フェアレディといえば日産、そして日本を代表するスポーツカーである。デビュー当初はオープン2シーターモデルであったが、後に誕生したフェアレディZ (S30型)はモダンなクーペスタイルのGTカーだった。いずれも主に北米市場で大人気を獲得。今なお”ダッツン・ズィー”の愛称で多くのアメリカ人から支持されており、毎年、Zだけのオーナーイベント”ZCON”が盛大に開催されている。

オープンモデルのSRフェアレディに取って代わるかたちとなった(数ヶ月の併売期間あり)S30Zだったが、当初は経営からの指示で開発されたものではなく、業務体系を見直して再スタートを切った日産の造形課(デザイン部)の日本人デザイナーたちが少数精鋭で描いた次世代のスポーツカーデザインを元に具現化したものであった。世界に通用する格好と機能がまずありきで、アメリカ市場からの市販化の後押しもあって経営判断がくだされたのち、エンジニアが開発を始めたという面白い成り立ちのスポーツカーでもある。

S30用には基本的にL型ストレート6エンジンを搭載することに。日産車のイメージアップの起爆剤として期待した北米市場に向けてはL24型2.4リッターのSOHCエンジンが用意されたが、日本仕様はアンダーパワーの2リットルSOHCで、その代わりアメリカ向けにはない4バルブ・3キャブ・2カムのS20型2リットル直6DOHCエンジンを積んだ高性能仕様のZ432も設定されたのだ。その後3AT仕様を追加し、さらに日本向けにも2.4リッター版を積んだ240Zシリーズが設定されると、日本専売モデルの240ZGがいよいよ登場。先端の尖ったGノーズとオーバーフェンダーをもつ240ZGはたちまちZファン憧れの存在となり、ワークスレースカーのイメージも重なって、多くの個体がZG仕様やワークスフェンダー仕様へと改造された。



本物の240ZGは今やZ432と並んで日本の旧車会を代表するコレクターズアイテムになっている。1973年にもマイナーチェンジを実施し、内外装の変更と排ガス対策が取られ、240ZGとZ432の生産もここで終了。74年にはホイールベースとルーフを延長して+2シーターとした2by2モデルを追加。おりからのオイルショックや排ガス規制の影響で、この後のZはスポーツカーとしての牙を徐々に抜かれてしまい、76年に登場したS31型を持って最終モデルとなった。S30型フェアレディZは結局1978年まで生産され、およそ53万台が全世界で販売された。


 
現在、販売されている240ZGにノンレストアの一台がある。ここで、オーナーA氏と自動車ジャーナリスト 西川淳(本記事執筆者)のQ&Aをお届け。
 
西川(以下、西):これまた240ZGとしては非常に珍しいプリザベーション(ノンレストア)個体です。いったいどのような由来をもつ個体なのでしょうか。
A氏(以下、A):オレンジの240Zと同じ1972年式のノーレストア個体ですから、同じ年代の日本仕様と海外仕様を見比べるのに最適な個体だと思います。この240ZGも私以前は1オーナーと言ってよく、ほとんど全ての記録が残っています。

西:さきほど見ましたが、前オーナーが買われてすぐに気づいた点など細かなメモも沢山ありました。
A:前オーナーは大変几帳面な方だったようで、だからこそこうしてノンレストアでもしっかりとしたかたちで残っているわけですが、とにかく付属のドキュメントはもちろん、購入時のレシートから整備記録と請求関係、オーナー自身のメモと今後の対策アイデアなど、細かな記録が沢山残っています。



西:それだけ読んでも楽しそうだ。
A:ちょっとこすってしまって修理をした、なんていう記録まであるんですよ。

西:そういえば左側面には修理した形跡が残っていました。
A:はい。そういった補修のあとはところどころにあって、それも残念なことにあまりキレイには治されていないんですが、当時はこの程度の修理にお金を掛けなかったんですね。

西:ボクも学生時代はホルツの補修キットとか買ってきて、できるだけ自分でやったりしましたもの。
A:そうなんです。そうした補修作業のことも記録として残っているので、これもまたこの個体の歴史だと思い、きれいに補修し直したりはしていません。

西:オリジナルのペイントが残っているほうが、今となっては貴重で価値がある。何でも全塗装してしまう人が多いなか、良い決断だと思いますよ。
A:もっとも補修と言っても本当に表面的なことだけで、ナカミに問題はまるでありません。骨格に影響するような事故歴もありませんし、もし仮に次のオーナーさんが本格的なレストアを試みても、フレームの腐りや曲がりも一切ないので、そんなに手こずることはないと思います。

西:下回りも覗いてみましたが、ホントにキレイだった。大事に乗ってこられたんですね。ボク、昔ZGのレストア企画をやったことがあるんですが、ルーフ以外、使えませんでした。前オーナーの使い方や保管の方法次第で、これだけ差が出るんですね。
A:ノーズは特によくぶつける場所だったので交換されている個体も多いのですが、これは当時のまま。お決まりの経年変化でほんの少し反っていますが、それもまたオリジナルの証です。

西:美しい形状をキープしていますね。ヘッドライトカバーとバンパーの間に大きめの隙間がありましたが……。
A:よく言われるところなのですが、新車のときからそうだったんですよ。カタログとかポスターとかをよーく見ていただければ分かります。

西:それこそホンモノの証明というわけですね。
A:そうなんです。むしろ隙間なくキレイに収まっている個体は社外品Gノーズを装着していると思ってください。

西:なるほど。それにしても240ZGには真贋論争がつきものになった気がします。
A:フツウの240ZにZG用の純正パーツを組み込めば、それっぽくは見えちゃいますから。

西:ホンモノを見極める方法ってあるんですか?
A:大事なのはやはり車検証です。HS30という型式だけでは判断できません。240Zかも知れないからです。チェックすべきは類別区分番号で、0070とあるのがホンモノの240ZGの5MT車です(編集部注:3AT車は0100)。

西:そのほかこの個体がホンモノである証はありますか?
A:Gノーズのセンターパネル裏側にあるリブの形状や各パーツの形状を見ても分かりますし、専用のトーイングフックがきちんと残されているのも特徴です。また、オーバーフェンダーの裏側には、FR前右/FL前左 RR後ろ右/RL後ろ左の識別ステッカーがオリジナルの状態で残されています。さらにリアバンパーにはZG専用色ガンメタグレーの半艶が残っていますし、リアバンパーのZG専用センターラバーストライプが一度も外された形跡がありません。



西:マニアしか知らないことですね!
A:そしてこれは知っている人がほとんど居ないと思われますが、グラブボックスの下側、普段は見えないところに白いチョークで”H-H”と記されています。240ZGの型式であるHS30Hからきたものと思われ、本物の240ZGの複数個体で確認済みです。推測ですが、ダッシュボードを組み立てる際に”H-H”を印すことで識別しやすくし、取り付け間違いを防いだのではないでしょうか。ちなみにオートマ仕様には”トルコン”と、Z432には”PS30”と書かれてあります。

西:なるほど奥が深い!で、乗ってみてもこれがめちゃくちゃ良かった。以前にボクが乗ったフルレストア個体より良い感じだと思ったくらいです。
A:この個体のエンジンは驚くほどスムーズに回ってくれます。E88型ヘッド、すなわち圧縮比は8.8:1で、トランスミッションは第二世代の5速であるFS5C71Bとなり、シンクロは初期の5速FS5C71Aと同じポルシェタイプで若干の改良が加えられました。このポルシェシンクロはS30開発中にその強いシンクロ能力と、玄人好みのフィーリングを技術陣が高く評価した結果、コスト高を懸念する販売サイドの声を押し切って採用にこぎつけた経緯があります。もっとも素人が無理やり操作しても変速できるほど高いシンクロ能力のためかえってトラブルやクレームが増えてしまいました。そのためのちにワーナー式シンクロをもつFS5W71Bへと変更されたのです。

西:ギアボックスひとつを取っても面白い逸話があるんですね。Aさんが購入されてから何か手を入れたりする必要はあったんですか?
A:基本的にはありませんでした。ただ、さきほども前オーナーがいろんなメモを残されていたという話になりましたが、そのなかに不満な箇所に対する善後策も記されていたんです。たとえば「リアスタビライザーの検討」というのがありました。そこで私の手元に来てから純正のリアスタビライザーを装着しています。当時のオプション設定ではありませんでしたが、聞くところによると販売店との相談次第で装着できた純正部品も沢山あったようです。リアスタビライザーはZ432に標準ですので、その他のグレードにも取り付けるためのブラケットがあらかじめ存在していました。



西:最後にもう一度、この240ZGのアピールポイントをお願いします。
A:とにかく何もかもがオリジナルで、しかも動かないものがありません。シートはボトムのみ、アンコ増ししてもらいました。時計も気味が悪いほど正確に動きます。あとはヘッドライト光量アップという定番の改造でしょうか。前のオーナーさんが実施されたもののようで、Gノーズのライトカバーではどうしても明るさが物足りなくなりますから、雨の夜でも安心してドライブできる有り難いモデファイです。

オーナーとのストーリーも含め、大切に受け継いでくれる人が見つかることを願う。


車両情報提供:CARZY(文:西川淳、写真:吉見 幸夫)
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