4月末に亡くなったインドの俳優、イルファーン・カーンが主役。日本ではNHKのドラマ「東京裁判」でインドのパール判事役、ハリウッドでも『スラムドッグ$ミリオネア』や『アメイジング・スパイダーマン』、『インフェルノ』などに出演して活躍していた。そんな彼の抑えた演技で、人間関係の情趣が味わえる作品だ。

 子育てに忙しいイラ。毎日夫のためにお弁当を作り、配達人に託している。配達人は各戸を回って弁当箱を集め、指定された受取人のもとに届ける。だがイラの手作り弁当は、間違って別の人のもとに届けられていた。食べていたのは、早期退職目前のサージャン(カーン)。

 弁当箱に添えられた手紙の短い文面を介して、少しずつ心を開いていく二人。サージャンは妻を亡くした後の孤独に、イラは夫の浮気に心を痛めて暮らしているが、言葉の端々に見え隠れするお互いの価値観やユーモアが、灰色の日々に少しずつ色を差しているのが分かる。会ったこともない相手だからこその吐露と、決して踏み込まない静かなコミュニケーションが、見る者の気持ちを穏やかに保つ。弁当の配達人と手書きの手紙、というアナログな時間の流れ方が、癒やしの役割を担っているのかもしれない。

 インド・フランス・ドイツの合作で、カンヌ映画祭の国際批評家週間観客賞などさまざまな映画賞を受賞している。イルファーン・カーンの追悼と、孤独で厳しい日々の心のワクチンに。

Text by coco.g