躍する滝沢ななえは、柔らかな、でも確固とした芯を感じさせる表情とともに語った。

 バレーボールのファンであれば、その名前を知っていることだろう。

 その足跡を簡潔にたどりたい。

 滝沢は八王子実践中学・高校で6年間、バレーボールに打ち込んだ。八王子実践は高校バレー界を越えて名前を知られる屈指の名門校である。滝沢は全国大会にも出場し、高校3年生のときには主将を務めた。

「監督が『滝沢がキャプテンをやれ』と。八王子実践は監督がキャプテンを指名するんです」

 卒業後、パイオニアレッドウィングスに進む。その後、上尾メディックスでプレーし、2013年に引退。その後、トレーナーとなった。

2007年、パイオニアレッドウィングスで選手として活躍していた滝沢ななえ

「ご縁と言うところが大きかったですね。『ジムをオープンするので立ち上げのメンバーとして手伝ってくれないか』と声がかかって、トレーナーという職に興味を持ちました」

 ジムに勤務したのち、独立し、今日に至っている。

 滝沢は2017年、出演したテレビ番組内でレズビアンであることをカミングアウトしたことで注目を集めた。

「何かマイノリティの方たちに伝えることはできるのかな」

「出演のオファーがあったときは、カミングアウトするとかそういう話ではありませんでした。打ち合わせのとき、『もし彼氏や旦那さんがいるなら、使いたい』みたいな話の流れで、同性のパートナーがいます、と話したら、番組にしていいですか? という流れでした」

 その下地となった出来事があった。

「勤めていたジムの代表には私がセクシャルマイノリティであることは伝えていました。たわいもない会話をしているとき、『トレーナー以外に何か、ななちゃんにできることがあるといいよね』と言われて、何かマイノリティの方たちに伝えることはできるのかな、それが私にできることなのかなと話していました」

 それもまた、縁がもたらした1つであったかもしれない。

テレビドラマを見て「こういう恋愛もあるんだ」

 自身が女性が好きであることに気づいたのは、テレビドラマがきっかけだった。

「私自身が女性の方が好きだと確信したのは21、22歳くらいの頃でした。当時、上野樹里さんが出演していた『ラスト・フレンズ』というドラマが放送されていました。上野樹里さんが女性を好きになるストーリーで、観ていて『私ももしかしたら女性が好きなのかもしれないな、こういう恋愛もあるんだ』と目で見えたのが気づきのきっかけになったと思います」

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 気づく前と後での変化をこう語る。

「女性が好きだなと確信する前は男性ともおつきあいしていました。ただ、まわりの友達のつきあっている話を聞いていると、どうも私は彼のことをそんなに大好きになれていないなと思ったり、友達に『あんた、ひどい奴だな』みたいなことを言われたり。自分の心がおつきあいしている相手にないのを自分の中でも感じているし、自分は人を好きになれない人間なのかなと考えることもありました。確信がないときのほうが恋愛に関してはすごく大変だったかなと思います」

 自身の性的指向に気づいたのち、「この人は知っておいてくれたらうれしいな」と思う人にはそのことを話してあったが、テレビでカミングアウトしたことで内面はより楽になったと言う。

「カミングアウトする以前は、例えば男性から好意を持たれても応えられないというか、ほんとうはそうじゃないんだけどなあと思いながらお会いしてお話ししたりしていましたから」

競技生活ではカミングアウトの必要性を感じなかった

 一方で、競技生活中も含め、それまでカミングアウトしなかったのはその必要を感じていなかったからだとも語る。

「私の体験談でしか話せませんが、カミングアウトした方がいいと思うことが、まずなかったですね。特に私の場合、性自認は女性で女子チームに所属していることに違和感がないし、言わなくても特に問題がなかったんです」

 1つ気になったのはファンの存在だった。滝沢は男性のファンが多かったが、「がっかりさせちゃうかな」と考えることもあった。

「でも、『私たちは滝沢ななえさんという一人の人間が好きなので、これからも応援します』とあたたかい言葉をいただいたり、ネガティブなことは直接目や耳に入ってくることはなかったです」

 自身がレズビアンだと気づいたのち、周囲に打ち明けたあとも、テレビ番組でカミングアウトしたあとも、それがために差別的な経験をしたり、困ったりしたことはあまりなかった。

カミングアウトをするかしないかは個人の自由

 その上で、滝沢は語る。

「言えないことが苦しい人と、言わなくてもいい人、いろいろなスタンスがあると思います。言う言わないは個人の自由です」

 そして「言えないことで苦しんでいる人がいるなら」と続けた。

「スポーツをやるにあたって、メンタルはとても大事になってくると思います。プライベートで悩んで苦しんでいる、そういうところもプレーに出てしまったりします。私が言えるのは、理解してくれる人は思っているよりもきっとたくさんいるということ。言えないことが苦しい、孤独を感じているとか、それによって前向きにプレーできないのであれば自分自身で一歩踏み出すと世界が大きく変わるんじゃないかと思います」

 それを自身の体験から実感するからこそ、こうも語った。

「悩んでいる人も多いと思うし、そういう人の勇気とか励みとかに少しでもなれればいいなと思ってカミングアウトに踏み出したので、もし1つのモデルになれていればうれしいと思います」

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文=松原孝臣

photograph by AFLO