◆おかあさん、かわいそう〜負けそうな私を立ち直らせてくれたできごと

娘が小学1年生の夏に、私は膝の靭帯を切るケガをしました。治療には手術と1カ月程度の入院、10カ月のリハビリを医師に勧められました。
夫の仕事は朝が早くて帰りは遅く、車で通える距離の義母は癌の闘病中で、実母は仕事をしていました。「これから娘は、どうなるんだろう?」と1人で不安を抱えたまま、答えを出せずに季節は12月になっていました。
「おかあさん、だいじょうぶ?」と、娘の手が私の背中をさすると、温もりが伝わり、思わず「お母さん、入院したくない」と言いたくなりました。でも、母親なんだからとグッとこらえていると、情けなくも涙が溢れだしました。
すると、「だいじょうぶだよ、だいじょうぶ」と、いつも娘に言っていた言葉が、そのまま返ってきました。もっと母親として強くなりたい、そう思った瞬間、自分の弱さを素直に認められ、もう一度いろいろな人に相談してみようと思い、心が軽くなりました。
でも、「おかあさん、やっとわらった」とニカッと笑う娘を見て、私はハッとしました。娘は我慢しやすいところがあり、今も無理をしているのではと不安になったのです。

なんとか入院はできたのですが、1週間が経つと、娘はみるみる弱っていきました。クリスマスの日には、腹痛の娘を夫が小児科へ連れていきました。夫もつらかったと思います。娘がお母さんに会いたいと泣いても、私の病室は小児面会禁止のため連れていけません。
病院には家族控室という子どもでも面会できる場所があります。病室からそこまでは約100m。私は排泄も1人でままならない状態でしたが、娘に会いたいという目標ができたら、がんばれました。
そして、年明けにやっと家族控室に行くことができるようになり、車椅子でその部屋に走り寄ると、娘と実母が待ってくれていました。しかし、車椅子姿の私を見るなり「おかあさん、かわいそう」と娘はつぶやきました。「かわいそう? 私が?」頭の中で疑問が浮かびました。
会えなかった時間を埋めるように娘の話を聞いていると、「お母さんがいなくて、かわいそう」と、両家の親戚からシャワーのように言葉をかけられているようでした。優しさでおっしゃったのだと思います。しかし、私はその言葉に何か引っかかっていました。そして私は、“娘を乗せて車椅子で走ってみたい!”、突如そう思い立ち、気づいたら娘を抱き上げ、必死で車輪をこいでいました。
車椅子だと、売店では買い物がしづらい。でも、車椅子だと、廊下に飾られている絵画も、窓から見た夕焼けも、なんだか少し違って見える……。

「いつもと違うって大変だけど、本当にかわいそうなことかな?」。私がそう言うと、娘は私の手を握ったまま、黙って窓を見上げていました。その日の夜、娘の腹痛はピタリと治まりました。
10年前も私は同じ足のケガをしました。当時は独身で、今とはずいぶん勝手が違いました。けれど、思うように動けないとき、周りの方々が差し出してくださったあたたかな手が、私を立ち上がらせてくれたことに気づけたのは、娘のおかげだと思います。あきらめそうになるときも、娘がいてくれるだけで、がんばろうと思えるから不思議です。
娘の笑顔、存在は、私にいつも大切なことを気づかせてくれ、私を幸せにしてくれます。

(神奈川県・33歳・主婦)
「PHPのびのび子育て」4月号より