今期ドラマは医療ものが6本。この大混戦に賛否の声が上がっているが、近年のドラマシーンを振り返ると、刑事ドラマや医療ドラマが年々増加傾向にある。さらに、そうしたドラマで難役を演じる若手俳優が“実力派”ともてはやされる風潮も感じられる。こうした流れのなかのシリアスな社会派ドラマの乱立は、視聴者の“視聴疲れ”を呼んでおり、かつてのトレンディドラマのような、民放が得意としていたお気楽に楽しめるライトなドラマへの待望論も出始めているようだ。

■60〜70年代は社会派ドラマが台頭、“良質なドラマ”の価値基準は年代により変化

 近年のドラマシーンを振り返ると、社会性のある重いテーマを取り上げ、その映像からストーリー、演出まで重厚に作り上げる社会派ドラマが評価を受け、多くの視聴者から好まれる傾向がある。いわゆる“良質なドラマ”というものだ。それ自体は決して悪いことではない。

 過去の人気ドラマをごく簡単に振り返っていくと、かつては60〜70年代に松本清張氏の『点と線』や山崎豊子氏の『白い巨塔』などのベストセラーが映像化され、社会派がブームになった。80年代はホームドラマや刑事もの、大河ドラマなどに人気が集中。80年代後半にフジテレビの月9ドラマをはじめとするトレンディドラマが全盛に。これは90年代も続くが、『家なき子』(日本テレビ系)に代表される野島伸司ドラマが60〜70年代の社会性を“ポストモダン”化。当時の作品のおもしろさを分析して当時風に再構築した“良い意味での時代遅れ”っぷりが好評を博し、一世を風靡した。この影響でトレンディドラマも進化。木村拓哉人気も起こり、視聴率30%を超える大ヒットドラマが次々と生まれた。

 2000年代初頭は『池袋ウエストゲートパーク』(TBS系)や『ケイゾク』(TBS系)『トリック』(テレビ朝日系)など堤幸彦監督、宮藤官九郎脚本などドラマ界に新しい流れが生まれた。だが、視聴率的には60〜70年代の“初心”に返ったような『白い巨塔』(テレビ朝日系)のリメイクや『華麗なる一族』(TBS系)に数字が集まった。テレビ朝日が得意とする刑事、医療ものの人気シリーズが安定した視聴率を獲り始めたのもこの頃だ。10年代くらいからは、現実の社会問題や犯罪をシリアスに描く『Woman』『Mother』(日本テレビ系)などに評価が集まる。この間も軽いテイストの恋愛ドラマがなかったわけではない。しかし、ドラマ黄金期の90年代ほどの勢いはなく、また趣味趣向の細分化やテレビ離れなどにより、国民的と呼べるようなヒットドラマは生まれなかったのが現状だ。

■社会派ドラマ偏重傾向の裏側に“視聴率から逃げる”思惑も

 近年続いている社会派ドラマ偏重の傾向は、以前から指摘されているように視聴層の変化にまず要因がある。総務省が発表した2019年版「主なメディアの利用時間と行為者率」のデータによれば、平日のテレビ(リアルタイム)視聴の平均利用時間が減少した一方で、インターネットの平均利用時間は、平日、休日ともに増加傾向に。年代別には50代と60代のテレビ(リアルタイム)視聴の平均利用時間が高く、次いで40代、30代。20代は60代の3分の1以下となる。

 ドラマのターゲットとなる、テレビをよく視聴する世代は、いわゆる90年代ドラマ黄金期の視聴者層。団塊Jr世代ともかぶり、年齢分布でも層の厚い世代ということが分かる。この世代は多感な時期からドラマを観て育っており、いわゆる“目の肥えた視聴者層”だ。そしてここに“制作者の好み”というファクターが付け加わる。多くのプロデューサー、制作部のスタッフにこれまで話を聞いてきたが、トレンディドラマなどラブストーリーやコメディ系のドラマが(無意識的にだが)低く見られるのに対して、社会派ドラマは社会的にメッセージを投げかける意義、社会に対してドラマが担う役割などが制作することで評価される傾向にあり、そのポジションが高い。これには、テレビや脚本の“賞”が社会性を帯びた作品が選ばれる傾向にあることもあり、さらには“目の肥えた視聴者層”の存在が、この状況を盤石にする。

 つまり、「マス向けではない、数字は取れないものだが作品の評価は高い」というエクスキューズが生まれる。辛口な言い方になるが、数字の重圧と戦うテレビマンの“逃げ”になっている側面もないとは言えない。そして、そうした同じタイプの作品が重なると、本来好きな視聴者でもさすがに“飽きる”。

 一方、キャストの側も、“社会派で難役を怪演”などメディアや視聴者からもてはやされることが多い社会派ドラマを好む。前項と同様の理由もあり、そこからの評価をねらうマネージメントも少なくない。本来30代を過ぎてからでいいような重厚な役柄ばかりを10代、20代から重ねる若手俳優も多くなっている。この状況がスタンダードになると危険だ。王道やクズ役があってこそのコントラストとして、重い役の深みが感じられるのが本来の役者。「芸は人なり」。薄っぺらく見える恐れもある。そんな意味ではむしろ、ライトなドラマで爪あとを残している若手たちのほうが飛躍の可能性を秘めているとも言える。

■視聴率からは見えにくい「ライトな恋愛ドラマ人気」

 ここで先程の総務省のデータに戻ろう。インターネットの利用時間は年々増えており、20代が最多。30代、40代がやや減ってほぼ同数で、50代から減少傾向にある。しかし、そのネットでテレビ番組を観る人は驚くほど多い。例えば、フジテレビの動画サイト『FOD』仕掛け人である野村和生氏は、ネットのインタビューで「月9ドラマが若年層の女性にヒット。この現象は過去の月9作品もしかりで、『FOD』では女性がキュンキュンするコンテンツに集まる傾向があります」と話している。

 つまり、いつの時代もコテコテのベタでライトな王道恋愛ドラマは、若い世代を中心に多くの人の胸に刺さる。Netflixでも昨年、日本で2番目に観られたコンテンツは『テラスハウス』だった。テレビ視聴率に現れない数字がこういった場所に潜んでおり、需要の受け皿は、実はある。

 その時代の流行と恋愛要素の強いトレンディドラマは、たしかに賞味期限が短い。真剣にそのときの流行や恋愛を描いても、その時代を過ぎてしまえば、笑いの要素にもなってしまう。しかし、そんな刹那的なところにこそ、トレンディドラマの良さがあるのではないだろうか。社会派ドラマは普遍を映し出し、名作として残るものを目指す。だがすべてが後世に残るわけではない。一方で、その時代の打ち上げ花火であるトレンディドラマには、社会派ドラマにはない社会の俗世的な一面を映し出す役割があり、そのときに輝くことの重要性もある。

 トレンドには浮き沈みのリズムがあるが、社会派ばかりとなった今のシーンにこそ、気軽に楽しめる“テレビドラマらしいドラマ”へのニーズがひしひしと高まっていることが感じられる。テレビは時代を切り取るもの。シーンには打ち上げ花火も大事だ。数字のみに気を取られて及び腰になるのではなく、いまの時代のトレンディドラマを立ち上げる局があってもいいのではないだろうか。
(文:衣輪晋一/メディア研究家)