クリス・ラブロイは芸術大学の最高峰として名高いロンドンにある ”ロイヤル・カレッジ・オブ・アート” で修士号を修め、卒業後、プロダクト・デザイナーとしてインテリア・デザインの道へ進んだ。そこで彼はふたつの自己認識を得ることになる。ひとつは、オブジェよりもイラストに魅力を感じること。そしてもうひとつは、アニメーション・レンダリングという特別な手法によって独自の世界観を創造する自らの能力についてである。

彼が尊敬するデザイナーは、マーク・ニューソン。ニューソンが初めてデザインしたシルバーのアルミ製チェアは、かつてオークションに出品され、100万ポンド以上の値がつけられている。ラブロイにとってまさに憧れの存在なのだ。「世界中の人々が彼の作品を称えました。しかし、オブジェ作品よりも彼のイラストを好む人が少なくないのも事実です」とラブロイは語る。

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そうして、ラブロイがたどり着いた結論は、「オブジェの製作を止める」ことであった。彼はもともと  ”人は実在するほとんどの物を必要としていない” という持論を持っていた。そして、その持論を裏付けるかのように、彼のイラストレーションを求める需要は高まっていった。ラブロイのアニメーション製作は、地元の建築オフィスからの依頼でスタートし、アバディーン(スコットランド北東部の都市)の石油会社からのビッグ・オファーへと発展した。ラブロイが得意とするのは、タイポグラフィによる躍動感の表現だ。実在するオブジェを文字や言葉へと変形させていく。彼の出世作ともいうべき ”Made in the USA” をテーマにしたイラストレーションは、アメリカのニュース雑誌『Time』の表紙を飾っている。

彼の作業風景を見せてもらうと、コンピューターを起動すると、グラフィックボードのタッチペンを手に取り、何やらラインを描き始めた。その手はミリ単位で上下左右を繰り返す。そしてわずか数分でモニター上に街並みのデッサンが完成するのだ。最初の段階におけるプリミティブ・デッサンである。「イラストが完成するまでには通常数週間かかりますが、最近はコンピューターにいろいろ助けられています。たとえば、アイディアのフィードバックはすぐにこうやって...」と話しながら、ラブロイはたった数秒間で1台の車を塗装してみせた。そして、太陽の仮想位置をずらすと、マシンの塗装の光沢が瞬く間に新しくレンダリングされる。



ラブロイの仕事は沈黙のプロセスを積み重ね、夢の世界をモニターに描き出す。彼が3Dグラフィックで描く情景は、穏やかで、独特の静けさを放つ。本棚の下のラックに置かれ A2プリントのグラフィックがまさにそうだ。モダンな別荘のプールの中に12台のパールブルーのポルシェがひしめき合って浮かんでいる。ここで重要な役割を果たしているのが、背景の洗練された建築物だ。カリフォルニアのパームスプリングスにあるお洒落なケース・スタディ・ハウスのプールであったり、眩いネオンを放つモーテルの駐車場であったり、70年代の前衛的な日本建築の街並みであったり。

建築物のリアリティを高めるため、ラブロイは常に緻密なプラニングを慎重に行っていく。「巨大なライブラリに、ありとあらゆるマテリアルやテクスチャー、サーフィスをアーカイブしています。このライブラリのお陰でどの建物もほぼ写真のようにリアルに再現することができるのです」。彼は自前のカメラで常に新しい素材やモチーフを探し求めている。

彼の作品はウェブサイトで閲覧できるが、今のところ実物が見られる専用のギャラリーは存在しない。作品を販売して生計を立てているわけではない彼にとって、全く必要ないためだ。「今のところは、ですけどね」と、思わせぶりな笑みを浮かべるラブロイ。現在のところの本業は、代理店や出版より持ちこまれるイラスト制作の仕事なのだという。

ラブロイは気分転換に赤いケイマンでドライブに出る。「モータースポーツと公道、両方をカバーするポルシェのエンジニアリングを私は深く信頼しています」と話す。ポルシェからコンスタントに新モデルが登場することが楽しみらしい。ポルシェのスポーツカーを、彼は珠玉の「作品」として捉えているのだろう。

ラブロイはいつの日かスコットランドで、制限速度を超えるハイスピードで心おきなくポルシェを走らせたいと願っているのだとか。ドイツのアウトバーンが理想だが、スコットランドではそうもいかない。「警察は非常に厳しく、慈悲は皆無。小さな田舎道であってもルールは絶対ですからね」。

その反動がラブロイの作品をドライブしているのかもしれない。加速していく空想の世界を、イラストの世界へ反映させているのである。