新型コロナウイルスが世界を大きく変え、私たちの生活を変え、職場での働き方も変えた。

この大きな変化は企業における「人材マネジメント」のあり方に多⼤な影響を及ぼしている。社員やメンバーをどうモチベートし、育成し、企業活動を力強く円滑に導くのか…。激変する環境の中で頭を悩ませている⼈は多いだろう。

企業と社員、組織と⼈を取り巻く環境は大きな変化の途上にあり、誰にも正解がわかる状況ではない。まさに企業の経営者も⼈事部も、そこで働く社員もみな、手探りしながら考えている状況だ。

⼈材マネジメントの新しい潮流をふまえて解説した『この1冊ですべてわかる 人材マネジメントの基本』より、自律型人材を育成する部下との関わり方に触れた一節を紹介する。

※本稿は、『この1冊ですべてわかる 人材マネジメントの基本』 (日本実業出版社刊)の内容を抜粋・編集したものです。


部下が言うことを聞かないのはなぜか?

人材育成の方法を検討する前提として、そもそも育成とは何か、ということについて考えてみましょう。

人材育成を考える際、マネジメント系の研修でよく引き合いに出される人物が山本五十六です。

第二次世界大戦時の日本で、大日本帝国海軍の連合艦隊司令長官を務めた有名な軍人です。山本五十六は、部下に物事を教える際に、このような名言を残しました。

「やってみせ 言って聞かせて させてみて 誉めてやらねば 人は動かじ」 

ここまでは有名なフレーズですが、実はこの後にまだ言葉が続きます。

「話し合い 耳を傾け 承認し 任せてやらねば 人は育たず」
「やっている姿を感謝で見守って 信頼せねば 人は実らず」

というフレーズです。「相手を動かす」ということは上司がこうするべきだと考えていることを相手に実行してもらうという、いわばゴールが明確な状態が多いシーンと思います。

この有名なフレーズの「動かじ」の後には、人が育つ、人が実ることを目指した取り組み内容が書かれています。

動かすのは一時的にできたとしても、継続的に動いてもらうように育てるには「話し合い」「耳を傾ける」「承認する」「任せる」という長期的な関わりが必要といえるでしょう。

また、任せた後には「感謝を持って見守る」「信頼する」ことが人を実らせることにつながるというのです。

育成の基本的な考え方がこの言葉に詰まっているといえます。


現代になって育成に悩むマネージャーが急増している理由

しかしながら、部下がいるすべての上司が十分に部下の話に耳を傾け、部下のために時間を使えていると言い切れるでしょうか。おそらく大半の人がやりたくてもできていないのが現実でしょう。

育成には時間がかかります。一度言って部下がその通りに動いてくれるのであれば、それ以降育成の必要はありません。

一度言った通りに動けないのは、上司と部下の能力的な側面が理由のケースもありますが、一度話を聞いただけで、相手の考えが100%理解できるとはいえないほど、上司と部下の心(価値観やスタンス)のギャップが大きいという背景もあります。

同質性が薄まり、多様性社会といわれるように、物事を考える背景や前提が全く違う相手が部下であるということも増えています。

このように多様性がスタンダードになるにつれ、マネジメントの変数は増えます。これまで以上に部下と向き合わなければ相手を理解することは容易ではないでしょう。

現在のマネージャーは、プレイングマネージャーとして自分の力でも成果をあげなければいけない、それに加え部下の成果を創出することも求められている。

その部下は、自分の歩いてきたレールを忠実についてくるとは限らず、様々な価値観を持って仕事と向き合っている。その部下が何を考えて何を目指しているのか、時間をかけて向き合わなければいけない……。

そのような現状に頭を抱えるマネージャーが多いのです。