今年は、子どもたちの夏休みを短縮する予定の学校が多いです。新型コロナウイルスによる休校の影響で失われた授業時間を確保するため、とのことですが、筆者は反対です。なぜなら、これは大人たちの一方的な思い込みの押し付けによるものだからです。親も先生も「授業時間が減ると学力が落ちる。授業時間を確保して学力をつけなければ。それが子どものためだ」と思い込んでいるのです。

子どもの現状に対する無理解

 この思い込みの中には、子どもたちに寄り添って、その現状や気持ちを理解しようという発想がまるでありません。新型コロナウイルスの流行以降、子どもたちがどのような状況に置かれてきたか考えてみてほしいものです。

 自粛期間にも、子どもたちはのんびり過ごしていたわけではありません。日常生活が奪われ、3月の思い出づくりもできず、楽しみにしていた行事もなくなり、4月の新学期による胸の高鳴りもなく過ごしてきたのです。大量の宿題プリントを押し付けられ、へきえきしていた子どもたちも多いです。

 学校の再開後も、ストレスがたまる日々が続きました。10分の休み時間が5分に減り、20分の業間休みが10分に減った学校もあります。授業が7時間になったり、土曜日に授業をしたりしている学校もあります。「宿題が去年の2倍になった」「授業の進度が超特急になった」「図工・音楽・体育の授業が少なくなった」などのケースもあります。

「このままでは他校より、子どもの学力が落ちる。もっと授業時間や宿題を増やしてほしい」と学校に電話してくる保護者もいるそうです。もう、子どもたちのストレスは限界に達しています。その上、さらに夏休み短縮となれば、かわいそう過ぎます。

 このような対応を見ていると、先生も親も「教えるべき内容、つまり、教科書の内容を全部こなすためには、遅れた分を早く取り戻さなければならない。そのためには、勉強の時間を増やせるだけ増やして、どんどん進めなければならない」と考えていることが分かります。

 ただ、ちょっと待ってほしいです。子どもは勉強するロボットではないのです。こんなことを続けていたら、子どもたちのストレスはさらに高まり、心が壊れてしまいます。やがて、心身に異常が現れる子が続出する可能性があります。そうなるともはや人災です。子どもには、のんびりしたり、ボーッとしたり、思い切り遊んだりする時間が絶対的に必要なのです。

 筆者は長年、小学校で教壇に立ってきましたが、その経験で言わせていただければ、教える内容を精選すれば、土曜日授業、1日7時間の授業、大量の宿題、夏休み短縮などしなくても大丈夫です。先生たちも分かっているはずですが、教科書の内容を全部やる必要などないのです。もちろん、算数と英語、そして理科の一部は積み上げ教科なので少し注意深く臨む必要はありますが、国語と社会は大胆に精選できる教科なのです。

 もちろん、算数で「分数の足し算をやらずに終わった」では済まされません。分数の足し算を学ばなければ、その後に来る分数の引き算・掛け算・割り算、通分、約分、割合、比、1当たりの大きさなどの全てが分からなくなってしまうからです。一方、国語の「『ごんぎつね』の単元は漢字はやったけど、後は読んだだけで終わった」、社会で「工業の単元は2時間で済ませた」といったことは可能なのです。

 今は非常時なのだから、学習指導要領や教科書に示されている授業時間数にこだわる必要などありません。それよりも、もっと子どもたちのことを考えて、大胆に精選すべきです。そして、何よりもまず、子どもたちが「学校は楽しい」「授業や勉強は楽しい」「先生、大好き」と思えるようにしてあげてほしいです。

 教える内容を大胆に精選すれば、夏休みの短縮も必要ありません。それに、夏休みで身に付く学力というものもあるのです。そもそも、日本の教育は学力を狭い範囲で考えすぎです。「算数が何点」など点数化できる認知能力のみを考えているから、土曜日授業や夏休み短縮を言い出すのです。

 しかし、将来大きく伸びるためには狭い学力だけでなく、もっと広い意味での学力が必要です。例えば、自分がやりたいことを自分で見つけてどんどんやっていく自己実現力、「自分はやれる」という自己肯定感、他者の気持ちへの共感力など、点数化できない非認知能力が高いことが大事なのです。

 他にも、試行錯誤する力、やり遂げる力、オリジナルな発想をする創造力、他者とコミュニケーションする力などもそうです。これらは自由な時間に思い切り遊んだり、自分がやりたいことに熱中したりしているときに伸びます。そうした力を伸ばすためには、夏休みこそ、とてもよい機会なのです。

 夏休みをしっかりとって、子どもたちに自分がやりたいことをたっぷりやらせてあげてほしいです。そういう時間に身に付くものが大きいのであり、それも学力として捉えるべきなのです。脳科学者の茂木健一郎氏や解剖学者の養老孟司氏、生物学者の福岡伸一氏も、子どもの頃は昆虫に熱中していたそうです。そして、その体験が学者としての探究心の源になったのです。3人とも、その頃の熱中体験が自己形成に大きな影響を与えたと著書などで書いています。

夏休みは好きなことに熱中して

 最後に、筆者が教えた小学5年生の女子の実例を紹介します。彼女は、勉強は全て苦手で友達も少なかったのですが、絵を描くことだけは好きでした。お母さんは最初、「絵なんてもういいから、問題集をやりなさい」という感じでしたが、筆者が面談で「好きなことをたくさんやらせてあげて」と話したら納得してくれました。

 それから、「描いた絵を褒める」「美術館に連れて行く」「色数の多い色鉛筆を買う」などと娘を応援し始めると、絵がますます上手になりました。特に猫の絵が上手で、クラスの子たちが彼女に絵を描いてもらうために行列を作るほどになったのです。みんなに褒められて自信がつき、大いに積極性が出てきて友達もできました。授業に集中するようになって学力も伸び、6年生の後半には、立候補して児童会役員にもなりました。

 このように、好きなことに熱中して何か一つ自信が持てるものができれば、よい循環が始まります。夏休みをぜひ、そういう時間にしてほしいと願っています。保護者や先生には、本当に子どもを伸ばすために何が大切なのかをよく考えてほしいです。