スポーツは道具が必要な場合があったり、運動神経や体力というハードルがあったりと、決して誰もができるとは言いきれない側面がある。だから自分には無理といって諦めていた人も多いはずだ。そんな人におすすめなのが、近年注目が高まっているAR技術を利用して開発されたテクノスポーツだ。現在、学校の授業や部活にも取り入れられているというテクノスポーツ。AR技術とスポーツのコラボレーションによって生み出される新しいスポーツの形とその可能性とは? テクノスポーツ業界のリーディングカンパニー、株式会社meleapのCEO福田浩士氏に話を伺った。

テクノスポーツを小学校の体育授業で行ったら……?


AR(Augmented Reality)技術を使って次世代の体験型コンテンツを作りたいと起業し、テクノスポーツ「HADO」を開発した株式会社meleapのCEO福田浩士氏

AR技術とは、「拡張現実」と訳されることが多い。リアルな風景にバーチャルな視覚情報を重ね合わせて、目の前の「現実」を「拡張」するという意味だ。「ポケモンGO」の世界を思い浮かべてもらえばわかりやすいだろう。

「ARはAugmented Realityの略なんですが、僕としてはAugmented Human、つまり身体拡張性という切り口の方に興味があって、現実の世界にデジタルによる仮想の空間を組み合わせて人間の能力を拡張し、何か面白いコンテンツを作りたいと思っていたんです」


福田氏が開発したテクノスポーツ「HADO」では、プレイヤーは頭にヘッドマウントディスプレイ、腕にアームセンサーを装着しゲームを行う。1ゲーム80秒。AR技術によって出現する、相手プレイヤーの前にある4枚のライフをどれだけ多く打ち抜き、点数を稼ぐかによって勝敗が決まる。一度にゲームできるのは1チーム1〜3人まで。1対1の個人戦や3対3で役割を分担しながらのチーム戦もできる/©︎HADO

VR(※1)やARの技術は、現在ではゲームの世界にとどまらず、医療や防災、建築などさまざまな現場において、シミュレーションによる技術取得をはじめとする多くの目的のため活用されている。

教育現場も、そのひとつだ。

「正直、学校で教育の一環として使われるというのは意外でした。レジャーだと思って開発していたので。もちろんスポーツという文脈で言えば、部活動や体育の授業に取り入れられるというのは理解できますが、そんなに簡単に受け入れられるとは思っていませんでしたね」

そんな教育利用に関して、テクノスポーツを使った興味深い実証実験が2019年8月に行われた。東京学芸大学附属世田谷小学校の4年生と6年生の体育の授業で児童がHADOを体験し、どのような効果が得られるかが検証されたのだ。

運動を行うと、体力や体格の面で子どもたちの間にはどうしても差が生まれてしまう。でも、ARの技術を導入すればその差を埋めることができ、みんなが一様に楽しめるのではないかという仮説から実験が行われたのだという。
結果的には、やはり運動神経の良い子はどんどんコツを体得して活躍することができたようで、当初の仮定の通りにはならなかったようだ。

とは言え、他のスポーツと比べて多少の差はあるものの体力差、体格差などに影響されずに誰もがゲームに参加出来るのがこのAR技術を利用したスポーツの特徴であるのは事実。体験授業を受けた児童達はもちろんのこと、先生達の間からもこれは興味深いスポーツだと概ね評判が良かったという。学校の授業や部活、そしてコロナ禍で取りやめになった修学旅行のかわりに、児童たちに新しいテクノスポーツを体験させようという試みもあったというから、教育現場での展開にも、大きな可能性があると言えそうだ。

※1 バーチャル・リアリティの略。コンピューターによって作り出された三次元空間を視覚およびその他の感覚で擬似体験できるもの。仮想現実と訳される。

ゲームの域を超えて、スポーツに昇華することができた理由


©︎HADO

元々レジャー目的で開発を進めていたゲームだったが、結果、テクノスポーツとして市民権を得た。ゲームの域を超え、競技として人気が出た理由とはなんだったのだろうか。

① コミュニケーションを生む「チーム制」

福田氏は、開発に当たって絶対に譲れないコアの部分があったという。 「とにかくチームで戦えるようにしようと。チーム制にすればどうやって戦うかなど戦略をたてるためにコミュニケーションが生まれ、コミュニティができる。個人ではなくチームで戦えるということを大事にしたいと思って作りました」

その結果、福田氏自身、予想もしなかった光景を目にすることになったのだそうだ。

「僕はこれまでスポーツビジネスに関わったこともなかったし、正直これがスポーツコンテンツとして成立するのかどうか、イメージできませんでした。でも、自分たちの作ったプロダクトを通してみんなが一生懸命戦って喜んだり涙したりするのを見て驚きました。そんなふうに人が感情を剥き出しにして熱中するってレアですよね。それを実現したのはAR技術だったんです。当初予想していなかった結果が出て嬉しかったですね」


©︎Shutterstock

②「言語不要」だから世界中誰でも楽しめる

また、国境や言語のハードルがないというのも大きな強みだという。実は現在すでに世界36ヵ国、216万人がこのゲームを体験している。中には、中東の王子がシステムを購入したり、イギリスでは軍隊で取り入れられ、兵士たちがレクリエーションとして行っているという例もあるのだそうだ。

「プレイヤーが身に着けるヘッドマウントディスプレイやアームセンサーにはiPhoneやiPodを使っています。それに加えて言語が不要なのでどこにも持って行けるし、ローカライズの必要もないので海外展開しやすいんです」

そういったユニバーサルな仕様から、現在はすでに国際大会なども開催されており、世界中で盛り上がりを見せている。


ちなみに進化版、HADO Xballという競技では、YouTubeのコメントやアプリによって観客が応援ができ、その応援を多く獲得したチームの方にアドバンテージが与えられる。つまり、観客もプレイヤーのひとりになったような感覚を持ちながら参戦できるという画期的なアイデアが採用された/©︎HADO

AR技術を使った全く新しいテクノスポーツ。筆者も体験させていただいたのだが、確かにヘッドマウントディスプレイとアームセンサーを身に着けるだけですぐにプレーができた。プレー前は1回80秒なんて短いのでは?と思ったが、やってみたら意外に運動量が多い。それは、ついつい夢中になってしまうせいでもあるのかも知れない。国境も言語の壁もないと福田氏は語ったが、さらには車いすバスケットボールなど競技用の車いすを利用することによって車いすユーザーもプレー可能であることがわかっている。そういう意味では障がいの有無さえも超え、今後どんどん世界中に広まっていくポテンシャルの大きさが感じられた。プレイヤーがますます増えていけば、日常的に趣味やレジャーとして楽しめるようになるのはもちろん、より高いレベルの技術を身につけ世界大会を目指す人が増えていくだろう。AR技術を使ったこの新しいスポーツは、スポーツの常識を大きく変えていく存在になるかもしれない。

text by Reiko Sadaie(Parasapo Lab)
photo by Yuji Nomura,HADO, Shutterstock