口座を持っているだけで手数料? 銀行が「口座維持・管理手数料」を検討する背景とは

口座を持っているだけで手数料? 銀行が「口座維持・管理手数料」を検討する背景とは

 銀行にお金を預けたら利息が付いてお金が増えるのが当然だと思っていたら、逆に減ってしまう時代が来るかもしれません。マイナス金利政策の影響で収益が悪化している一部の銀行が、口座を持っているだけで預金者から手数料を取る「口座維持・管理手数料」導入を検討しているとの報道がありました。背景にはどのような事情があるのでしょうか。ファイナンシャルプランナーの長尾真一さんに聞きました。

毎年200円の印紙税を負担

Q.改めて、都市銀行や地方銀行が利益を得る方法を教えてください。

長尾さん「銀行の主な収益源には、預金を元手に企業や個人に融資をして利息を得ることの他、口座振替等のサービス提供や保険・投資信託などの金融商品販売による手数料収入、外国為替や有価証券の売買による収入などがあります」

Q.銀行が収益を得にくくなっている理由は。日銀のマイナス金利政策の副作用なのでしょうか。

長尾さん「銀行の本来の役割は先述したように、預金を元手に、資金を必要としている企業や個人に融資をして利息を得ることですが、日銀の金融緩和・マイナス金利導入によってお金が余り、金利が低下しているため、収益が圧迫されています。それは、金融緩和およびマイナス金利導入の副作用といえます。そこで、銀行は保険や投資信託の販売などにも力を入れるようになっています。

なお、マイナス金利というのは、都市銀行や地方銀行が日銀に預けているお金のうち、一部のお金について金利をマイナスにするというもので、個人預金の金利をマイナスにするということではありません」

Q.口座の維持・管理手数料の徴収を銀行が検討しているようですが、銀行口座の管理には、どのような経費がかかっているのでしょうか。

長尾さん「一般にはあまり知られていませんが、紙の通帳には、1冊当たり毎年200円の印紙税がかかり、それを銀行が負担しています。また、私たちが当たり前のように利用しているATM(現金自動預払機)は1台導入するのに数百万円かかり、さらに1台当たりの年間維持費も数百万円かかるといわれています。ネットバンキング等のシステムや人件費など、銀行の経費は莫大(ばくだい)なものになると考えられます。

一方で、残高が少なく、銀行にとってあまり収益を生まない口座や利用されないまま放置されている休眠口座も増えており、銀行にとっては負担になっています」

Q.既に、一部の銀行は一定の条件で口座管理手数料を導入していると聞きます。

長尾さん「りそな銀行は、一定の条件で未利用口座(休眠口座)に対して管理手数料を適用しています。ローソン銀行も2年以上預け入れ、または払い戻しがない未使用口座について、残高などの条件にもよりますが管理手数料がかかります。その他の銀行も口座維持・管理手数料の導入を検討していると言われていますので、今後は増えてくるかもしれません」

Q.極めて素朴な疑問なのですが、預金をしたらお金が減るということがあり得るならば、逆にローンを借りたら利息が付いてくる(お金がもらえる)、という事態もあり得るのでしょうか。

長尾さん「繰り返しになりますが、マイナス金利というのは、銀行が日銀に預けているお金の一部の金利をマイナスにするもので、個人預金の金利をマイナスにすることではありません。ただし、それによって金利が下がり、銀行の収益が圧迫され、コスト負担が重くのしかかっているということが口座維持・管理手数料の議論の背景です。手数料はあくまでサービス提供に対する対価であるため、ローンを借りて利息がもらえるということにはなりません。

ただし、海外に目を向けると、デンマークの銀行がマイナス金利の住宅ローンを実際に提供していますので、将来的にその可能性がないわけではありません」

Q.実際に口座維持・管理手数料が導入された場合、「手数料を取られるなら預金を引き出す」という人が出る恐れはないのでしょうか。

長尾さん「日本では、『口座の利用は無料』という認識が当たり前になっているので、口座維持・管理手数料を導入すると、手数料が掛からない銀行に利用者が移ってしまう懸念は銀行側にもあると思います。従って、導入するにしても、りそな銀行やローソン銀行のように、まずは休眠口座に対して導入する、あるいは残高が少ない口座に対して適用する可能性が高いかもしれません。

とはいえ、銀行業界をリードする3メガ銀行が導入すれば、その他の銀行も一斉に追随する可能性もありますし、手数料が導入されれば、逆に優良顧客を手放さないためにサービスの競争が促されて、利用者にとって、より利便性が増すというプラスの効果も期待できるかもしれません」

「取り付け騒ぎ」に発展する可能性は?

Q.「手数料を取られるなら預金を引き出す」という動きが特定の銀行で相次ぎ、預金が極端に減ると銀行はどうなる可能性がありますか。「取り付け騒ぎ」も起き得るのでしょうか。

長尾さん「通常は、預金者はいつでも自分の口座からお金を引き出せますが、もし多くの預金者が一斉に引き出そうとすれば、銀行の現金が不足してパニックになり、いわゆる『取り付け騒ぎ』になってしまいます。

1973年には、女子高生の雑談がきっかけで風評が広がり、わずか数日間で20億円以上が引き出され大混乱した『豊川信金事件』がありました。また、戦前の1927年には、当時の大蔵大臣が、実際には破綻していなかった東京渡辺銀行を『破綻した』と発言してしまったために取り付け騒ぎが起き、本当に破綻してしまった事例もあります。

現在はメディアやインターネットの発達で、個人でも正確な情報にアクセスしやすくなっており、また、国の預金保険制度によって1金融機関につき預金者1人当たり元本1000万円までとその利息が保護されるため、うわさによるパニックは起こりにくいでしょう。また、銀行は自己資本比率規制などによって一定の財務の安全性が確保されており、ある日突然、預金が底をつく可能性は低いと考えられます。

ただし、長引く超低金利や人口減少などによって、特に地方銀行の経営は厳しくなっており、口座維持・管理手数料導入の流れの中で、銀行同士の合併や経営統合が今後さらに増えるかもしれません」

Q.もし、自分が預金している銀行が口座維持・管理手数料を取ることになったとしたら、家計の自衛策は。

長尾さん「口座維持・管理手数料が掛かることになれば、手数料に見合ったサービスが受けられるのか、手数料体系とサービス内容について改めて複数の銀行をよく比較した方がよいでしょう。また、複数の銀行に口座を持っている場合は、特に理由がなければ、できるだけ集約した方が効率的かもしれません。

そもそも、長引く超低金利によって、銀行預金では資産を増やせなくなっていますので、長期的な資産形成を考えると、銀行預金だけでなく、iDeCo(個人型確定拠出年金)や積立NISAなど税制優遇が受けられる制度を使って運用することも選択肢として考えてみてもよいかもしれません」


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