香港の「一国二制度」が重大な岐路に立たされている。 中国の全国人民代表大会(全人代=国会)常務委員会は、香港の統制強化を目的とした香港国家安全維持法案をきょうにも、可決・成立させる見通しだ。

 香港返還記念日に当たる7月1日に施行する可能性が高いという。

 法案は国家分裂や政権転覆、外国勢力の香港への干渉などを処罰するもので、民主化を求める抗議デモを抑え込む狙いがある。

 1997年、英国から中国への香港返還が実現した際、中国政府は、一国二制度の下で香港の「高度の自治」を50年間、保障することを明らかにした。

 中国は一国二制度を「基本的な国策」だと指摘するが、同法が成立すれば、国際公約が骨抜きにされるのは火を見るより明らかである。

 国家安全維持法では「外国勢力との結託」によって国家の安全に危害を与える行為は犯罪と見なされる。

 反体制的な言動を取り締まるため中国政府は、香港に治安維持を担う出先機関を設置することになっている。

 市民らの国際支援の呼び掛けや対中制裁を求める声が「外国勢力との結託」と見なされ、罪に問われる可能性があるのだ。

 香港が国際金融センターとして目覚ましい成長を遂げたのは、「自由な香港」が制度的に保障されていたからだ。

 新法によって政治的な活動や言論の自由が大幅に制限されることになれば、香港にとって大きな損失である。

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 香港には香港基本法があり、この種の国家安全条例を制定するのは香港政府だと定めている。

 政府は2003年、基本法に基づいて国家安全条例案を香港立法会(議会)に提出した。

 これに反発した市民の大規模なデモによって条例案は撤回に追い込まれた。

 今回は、香港での立法手続きを経ていない。業を煮やした中国政府が直接、香港の治安維持に乗り出した形である。

 「国家安全の長期的な無防備状態を改めなければならない」−それが中国政府側の言い分だ。

 中国には、香港の民主化運動を旧社会主義国で起きた「カラー革命」になぞらえ、警戒する見方があるという。

 強硬姿勢と被害者意識が背中合わせになっているようにもみえる。だが、それが妥当なやり方だとはとても思えない。

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 米国のトランプ政権は、ビザの発給を制限する対中制裁措置を発表した。中国は「内政干渉」だと猛反発している。

 コロナを巡って対立を深めた米中が、香港問題でさらに対立をエスカレートさせるおそれがある。

 米中の制裁合戦は、ただでさえ疲弊した世界経済にさらなる打撃を与えることになるだろう。

 2大国が、競い合うように自国中心主義の振る舞いを続ければ、安定した国際秩序を維持することができない。今はその瀬戸際だ。