<<リーダーにとって「言葉」は命のようなもの――元・東レ経営研究所社長の佐々木常夫氏は、そう語る。

そんな佐々木氏も実は、話すことは苦手だったという。今でこそ、講演や研修で大勢に向けて話をしているが、かつては重要な会議でガチガチに緊張してしまい、言いたいことがまったく伝わらない、ということを何度も経験してきたそう。

一方で、そんな経験があるからこそ、話し方は自分次第で、いくらでも磨くことができる、と佐々木氏は断言する。では、佐々木氏はどのように話し方を磨いてきたのか。

同氏の著書『人を動かすリーダーの話し方』では、リーダーが身につけたい言葉力の磨き方を解説している。本記事では、その中の一部を紹介する。(協力:長谷川敦)>>

※本記事は、佐々木常夫著『人を動かすリーダーの話し方』(PHP研究所)より、一部を抜粋編集したものです。

リーダーは言葉によって進むべき道を指し示す

多くのメンバーが「右へ行くべきか、それとも左に行くべきか」と迷っているとき、リーダーが発する言葉は、チームが向かうべき方向性を指し示す旗となります。

例えば、ヤマト運輸の社長を務めた小倉昌男さんの有名な言葉に、「サービスが先、利益は後」というのがあります。

ヤマト運輸では宅急便事業を始めたばかりの頃、サービスを向上させてお客様を増やすことを優先するべきか、サービスの質を落としてでも利益を確保することを優先するべきかを巡って、意見の対立が社内で起きていたそうです。

教科書的にいえば、サービスの向上も利益の確保もいずれも大切であり、どちらの言い分にも理があります。

そうした中で小倉さんは「サービスが先、利益は後」という明確な指針を示しました。

つまり「赤字になってもいいから、まずは宅急便のサービスを世の中に広めることを優先しよう」というメッセージをメンバーに発したのです。これにより組織の方向性が定まり、その後事業展開のスピードは格段に速まることになりました。

これはリーダーの発する「言葉」の重要性を如実に示すエピソードだと私は思っています。メンバーが混乱しているとき、リーダーは自ら先頭に立って「こっちへ進もう」と旗を振らなくてはいけません。

そして人間の社会においてその旗とは、言葉にほかならないのです。自らの意思を最も明快に伝えられるのは、言葉だからです。


大事なことは、ふさわしい演出で語る

リーダーが部下に向かって旗を振る際には、それにふさわしい場を設定したうえでメッセージを発信することが大切です。

私の場合、旗を振る場所としてもっとも重視したのは、年明けの仕事初めの日に毎年おこなっていた年頭の挨拶でした。今後1年間のチームの方針をA4サイズ1枚の文章にまとめて部下に配り、話していたのです。

すると部下は「今日は佐々木さんが大切な話をするぞ」と、みんな真剣な表情で聞いてくれます。

もし私が同じ内容の話を普段のミーティングの場で話したとしたら、緊張感がないため聞き流してしまう部下も出てきたでしょう。しかし、このときだけは、みんなひと言も漏らさず聞き取ろうとします。そのぶん自分が発したメッセージが部下に浸透しやすくなるのです。

また年頭の挨拶のような定期的な場以外にも、チームが何か大きな問題に直面し、迷走状態に陥りそうになったときには、やはりリーダーはメンバーを集めてメッセージを発信する場を設定する必要があります。

そのときには「これからチームの将来にかかわる大切な話をするから、みんなちゃんと聞いてほしい」という前振りをしたうえで、話し始めることが大切です。

重要な言葉は、発するにふさわしい場所で発せられてこそ、部下を動かす説得力のある言葉になるのです。

要領を得ない男性、高飛車な女性の話し方

「文は人なり」という言葉があります。文章を読めば、その人物の人となりがわかるという意味ですが、私はまた「話し方は人なり」であるとも思っています。話し方を聞けば、その人の普段の仕事ぶりが、だいたい想像できるものだからです。

ある企業の講演会に講師として呼ばれたときのことでした。

30代半ばぐらいの男性が司会進行を務めていたのですが、その男性の話しぶりがまことに要領を得ないものだったのです。話の道筋が整理されておらず、何が言いたいのかまったく理解できませんでした。

「きっとこの人は、普段の仕事でも物事を論理的に考え、部下に的確な指示を与えることができない人なんだろうな」という印象を私は抱きました。

一方で別の企業の講演会に呼ばれたときには、40代半ばぐらいの管理職の女性が司会進行を務めていました。この人の話し方は理路整然としていて、進行役としての仕切り方も抜群にうまい。

しかし、この女性の話し方は、とにかく高飛車でした。

「これから佐々木先生は大切な話をするから、みなさんちゃんと聞きなさいよ。そして自分たちの仕事の改善のヒントにしなさい」といった話し方をするのです。こうした話し方をされれば、話している内容そのものは正論だったとしても、誰だって反感を抱くでしょう。

「おそらく、この人は個人としては仕事ができる人なのだろう。でもリーダーとしては問題があるな」という印象を私は持ちました。

きっと職場でも高圧的な態度が原因で、部下との間で軋轢が生じることが多いのではないでしょうか。