80年代にアイドルとしてデビューし、一世を風靡した女優たちが、経験と実績を積み上げながら年齢を重ね、役の幅を広げつつ、女優としての円熟期を迎えている。NHK連続テレビ小説には、『エール』の菊池桃子や薬師丸ひろ子をはじめ、『半分、青い。』の原田知世、遡れば2010年代前半でも『あまちゃん』の小泉今日子、『おひさま』の斉藤由貴などが出演。それぞれ朝ドラでの好演を契機に活躍の場を広げている。

◆それぞれの母親役を巧みに演じた2人、涙なしには観られない好演で視聴者を魅了

 過去作を振り返ると、数多くの作品で80年代デビューの元アイドルが女優として活躍している姿が見られる朝ドラだが、現在放送中の『エール』では、主人公・古山裕一(窪田正孝)の母・まさを菊池桃子、ヒロイン・関内音(二階堂ふみ)の母・光子を薬師丸ひろ子と、かつて旋風を巻き起こしたアイドル2人がベテラン女優として顔を揃え、存在感のある演技で視聴者を魅了した。

 劇中では、家族より自分の夢を優先し、作曲家を志して家を出る息子・古山裕一への母親としての相反する感情を、優しさのにじみでる演技で表現した菊池桃子。愛娘・関内音と古山裕一の許されざる結婚を、涙ながらに応援して力強く送り出し、視聴者の心を揺さぶった薬師丸ひろ子。それぞれの想いを抱える母親役を情感豊かに演じた2人の存在感と、涙なしには観られない好演は、SNSでも「薬師丸ひろ子さんも菊池桃子さんもいい女優さんになったなぁ」「薬師丸ひろ子さんの演技で初めて『エール』で泣いた」と絶賛された。

 近年の朝ドラを振り返ると、『エール』のほかにも、『半分、青い。』(2018年前期)と『おひさま』(2011年前期)の原田知世、『スカーレット』(2019年後期)の富田靖子、『あまちゃん』(2013年前期)の小泉今日子(薬師丸ひろ子も出演)、『おひさま』(2011年前期)の斉藤由貴など、80年代にアイドルとしてデビューした女優たちの好演が印象に残っている。その役柄は、ヒロインの母親役や、ヒロインを支える重要な位置にキャスティングされることが多い。そして、確固たる実力のある彼女たちの多くは、朝ドラでの要役出演をきっかけに女優業の活躍の幅を広げている。

◆若手の発掘だけじゃない!実力あるベテラン女優の魅力を再確認できるフォーマット

 『セーラー服と機関銃』(1981年)で人気を得た薬師丸ひろ子の朝ドラ初出演となったのは『あまちゃん』。朝ドラの視聴者層を若い世代にも広げた同作で、10代の頃から映画やドラマで清純派として活躍し、40歳を超えてもそのイメージを保つ大女優・鈴鹿ひろ美を、自身のイメージと重ね合わせて好演。その印象的な演技から、再評価の機運が高まった。その後、『いだてん〜東京オリムピック噺〜』(2019年)でNHK大河ドラマに初出演している。

 一方、『時をかける少女』(1983年)でデビューした原田知世は、『おひさま』や『半分、青い。』では当時と変わらぬ透明感のある清廉なイメージを保ちつつ、病弱だが優しく美しい母親役を体現。『紙の月』(2014年/NHK総合)では、パート先の銀行から1億円もの金を着服し、海外逃亡をはかる横領犯を演じるなど、役の幅を広げている。最近では、母親役だけでなく、SNS考察が話題になった主演ドラマ『あなたの番です』(日本テレビ系)での年の離れた夫・手塚翔太(田中圭)と妻・手塚菜奈役の若いカップルのような夫婦役の好演が記憶に新しい。

 このように朝ドラは、新たな才能の発掘や新進気鋭の女優のステップアップの場としての役割とともに、実力のあるベテラン女優の魅力を再確認できる場としてのフォーマットが確立されていることがわかる。

 こうした80年代アイドル女優の活躍の背景のひとつには、幅広い年代において顔と名前が一致する認知度を持つ、同世代女優への需要の高まりがある。母親役や年配女性役は、主人公の周囲のキーとなる役どころとなるケースが多く、どんなドラマでも必須かつ重要なポジションであり、なおかつ確かな演技力が求められる。配信ドラマのなどメディアの増加にともない作品数は増え続けているなか、同時に同役柄への需要も必然的に高まっている。そうしたなかで、演技が上手く、知名度があり、安心感や安定感がある、作品に箔をつける存在となっているのが、80年代アイドル女優なのだ。

◆オールマイティさを求められた80年代アイドル 豊富なキャリアと知名度からなる“絶対的”安心感

 アイドル黄金時代の80年代は、歌やダンスだけでなく、ビジュアルから演技力、トークまで、そのイメージ形成において、あらゆる面で完璧さが求められていた。それは、限られた数少ない枠であり、誰でもなれる存在ではない。90年代以降の移り変わりが激しく、アイドルが大量生産され、次々に消費されていく現在とは異なり、厳しい現場を経て、荒波に揉まれ、どんなこともこなす力量が備わっている80年代アイドルは、年月が経っても経年劣化せず、むしろより一層輝きを増している。

 薬師丸ひろ子は、同年代俳優との共演について「何十年とこの世界で生きてきて、たぶん言葉にしなくても分かり合える共通項がある。そういう仲間がいるというのは本当に素敵な仕事だと思います」。仕事への自身のスタンスには「私がこれまでの人生で感じたことは『謙虚であれ』ということです。人って『望むと自分の手から離れていく』ことが多いと思います。平常心で前を向いて歩いていれば、たまには神様が見ていてくれるかも知れない」(ORICON NEWS/2018年5月)と語っているが、そんな一時代を築いてきたベテラン女優の人間味あふれる姿勢が共演者やスタッフ誰からも愛されていることも、時を超えて第一線で活躍を続ける所以なのだろう。

 『エール』のチーフ演出を務める吉田照幸氏は、会話シーンでの窪田正孝、二階堂ふみ、唐沢寿明、薬師丸ひろ子の4人を“瞬発系”と称賛しているが、撮影については「芝居は動きまで細かく決めず、ある程度は役者さんに委ねて、ワンシーンを細かくカットせずに流れで撮影しています。お約束をなるべくやらずに、いい意味で視聴者の方々を裏切りたい気持ちがあります」(オフィシャルインタビュー)と語っており、そこからはベテラン勢を筆頭にしたキャスト陣への厚い信頼感がにじみ出ている。

 場数を踏んだ豊富なキャリアに加えて、さまざまなシーンで広く仕事をこなしてきていることから、制作者側もその実力や実績への信頼があり、安心感を得ている。こうした状況を鑑みると、年齢を重ねるとともに80年代アイドル女優への需要が高まっていくのは、必然であると言えるだろう。

(文/武井保之)