今年6月、京都の老舗窯元・瑞光窯(ずいこうがま)が投稿した1通のツイートが5.7万RT、7.5万いいねと大きな反響を呼んだ。『「カエルを助ける動物」が、1RTに1匹増えるうつわです』という言葉とともに、大人が両手で抱えるくらい大きな皿の縁に小さなカエルが描かれた写真。ツイッター民の心に刺さり、コメントはマニアックな動物のリクエストが殺到した。描き切るのは不可能と思われていた大皿がついに完成。なぜこの企画を始めたのか、一皿に込めた思いとは…担当者の土谷瑞光さんに聞いた。

■コロナで店存続の危機に…SNSで感じた拡散力と人のエネルギー

――瑞光窯は1867年創業の伝統ある窯元。そんな老舗がTwitterを使った企画を始めようと思ったきっかけは?

【土谷瑞光さん(以下、土谷)】新型コロナウイルスの影響でロクロ体験店の売り上げが激減し、お店の存続をかけてクラウドファンディングを立ち上げました。たくさんの方々に助けられて、Twitter投稿の時点で支援金額が約500万円に達していました。ご支援いただいた皆様への感謝の気持ちを私たちなりの方法でカタチにしたいと思ったのがきっかけです。

――恩返しの企画だったのですね。ちなみに、この企画へは何名で取り組まれましたか?

【土谷】ロクロ職人、絵付け職人、私の3人です。

――Twitterは普段から投稿をされていましたか?

【土谷】Twitterの開設は投稿当時2週間しか経っておらず、2投稿目だったので反応は未知数でした。

――2投稿目なのに、みるみるとツイートが広まっていきましたね。最終的には5.7万ものRT数となりました。

【土谷】予想以上の反響で驚きました。スマホ画面上のリツイート数が絶え間なく切り替わり、「Twitterのトレンド入りしている!」と、友人から連絡が来たり…。ありがたいことにクラウドファンディングの支援額も増えました。人と人とが繋がりあった時に生み出すお祭りのようなエネルギーを感じました。

■集まった5.7万匹が一皿に 中には見たことも聞いたこともない動物も…

――大きなお皿とはいえ、5.7万匹もの動物を描くことはできましたか?

【土谷】とても5.7万匹は描けませんでした。それでも描ける範囲で詰め込みつつ、見る方が楽しめるようにストーリー性ができるような部分を数カ所描きました。

――もともと「カエルを助ける動物」がテーマですもんね。コメント欄では見たこともない動物のリクエストもありました。

【土谷】リクエストいただいた動物で、調べられたものはなるべく描きましたが、架空の生物でゲームの生物だったり資料が見つからないものは描けませんでした。

――完成したお皿を見てみると、ものすごい種類の動物がたくさん描かれています。一番描くのが大変だった動物を教えてください。

【土谷】クアッカワラビーやウォンバットのような、見分けのつきにくい生物や細かい品種が大変でした。線で表現するようなナメクジのようなコウガイビルも。あとは、種別関係なく後ろ姿や斜め姿は普段描かないポーズなので大変でした。

――なるほど。限りあるスペースの中に描き進めていくのは大変ですよね。Twitterでは絵付けや色付けの様子などもアップされていて、たくさんのフォロワーが出来上がりを楽しみにしていると思います。作業風景を拡大して、どんな動物が居るのか確認しているコメントも多かったです。ここまで企画が進められた感想を聞かせてください。

【土谷】5.7万匹すべてを描き切ることはできませんでしたが、バリエーション豊かにストーリー性のある鳥獣戯画を丁寧に描きました。制作工程にここまで興味を持っていただけることを嬉しく感じています。完成品を多くの方に見ていただき、職人の手仕事により感動をお届けできればいいなと思います。

■SNSが若年層との懸け橋に…「陶芸」でもっと笑顔を届けたい

――この企画を進める上で大変だったことがあれば教えてください。

【土谷】以前からSNSでのプロモーションを積極的に行なっていたわけではないので、Twitter企画はフォロワー0人からのスタートでした。ですので、投稿で反応をいただくための方法を考えるのが大変でした。

――大反響を呼ぶまでの苦労もあったのですね。インスタライブやYouTube配信などでの奮闘ぶりも伝わりました。では、楽しかったことはありましたか?

【土谷】やはりコメントを読むのは楽しかったです。描いてほしい動物をコメントで募集したのですが、マニアックな動物のリクエストを写真付きで頂いたり、そのコメントにもたくさんのいいねが付いたりして。多くの方に楽しんでいただけたことを実感できた時はやって良かったと思いました。

――Twitterの持つ拡散力と企画がマッチしたんですね。この絵付け企画は間もなく終わりますが、これをきっかけに取り組んでいきたいことはありますか?

【土谷】Twitter、Instagramに続いて、YouTubeの活用にも取り組んでみたいなと思っています。

――現地に訪れないと触れられなかった伝統文化が、SNSの力で身近に感じられそうですね。最後に、今後の夢や実現させたいことを教えてください。

【土谷】「陶芸」という言葉には、まだまだ堅苦しさや敷居の高さがあると感じています。時にはSNSを通じたユニークなコミュニケーションも交えながら、若い方にも陶芸に対してポジティブなイメージを持っていただき、陶芸を通じて多くの方に笑顔を届けたいと思っています。