生後9カ月の赤ちゃんを連れて、お母さんが来院しました。

「先生、うちの子、今週になってから便の色が薄いんです。母子手帳に載っている写真の“3番”みたいなんです。重い病気ではないでしょうか?」

「まあ、慌てないで。母子手帳に載っているのは『胆道閉鎖症』という病気です。9カ月で見つかることはありませんよ。でも、念のために診察しましょう」

 私は赤ちゃんを診察台に寝かせると、おなかの触診を始めました。

母子手帳に早期発見用のカード

 母子手帳にはカラー写真のページがあります。便の色が7段階に分類されていて、例えば、1番は白、4番は黄色、7番は茶色と徐々に濃くなっていきます。そして、3つの時期(生後2週、1カ月、1〜4カ月)に便の色が何番に相当するか記入するようになっています。

 このカードは「胆道閉鎖症」という難病を早期に見つけるためのカードです。ところが、この便色カードはまだ十分に活用されていないようです。日本では毎年、約100人の赤ちゃんが胆道閉鎖症にかかります。

 肝臓の働きの一つは、「胆汁(たんじゅう)」を作ることです。胆汁とは、脂肪の吸収を助ける消化液です。胆汁は、ビリルビンと呼ばれる黄色い色素を利用して作られるので真っ黄色です。私たちの便が黄色〜茶色である理由は、便に胆汁が混じっているからです。

 肝臓で作られた胆汁は、十二指腸に注ぎます。肝臓から十二指腸までのルートを「胆道」と呼びます。この胆道が閉じてしまったり、消失したり、線維組織で置き換わってしまったりした状態が「胆道閉鎖」です。

 原因は不明ですが、生後間もない時期に胆道が閉じてしまうことが分かっています。胆道が閉鎖すると2つのことが起きます。

 まず、胆汁が肝臓の中にとどまります。この結果、肝臓に強いダメージが加わり、傷んだ肝臓は肝硬変になります。肝硬変を放置すると、お子さんは2歳までに必ず亡くなってしまいます。

 もう一つは、黄疸(おうだん)です。胆汁が肝臓の中にとどまるため、ビリルビンが肝臓から血液の中へにじみ出ていくのです。赤ちゃんの白目の部分が黄色くなり、肌も黄色〜褐色になります。

 そこで、胆道閉鎖症を早期に発見するために、便の色に注目します。胆道閉鎖症では、胆汁が腸へ流れないので便に色が付きません。白か灰白色か薄いレモン色になります。

肝臓移植が必要な場合も

 手術として、胆道が肝臓に付着していた場所(肝門部といいます)を削って、そこに腸を縫い付けます。削った肝門部から胆汁が出てくることを期待するわけです。

 この手術を行うと、3人に2人が、肝臓から胆汁が流れ出して黄疸が消失します。では、残りの1人はどうなるのでしょうか。

 以前は、胆汁の出ないお子さんは亡くなっていました。しかし、今は肝臓移植という方法があります。両親のどちらかから肝臓の一部を摘出し、お子さんの肝臓をすべて取り除いて、入れ替えてしまうのです。

 移植医療の進歩に伴い、手術の成功率は相当高いのですが、やはり、肝移植が難しい大手術であることは間違いありません。移植を受けたお子さんは生涯、免疫抑制剤を飲み続ける必要があります。

 では、黄疸が消えた3人に2人の子どもたちは、それで治るのでしょうか。実は診断がつくまでに、肝硬変は既に始まっています。その影響がじわじわと、年齢を重ねる間に出てきます。すると、一部のお子さんは成人になる前に、やはり肝移植が必要になるのです。

 結局トータルで見ると、胆道閉鎖症のお子さんの2人に1人は、大人になるまでに肝移植が必要になります。とにかく早期発見が重要ですから、母子手帳をしっかり活用してください。うちのクリニックを受診した赤ちゃんはウイルス性胃腸炎でした。