外で生きられなくなった地域猫、安全に暮らせなくなった飼い猫などを保護し、猫の殺処分ゼロを目指して活動するNPO法人『ねこけん』。ブログでは、保護した際のリアルな状況から、その後の様子まで隠すことなく伝えており、多くの読者に動物愛護を訴えかけている。中には、ひどい状態で保護されたものの、『ねこけん』で穏やかに暮らし、幸せに旅立っていた記録も。代表理事・溝上奈緒子氏に取材し、そんな猫たちの軌跡を紹介する。

■びしょ濡れで行き倒れていた猫、「もう治らない」病気と緩和ケア

 井頭公園近くで行き倒れていたため、「井頭(いがしら)12:50」、通称いがちゃんと命名された猫。「猫がびしょ濡れで倒れている」という通報によって発見されたが、低体温で痙攣もあり、とても危険な状態だった。そんないがちゃんは、『ねこけん』ボランティアメンバーの必死の介抱で蘇生、なんとか一命を取りとめた。

 元気になると、その愛嬌ある様子から、誰からも愛されたいがちゃん。溝上氏も「いがちゃんは本当にちゅ〜るが大好きでした」と振り返るとおり、手でちゅ〜るをすくって美味しそうに食べる様子、顔中ちゅ〜るまみれになっている様子をとらえた写真が、ブログにも数多くアップされている。

 そんな風に、保護時の危機とは一転、すっかり『ねこけん』に馴染み、幸せに暮らしていたいがちゃんだったが、口の中に腫瘍があることがわかった。「扁平上皮癌というもので、『もう治らない』と獣医師から言われて。あとは看取ることしかできませんでした」。

 「治らないとわかってからは、栄養よりもいがちゃんが食べたいものをあげて、緩和ケアだけを考えたんです」と溝上氏。「みんなにいがちゃんを覚えてもらうために」と、毎日のようにいがちゃんの様子を載せていたが、日に日に弱り、寝ている写真も多くなる。

 こうして保護して1ヵ月が経ち、いがちゃんは亡くなった。「最期は穏やかでした」、そう溝上氏は語る。ブログには、「いがちゃん、もっとゆっくりしていけばよかったのにね」と、優しい言葉が綴られていた。

 そんないがちゃんと時を同じくして亡くなったのが、彦摩呂。通称“彦爺”だ。20年以上生きて大往生を遂げたが、『ねこけん』に来る前は、13年もの間、真っ暗な押入れの中で暮らしていた。

 高齢の夫婦に飼われていた彦爺だったが、猫嫌いの夫に見つからないよう、奥さんがずっと押入れに隠していたのだという。奥さんはボランティアとして保護活動に関わっており、決して虐待をする意図はなかったのだろう。

 だが、13年の暗闇生活が、彦爺の目を蝕んだ。『ねこけん』で保護された彦爺は、いつまで経っても光に馴れることがない。「太陽の光に弱くて、常に目に涙が溜まっている状態が3〜4年続いて。とてもかわいそうでした」と溝上氏は語る。最初の数ヵ月は触ることもできず、ずっとケージの中にいたのだそうだ。

 だが、ボランティアメンバーの献身的な努力により、彦爺は心を開いた。自由に歩き回り、好きな場所で寝て、好きなご飯を食べた。気づけば、彦爺は保護部屋で一番の人馴れした猫になっていた。

 「愛情があればいい、というわけではありません。ご飯だけあげていればいいのではなく、やっぱり猫ちゃんを健やかに育てられる環境がとても大切なんです」。

 21歳になった彦爺は、静かに旅立っていった。生まれて2ヵ月で拾われてから、長い押入れ生活を送ったものの、『ねこけん』に来てからの8年は、きっと彦爺にとっても幸せな日々だったのだろう。愛情をたっぶり受けて、猫らしく。「優しいおじいちゃん」、彦爺の最期は、まさにそんな顔だった。