乱暴な言葉が即NGなわけではない

出口:小川さんは、お子さんへの声かけで意識していることはありますか?

小川:子どもを認める言葉をたくさんかけてあげたいと思ってはいます。でも、日々の子育ての中ではつい乱暴な言葉遣いをしてしまったり、否定的なことを言ってしまったりして反省します......。

小学生男子の兄弟なので、家の中を走り回りながら戦いごっこをし、私にもしつこく戦いを挑んでくるので「ウザいんだけど!」などと言っているのが日常です。

『超こども言いかえ図鑑』にある「ヤバい」「ウザい」などの言葉は、正直なところ私も使っているんですよね。本書を制作しながら、「大人もヤバオ(『超こども言いかえ図鑑』に出てくる、語彙が少なめのキャラクター)なのでは」と冷や汗をかいていました。

こういったぞんざいな言葉がつい出てしまうけれど、あとから説明してフォローしようとはしています。

出口:忙しい日常の中では、きつい言い方にもなるものです。私も娘たちに乱暴な言葉を言っていましたよ。

でも、乱暴だから即NGというわけではありません。この言葉を言ったらアウトとかセーフというものはないんです。とにかく大事なのは「本人がどう感じたか」。心理カウンセリングではもっとも基本的と言える部分です。言葉を発した人の意図が何であれ、受け取った本人がどう感じたかが重要です。

乱暴な言い方であっても、家族の中で成立していれば構わないんです。コミュニケーションは双方向のものです。子どもの反応を見ながらフォローしたり、失敗したと思ったら謝ればいい。

非行少年の親は、言いっぱなしが多いんです。子どもがその言葉をどう受け止めたかに意識を向けず、フォローすることがありません。すると、結果的に追い詰めやすくなります。

「言葉かけ」は、相手の状態や反応を見るからこそ、良い方向に機能します。相手を見ずに言いっぱなしというのは怖いことです。


家族の中ではセーフの言葉も、外ではアウトということも

小川:外から見て、「あの保護者は子どもに対してずいぶん乱暴な言い方をするなぁ」と思うこともありますが、家族の中で成立しているのなら問題ないわけですよね。

出口:その通りです。本人がどう感じたかが問題であって、外から見てどうかは関係ありません。外から見たものはごく一部でしかないのです。親が子どもに「うぜぇ!」などと言っているのを見たら心配になると思いますが、その家族の中では普通のコミュニケーションかもしれませんし、あとから丁寧にフォローしているかもしれません。

小川:ただ、家族の中ではOKな言葉を、子ども同士のコミュニティの中で気軽に使って、人を傷つけることもあるのかなと思います。軽口のつもりで言ったのに、なんであの子は泣いているの?と。

出口:家庭の中と外とで、どうやって言葉を使い分けるのかを教えるのも教育のひとつです。「お母さん、これやっておいてって言ったじゃん!」といった普通の家族間の言葉遣いも、先生や他人に同じように言っていたらマズイですよね。子どもが自分で判断できるわけではないですから、教えてあげなければなりません。

家庭の中だけの話ではなく、業界用語など特定のコミュニティで通用する言葉はあります。それをどこででも使えばトラブルの元になります。

小川:相手やタイミングに応じて言葉を使い分けられることが大事ですね。


■出口保行
犯罪心理学者。東京未来大学こども心理学部部長。1985年東京学芸大学大学院教育学研究科発達心理学講座を修了。同年国家公務員上級心理職として法務省に入省。以後全国の少年鑑別所、刑務所、拘置所で犯罪者を心理分析する資質鑑別に従事。心理分析した犯罪者は1万人超。内閣府、法務省、警視庁、各都道府県庁、各都道府県警察本部等の主催する講演会実績多数。独自の防犯理論「攻める防犯」を展開。フジテレビ「全力! 脱力タイムズ」にレギュラー出演。前作『犯罪心理学者が教える子どもを呪う言葉・救う言葉』(SB新書)は累計9万部突破の話題作となった。

■小川晶子
ブックライター、絵本講師。
児童書や教育関連の書籍を中心に本づくりに携わっている。