「大弦小弦」【沖縄タイムス】

「被爆者たちは、核の存在から逃れることのできない二十世紀後半の世界中の人間を代表して、地獄の火で焼かれたのだ」。井上ひさしさんは原爆投下後の広島を舞台にした戯曲「父と暮らせば」の「前口上」でそう書いた▼峠三吉「原爆詩集」や原民喜「夏の花」、井伏鱒二「黒い雨」。人類全体に対しての犯罪という視点から、戦後文学の中で原爆の非人間性は重要なテーマであり続けている▼免疫学の世界的権威だった多田富雄さんの新作能「原爆忌」もその一つ。旅の僧が広島を訪れ、父母を原爆で亡くし孤児になった女性やその父の亡霊に会い、苦しみの中に息絶えた犠牲者を弔うという筋立て▼講演に訪れた広島で原爆被害の「悲惨さに言葉を失った」多田さん。能で伝えようとしたが、事実の重さに、せりふが「空疎なものに響いた」と葛藤もあった▼戦後72年、体験者は確実に減っている。そんな中、あの日の記憶を継ぎ愚行を繰り返さないため、文学だけでなく演劇や朗読、音楽、アニメなどさまざまな表現が試みられている▼6日に広島、9日に長崎が鎮魂の祈りに包まれる。想像力を媒介に、生きている者が惨劇を忘れないこと。そしてあらゆる表現方法を使って次世代に伝えること。それが、私たちに代わり、死ななければならなかった人たちへの責務だ。(玉城淳)

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