世界的な経営コンサルティング会社の日本法人会長であり、クールジャパンやインバウンド観光などの分野でも政府委員会の委員などとして活躍する梅澤高明氏。梅澤氏が2030年に向けて成長すると見ているのは、どんな産業なのか?(取材構成:塚田有香)

※本稿は、『THE21』編集部編『2030年 ビジネスの未来地図』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。


「二足のわらじ」を履くことがキャリアのシフトをスムーズにする

2030年に向けた変化で私が注目しているのは、「人生の長期化」です。

人生100年時代が到来し、人間の健康寿命が延びて、人々は現在より長く働くことになります。これまで職業人生は40〜45年ほどでしたが、それが60年や70年もの長さになるのです。

一方で、技術の進化が加速して産業の盛衰が激しくなり、AI(人工知能)の進化によってホワイトカラーの仕事の多くがAIへ代替されていきます。

そうなると、もはや一つの会社や仕事にしがみついても、人生は成立しません。つまり、2度、3度とキャリアチェンジするのが当たり前になる。

私は以前から「人生三毛作」を提案してきましたが、それが働く人にとってのスタンダードになる時代がやってくるということです。

「人生三毛作」を実現するには、「二足のわらじ」を履く期間が必要です。

二つ目や三つ目のキャリアにシフトするとき、いきなり今の会社や仕事を辞めて、まったく新しい職業へ飛び移るのは、リスクが高すぎます。よって、現在の仕事をしながら新しいことにトライして、少しずつキャリアの重心を移していくのが現実的です。

その点で、最近の副業解禁の流れは歓迎すべき変化だと受け止めています。

会社が二足のわらじを履くことを認めれば、個人が新たなチャレンジをすることへのハードルが低くなります。

中には自力で人生二毛作や三毛作を実現できる人もいると思いますが、日本では長きにわたって「一つの会社で定年まで勤め上げる」というキャリア観が一般的だったため、ほとんどの人は何らかの後押しがなければマインドチェンジが難しい。

さらには、どのように新しい機会を見つければいいのか、どうやって新しいスキルを身につければいいのかもわからない人がまだまだ多いはずです。

副業の制度を活用すれば、これまでとは違う業務を経験しながらスキルを磨くこともできるし、新たな人脈を築くこともできます。これらのスキルや人脈をベースにすれば、次のキャリアへの移行がスムーズになります。

人生二毛作・三毛作への準備期間を作れるのが、副業の大きなメリットと言えます。

私自身、ここ数年は三つの仕事に同時並行で取り組んでいて、いわば「三足のわらじ」を履いた状態です。

1足目は、A.T.カーニー日本法人会長およびコンサルタントとしての仕事。

2足目は、2020年にオープンした国内最大級のイノベーションコミュニティ「CIC Tokyo」の運営。

3足目は、ナイトタイムエコノミー推進協議会の活動。これは日本各地の観光コンテンツ作りを支援する組織で、過去2年間で50件ほどのプロジェクトを手がけました。

こうして複数の仕事に取り組むことにより、自分の可能性が広がるのはもちろん、精神的な健康を保つうえでも効果があると感じています。一つの会社に依存していないので、「もし会社から『君はもういらない』と言われたらどうしよう」と不安に思わずに済むわけです。

これからは、社会全体で、働く人たちの「人生三毛作」や「二足のわらじ」を後押ししていくことが求められます。新しいチャレンジをする人が増えれば、日本の「変化する力」が高まります。

時代の流れに応じた産業構造の革新も起こりやすくなり、より将来性のある産業へ人材の移動が起こるでしょう。それが社会のフレキシビリティやレジリエンスを高め、ひいては日本全体が成長のポテンシャルを高めることにつながります。

また個人にとっては、様々な仕事や組織を経験することで、自己実現の機会が増えます。本当に自分がやりたいことや向いていることに出会えるチャンスも多くなるでしょう。人生の選択肢を増やせば、より幸せな人生を送ることができるはずです。


「健康」と「余暇」が成長産業のキーワード

では、人生が長期化する時代に、成長が期待できる産業とは何か。

私が注目する領域は三つあります。

一つ目は、ウェルネス産業です。

人生が長くなると、健康な人とそうでない人の格差が大きくなります。100歳まで生きるとすると、90歳まで元気に働く人と、60歳から病気で苦しむ人では、人生や生活の質がまったく違ってくるでしょう。

よって、健康の価値が今まで以上に高まります。医療や医薬品はもちろん、フィットネスやサプリメントなどの健康産業、アンチエイジングや美容医療なども、ウェルネス産業として極めて重要なセクターになるでしょう。

さらに、メンタルヘルス関連のサービスも、ますます需要が高まると予測されます。

二つ目は、余暇を充実させる産業です。

先ほども話したように、ホワイトカラーの仕事はAIやITへの代替が進む一方で、寿命は長くなるので、人生における余暇の総量が飛躍的に増えます。すると、仕事以外の時間をいかに豊かで幸せに過ごせるかが、人生の質をさらに大きく左右することになります。

よって、旅行やエンターテインメント、文化・芸術、スポーツなどの産業は、人間の根源的なニーズに応こたえるビジネスとして、大きな成長が期待されます。

ご存じの通り、これらの産業は、今(2021年5月)まさにコロナ禍によって大きな打撃を受けています。

私は前述のナイトタイムエコノミー推進協議会の活動で観光業界と協業したり、日本の文化を海外に発信する政府のクールジャパン戦略に携わったりしてきたので、非常に思い入れが強い産業でもあります。

コロナ禍で苦境に立つこの産業群を、何とかして未来につなげたい。その思いから、この1年間は政府に対し、各業界の需要や雇用を守るために様々なロビー活動を行なってきました。

これらの産業群について、アフターコロナの先行きを不安視する向きもあるようです。

コロナ禍を機にオンラインツールが普及し、バーチャルツアーや音楽・演劇の配信サービスなども拡大したため、「感染が収束しても、リアルで旅やエンターテインメントを楽しむニーズは以前の水準まで戻らないのでは」と考える人もいます。

しかし、私はそうは思いません。観光にしろ、音楽や演劇などのライブエンターテインメントにしろ、実際にその場に身を置き、自分の五感で感じる価値は、簡単にオンラインで代替できるものではありません。

コロナ禍が始まってまもない頃、「これからはVR観光が来る」と予測した人もいましたが、私は賛同しませんでした。VRはあくまでプロモーションツールで、リアルの観光のように大きな消費を生むものにはならないというのが私の見立てです。

例えば会議や新聞のように「機能価値」中心のものは、オンラインでより高い機能性・利便性が提供されれば代替が進みます。一方、観光やライブエンターテインメントのように「感性価値」が中心のものはそうではありません。