戦後のドイツ車を代表する名車、VWビートル(Octane日本版編集部の元社用車)と、同じくフランス車を代表するシトロエン2CV(筆者の私物)の徹底比較企画、第二弾は走りくらべだ。第一弾はこちら

●ステージ1 日常走行インプレッション編

ともに設計は戦前の両車だが、テスト車両は2台とも日本正規輸入としては最終型である。ビートルは1976年型、2CVはぐっと新しく1990年型だ。走行性能は初期のものよりも格段に向上したモデルである。

最初に断っておくとテスト車両のビートルはスポルトマチックというクラッチペダルのないセミオートマ仕様である。トルコンと自動クラッチを組み合わせたこのシステムは、現代のAT車のようにDレンジに入れておくと自動変速してくれるものではなく、手動で前進3段のギアを切り替えていくタイプだ。ただしトルコンがついているのでクリープもするし一番高いギアでも緩慢ながら発進を許すイージーさを持つ。



このスポルトマチックのおかげもあって、ビートルの市街地走行は拍子抜けするほどスムーズで、余裕を持って流れに乗ることができる。もちろんバタバタうるさい1.6リッター空冷水平対向エンジンが十分なトルクを発揮していることが、その余裕の源泉である。一方でセンター付近がやや曖昧なステアリングと、ペダルストロークが深いうえに初期の効きが穏やかなブレーキには慣れが必要だ。



ビートルの乗り心地は普通だ。悪くもなく良くもない。愚直に衝撃を和らげるタイプのものだ。コーナリング時やブレーキング時の姿勢変化の少なさなども含めて、現代のゴルフとも通じるフォルクスワーゲンらしい安定感のある乗り味である。

一方の我が愛車2CVはオリジナルの602ccではなく650ccのオーバーサイズピストンを組み込んでいることを正直に告白する。オリジナルの29馬力に比べ1割ほどパワーアップしているものと思われるが、だとしても32馬力にすぎない。



2CVも4段マニュアルを駆使すれば、世間で言われるほど街中で不自由を感じることはない。ただビートルの半分以下の排気量しかない空冷水平対向2気筒エンジンは特に低回転域でトルクの薄さを隠しきれない。プルルーンと軽快なエンジン音とギャイーンとうるさいギアの音を織り交ぜながら、高回転まで引っ張って適切なギアを選択していくのが、この車の乗り方だ。

2CVに乗って驚くとしたら遊びが少ないステアリングとブレーキ、そして見た目の薄っぺらさを裏切る重厚な乗り心地であろう。この乗り味は現代のシトロエンのそれに通じるものがある。



一方でコーナリング時の深いロールは現代の基準から大きく逸脱している。上の写真の速度は20km/hちょっとしか出していない。左側に人が乗っているとはいえビートルと比べるとその差は歴然だ。ただし持ち主である筆者の弁明(?)を聞いていただけるのであれば、ロールのスピードは自然で、いきなりグラっと傾くわけでないし、路面を掴んでいる感じも伝わってくるから怖くはないよ、と言いたい。






高速道路でも基本的な印象は変わらない。ビートルは100km/h前後まで余裕があり、その速度での巡航も苦ではない。一方の2CVは100km/hを出そうと思ったら出せるが、余裕はないし何よりうるさい。快適に巡航するなら80〜90km/hくらいが限界である。ただし直進性は2CVの圧勝だ。現代の車に混じっても、横風による影響を除けば優秀な部類に入る。長い周期で揺れを吸収する乗り心地はシトロエン一族の美点であり、2CVにも同様にそれを味わうことができる。


ビートルは高速でもハンドルセンターの遊びがやはり気になる。ただボディのしっかり感がもたらす安心感の高さは認めざるを得ない。あちこちガタピシ音がする2CVとは比較にならないレベルで、さすがドイツ車である。




ここまで主観的なインプレッションが続いてきたが、最後は客観的な数字でその動力性能を比較しよう。舞台は2016年当時、Octane日本版編集部があった虎ノ門のすぐ裏にある「江戸見坂」だ。撮影しているうちに時間が無くなってやむなく選んだわけではない。



この坂は全長200mにも満たない坂だが20%(水平方向に100m進む間に20m上がるという意味。三角関数で表記するとtanθ=0.2、つまり約11.3°)と、かなり急な坂なのである。非力なクラシックカーの動力性能を測るのにこれほどうってつけな場所はない。Top Gearもたじろぐ過酷なテストである。写真が暗いのはライトを点けたほうがカッコイイと思ったからで、決して時間がなくなったわけではないことは重ねて申し上げておく。



最初にビートルでアタック開始。太いトルクを生みだすフラット4エンジンと、そのトルクを有効に引き出すスポルトマチックが、このような急坂ではきわめて効果的だ。グイグイとまではいかないものの、力強い加速でいきなりの10秒切り!なんと9.8秒というタイムをたたき出した。正直、初めてのコースなので、このタイムがどれほどのものかはわからないのだが、なんとなく10秒を切ったことに心が高ぶる。



続いて2CVでアタック。有効なトルクが出る3000回転でクラッチをミートすると軽いホイールスピンを伴いながら2CVは猛然と加速する。キキーッというスキール音が閑静な街に響きわたる。坂の上にはホテルオークラがある高級なエリアだ。周囲の人々が振り向いた(気がした)。 



が、しかしそんな加速は長続きしなかった。1速は30km/hで吹けきってしまい稲妻の速さで2速にシフトアップするものの、低回転域のトルク不足で加速は途端に緩慢になる。タイム計測係で横に居座るヤング編集部員Mの巨体が恨めしい。結果は12.4秒。ビートルに大差をつけられてしまった。一人乗りだったら、平坦な道だったら、と言い訳が頭をよぎるが、ここは素直に負けを認めよう。



端的にいってビートルは優等生だ。車として正しい。その走りは現代の車には及ばないが現代の車に通じている。こんなに古いのに今の車とそれほど変わらない、そんな驚きがあるだろう。

一方の2CVは直進性と乗り心地の良さは古い車とは思えないほど素晴らしい。一方で驚くほど深いロール、そしてたびたびアクセルを床まで踏まざるをえない動力性能は、現代の車とは明らかに異なっている。

どちらが優秀かと問われれば、それは間違いなくビートルだ。でも、どちらが楽しいかということであれば、それは2CVではないか、と2CVに30年乗っている筆者は思うのだが……、しかし異論は認めます。



次回は両車の使い勝手編をお届けしよう。現代の車とどこが違うのか、どう扱えばいいのか、結論として日常使いしやすいのはどちらなのか。筆者が2CV乗りであることから、またしても圧倒的な2CV有利が予想されるものの、その結果やいかに!

 

*この記事は2016年1月から2月にかけて別媒体に掲載されたものを再編集しています。