「ゆっくりしっかり読んだはずなのに、読み終わるとほとんど内容を覚えていない」。こんな、あたまに残らない「読んだつもり」の読書では読書の意味がありません。では読んだら忘れない読書をするためにはどうすればいいのか?

脳には物事の全体像を常に把握したいという性質があります。この性質を読書に応用してしまうのです――この度『一度読むだけで忘れない読書術』を上梓した世界記憶力グランドマスターの称号を持つ池田義博氏はいう。日本記憶力選手権で6年連続日本一に輝いた同氏に脳の原理に沿った本当に正しい読書を教えてもらった。

※本稿は池田義博著『一度読むだけで忘れない読書術』(SBクリエイティブ)より一部抜粋・編集したものです。


脳は節約家。でも全体像を見せると…

受験や資格試験の勉強法には隠れた「王道」があります。隠れたという意味はこの勉強法が試験勉強に極めて特化されたものだからです。

その王道とはずばり「過去問の問題と答えを先に全部読んでしまう」という方法です。受験や資格試験には当然ながら期限というものがあります。その限られた時間の中で学習の生産性を上げる一つの方法がこの方法です。

つまり最初からじっくり問題を解いていくことに時間をかけずに、まずは、さっさと過去に出題された問題と答えを読んでしまおうということです。

これの一番の目的は試験勉強の無駄を省くことにあります。出題傾向などが毎回同じであるのならば当然その情報は知っておくべきだし、それはずるくも何でもなく、最終的な目標である試験というものに合格するためには当然の戦略です。

またこの方法は脳の性質からも理にかなっているのです。脳にはものごとの全体像を常に把握したいという性質があるのです。

脳は無駄なエネルギー消費を避けるように設計された器官です。そのため先が見えない状況で接する情報に対しては、どれが重要でどれが重要でないかの判断をする機能は活性化しません。

しかし全体像を見ることができると働き始め、その全体像を完成させるためにまだ足りないものを優先的に教えてくれるのです。教えてくれるとは重要なものに意識が向くように仕向けてくれるということです。

限られた時間しかない中で合格のために必要のないことを捨てて、無駄な勉強はしない、やるべきことだけに注力するというのは合理的です。


読書に心理学を利用する

今回の読書法もメインの目的が本の内容を覚えてそれを活かすということにあります。それはつまり「学習」の要件を満たしていることになります。

ここにおける「合格」とは本の内容が自分のものになる、使える知識として実際に活用することなのでしょう。ここでも先ほどの「試験勉強の隠れた王道」の考え方を使うべきだと思います。

そしてこのやり方にはさらに隠れた秘密があるのです。実はこのやり方、学習心理学的にも非常に理にかなった方法だったのです。

心理学上、記憶に関わる性質の中に「プライミング」というものがあります。プライミングとは以前に経験したことが、その後の認知や行動の促進に対して知らないうちに影響を及ぼす効果のことをいいます。

例えば前の日の夜にテレビでラーメン特集を見ていたとしましょう。その記憶が無意識に頭の中に残っていることにより次の日外食したときに何となくラーメンを選んでしまうといったような現象のことです。

このプライミングに関する効果は他にもあります。「サバイバル効果」などもその一種です。実験によりその効果が報告されています。

最初に参加者には、例えば無人島などに一人取り残されたなどのサバイバルが必要なシチュエーションを想像してもらい、その中に自分がいることをイメージしてもらいます。

それをした上で、実験参加者には無作為に選ばれた「ジュース」「ドア」「ガラス」「自動車」…などの単語が次々に表示されます。出てくる単語に対して、それらがサバイバルをするときに役立つかどうかを判断することが求められます。

その後出題された単語をいくつ覚えているかという記憶のテストを行ったところ、サバイバル状況を事前に想像していない参加者に比べ、自分がサバイバル状況に置かれていると想像した参加者たちの方が記憶している単語の数が多いという結果になったのです。

その他にも「ザイアンス効果」といわれるものもある種のプライミングといえるでしょう。意識的にテレビのCMを見ていたわけではないにもかかわらず、何度も繰り返しそのCMをテレビで見ていることで、お店に行ったときに何となくその商品が目に飛び込んできてつい買ってしまったというような現象のことです。