<<信仰にかかわらず、お詣りに足を運ぶことを厭わないのが日本人。やはり神社仏閣好きなのだろう。しかし、そんな願いごとや感謝をしに訪れる、神聖な空間だと思い込んでいるお寺にも、一般企業と変わらない“悩み”があった――

収納デザイナーの杉田明子氏が相談を受けたのは、日本三清水のひとつ、播州清水寺〈西国巡礼25番札所〉の副住職から。「職場環境デザイン」でその問題を解決したいという。職場環境デザインとは、職場の物・空間・仕事の整理を通して、働きやすくやりがいのある職場をつくる、杉田氏が提唱するメソッドである。

歴史あるお寺が、何に困り、何を改善したかったのか? 守るべきものを守り、変えるべきものを変える――そんな決断をしたお寺の新しい挑戦をうかがった。>>


山寺の景観美との落差に唖然

播州清水寺には本堂が二つあります。ひとつは大講堂で千手観音様が御本尊。もうひとつが根本中堂で十一面観音様が御本尊です。職場環境についてのお悩みをいただいたのは、納経所がある大講堂のほうでした。

ちなみに、清水寺は標高約500メートルの御嶽山全体がお寺となっている山寺ですが、登山路をはじめ、境内の通路には、葉っぱ一枚落ちていないほど景観整備が行き届いています。

ところが、大講堂に一歩足を踏み入れると、外とのギャップに一瞬足を止めてしまいました。

外陣と言われる一般の方が参拝する場所は、大きめの物販スペースにお土産物がところ狭しと重なり合って並べられ、内陣(仏様の住まい)と外陣を仕切る格子の前にも、たくさんの物が置かれています。格子から見えるはずの内陣が、これらの物や貼り紙によって隠されてしまうほど。

御朱印をいただく納経所内も、しまう場所がないために出しっ放しになった物が机上、足元に山積みにされています。広くないその納経所内は、あきらかに人の動きが制限される場所となっていました。

人々がご利益を求めたり、非日常の空間に自分の身を置いて心を静めたり、目に見えないものに感謝をしたりと、日常では味わえないものを感じるために行くお寺の姿とはかけ離れているとしか思えません。

とくに、山寺としての清水寺は景観美が保たれ、今昔物語集にも出てくる由緒や長い歴史、神聖性を感じられるだけに、大講堂内の光景には唖然。急に現代、そして煩雑な日常に連れ戻される印象でした。


50年前にはなかった悩み

いつからこのような状態になったのでしょうか。尋ねると、昭和50年代、車が通れる登山路が整備されてからのことだそうです。

それまでは山麓から約2キロ、40分の坂道を登らなければならず、参拝者数も限られていたとのこと。道路が整備され、参拝者数が増えることにより、日々の僧侶としての仕事だけでなく、管理業務も増えていきました。

職員が増員され対応するのですが、そもそも大正時代に山火事により焼失再建された大講堂は、観光施設としてつくられてはおらず、仏事、勤行を行う以外の十分な執務、収納スペースを備えているはずもありません。

人が増え、物が増え、40年という時間経過とともに、このような乱雑な状態になってしまったのです。

物は、その場所に関わる人の数と時間に比例して増えていきます。物が増え続けるのを防ぐ仕組みの導入が必要なのは、お寺も一般企業も同じでした。

物が増え続けるという弊害は、組織に大きな損失を与えます。ムダな物、ムダな動線、ムダな空間、ムダな時間、ムダな思考は、ジワジワと組織のコストを増やしていくからです。