大ヒットした韓国映画『パラサイト』でも描かれていた、韓国社会の「格差」。新型コロナ禍の中、文在寅大統領はポン・ジュノ監督を大統領府に招いて国民の反感を買ったという。いま韓国はどういった状況に置かれているのか。韓国在住のジャーナリストである金敬哲氏が述べる。

本稿は月刊誌『Voice』2020年5月号、金敬哲氏の記事より一部抜粋・編集したものです。


韓国格差社会の端緒となった「IMF危機」

韓国国内における中高年層をめぐる悲哀について、私は昨年末に出版した『韓国 行き過ぎた資本主義』(講談社現代新書)で詳述した。

韓国が本格的に格差社会へと突入したのは、1997年の年末に韓国を襲った「IMF危機」がきっかけだった。「IMF危機」とは、アジア通貨危機の影響で財政破綻した韓国政府が、IMF(国際通貨基金)から多額の融資を受けるため、国家財政の「主権」をIMFに譲り渡したものだ。

翌1998年2月に就任した金大中大統領は、「民主主義と市場経済の並行発展」を国政のモットーとする「DJノミクス」を提唱し、IMF体制からの早期脱却をめざした。

「DJノミクス」とは、経済危機を招いた根本的な原因を、それまで30年余りにわたって続けられてきた政経癒着と不正腐敗、モラルハザードによるものと見なした。

そしてその改善のため、自由放任ではなく政府が積極的に役割を果たすとする経済政策だ。つまり、公正な競争が行なわれるように市場のルールを決めて、市場を監視し、個人の努力や能力によって正当な報酬がもらえるシステムをつくるというのが政策の核心だった。

しかし、実際に金大中政権が実行した政策は、資本市場の開放、国家規制の緩和、公営企業の民営化、そして労働市場の柔軟化およびリストラ強行など、新自由主義的なものばかりだった。

こうした金大中政権の「劇薬療法」によって、大統領就任から3年半後の2001年8月23日、韓国はIMFから借り入れた資金を、予定を早めて完済し、経済的な主権を取り戻した。

国民を失望させた「所得主導成長」

しかし皮肉なことに、その過程で中産階級が崩壊した韓国社会は、二極化と所得の不平等がさらに深刻化してしまった。

この格差や不平等は時間とともにさらに深刻化し、固定化されるようになった。現在では、富と貧困が世代を超えて継承される「新世襲社会」となりつつある。すなわち、機会の不平等が深まり、いくら努力しても這い上がれない社会になってしまったのだ。

2017年5月、「機会は均等、過程は公正、結果は正義」というスローガンを掲げた文在寅政権が発足すると、社会に蔓延している格差や不平等の改善に対する期待感が高まった。

政権発足直後から約半年間も支持率80%を保っていたのは、まさにこのような国民の期待が反映されたものだった。しかし、政権発足から3年近く経った現在、文政権は、経済や外交、南北問題など、何一つ成果を上げられていない。

なかでも、文在寅政権の看板政策である「所得主導成長(貧困層や庶民層の所得を上げることによって消費を拡大させ、景気回復を図る政策)」は、韓国社会の格差をさらに広げた失策だった。

庶民層の所得を上げるために最低賃金を2年で3割近くも引き上げた結果、社員の賃金を支払えなくなった中小零細企業の倒産ラッシュが起こったのだ。それがさらなる就職難を呼ぶ悪循環となった。

景気低迷で投資先を失った流動資金は不動産市場へ流れ込み、史上最高の不動産バブルが発生してしまった。江南などの一等地に不動産を所有している富裕層と、マイホームすらもてない庶民層との資産格差はさらに広がった。

文大統領の側近だった曹国前法相を巡る各種不正疑惑は、文政権に平等と公正を期待していた国民に大きな喪失感を与えた。