この春のテレビ番組改編で、番組のMC起用に新たな動きが見られる。その背景にあるのは、やはり視聴率。だが、これまでの視聴率への考え方とはちょっと事情が番うようだ。コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが解説する。

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 2020年代最初の冬ドラマが次々に最終話を迎え、テレビ番組は春の改編期に突入していきます。

 この春は中居正広さんがジャニーズ事務所から独立して新たなスタートを切るほか、ロンドン留学していたウエンツ瑛士さんが帰国して『火曜サプライズ』(日本テレビ系)のMCに復帰。新番組に目を向けると、昨年末の『M-1グランプリ2019』(ABCテレビ、テレビ朝日系)で優勝したミルクボーイが全国ネットのゴールデンタイムで初めてMCに挑む『これって私だけ?』(テレビ朝日系、火曜20時〜)がスタートするなど、テレビ番組のMCにさまざまな動きが見られます。

 その他の特筆すべき動きとしては、霜降り明星をはじめとする“お笑い第7世代”の若手芸人がMCを務める『第7キングダム』(日本テレビ系、日曜12時45分〜)と、『霜降りミキXIT』(TBS系、月曜23時56分〜)の2番組がスタート。

占い師の木下レオンさんと、ぷりあでぃす玲奈さんが事実上のMCとなる『突然ですが占ってもいいですか?』(フジテレビ系、水曜22時〜)がスタート。

『陸海空 地球私服するなんて』の破天荒な言動で人気者となった“ナスD”こと友寄隆英ディレクターの冠番組『ナスDの大冒険TV』(テレビ朝日系、水曜26時21分〜)がスタート。

『秘密のケンミンSHOW』(読売テレビ、日本テレビ系)のMCが、みのもんたさんから田中裕二さんに変更し、『秘密のケンミンSHOW極』にリニューアル。

 このようにフィールドやキャリアの異なるタレントがMCに挑むことになった背景にはどのようなものがあるのでしょうか。

◆視聴率調査のリニューアルが影響

 冒頭に挙げた中居さんは、今春から『中居正広のニュースな会』(テレビ朝日系)が30分拡大するほか、17日に『中居正広の4番勝負』(日本テレビ系)、20日に『中居正広のプロ野球魂』(テレビ朝日系)と特番が立て続けに放送されるなど充実一途。大手芸能事務所を辞めるにも関わらず、出演番組数がまったく減らないなど、国民的MCとしての需要が増している様子がうかがえます。

 一方、前述したMC経験の少ないメンバーには、20代の若手から、異色のタレント、スタッフまで、さまざまなキャラクターが混在。これまでのようにアラフォーの中堅芸人が起用されていないことに新たな動きを感じます。

 国民的MCと、さまざまなキャラクター。両方が混在した背景にあるのは、個人視聴率をはじめとする視聴率調査のリニューアル。ビデオリサーチ社が行っている視聴率調査が今年3月30日に大きく変わり、各地の調査世帯数が拡大されるほか、個人視聴率が全地区で導入されます。

 個人視聴率とは、これまでの「どれくらいの世帯で見たか」を示す世帯視聴率ではなく、「性別や年代別にどれくらいの人が見たか」を示す指標。番組制作のベースとなるデータが細分化されるため、単純に経験値や知名度だけでMCを決めるわけにはいかなくなっていくのです。

現在、「今春以降のバラエティで求められるだろう」と言われているMC像は、「幅広い世代からの好感度が高い」「若い世代が反応しやすい」「唯一無二の個性か専門的なスキルを持つ」の3つ。だからこそ国民的MCの中居さんや、持ち前の親しみやすさにイギリス留学で凛々しさを加えたウエンツさん、鮮度と勢いのあるお笑い第7世代は選ばれやすいと言えるでしょう。

これまでの世帯視聴率をベースにした番組では、中高年層に人気のMCが選ばれるケースが多かったのですが、今後は個人の中でも「商品購買につながりスポンサー受けがいい」と言われる女性若年層に好かれるMCが増える可能性は高そうです。

◆意外な注目株は初レギュラーMCの52歳俳優

 また、冒頭のリストにはあげませんでしたが、もう1人気になるのは『これって私だけ?』でミルクボーイとともにMCを務める沢村一樹さん。沢村さんは現在52歳の俳優であり、ゴールデンタイムのバラエティでは初のレギュラーMCとなります。

 近年、『99人の壁』(フジテレビ系)の佐藤二朗さん、『クイズ!あなたは小学5年生より賢いの?』(日本テレビ系)の佐藤隆太さんなど、中堅俳優のMC進出が目立ちますが、これらの起用も幅広い年代からの好感度が高く、唯一無二の個性があるから。さらに、トップを走る主演俳優ではなく助演の多い俳優だからこそ出演作が多く親近感があり、それでいてMCとしては良い意味でのぎこちなさを含め、フレッシュさを感じさせられる貴重な存在なのです。

 そこで再びフィーチャーしたいのは、前述した視聴率調査のリニューアル。これによって全国各地の集計をまとめることが可能になり、「この番組は日本全国で何人が見たか」が数値化されるようになります。そのため中堅人気俳優のような幅広い年代からの好感度や唯一無二の個性を持つ芸能人がMCを務める機会は増えていくのではないでしょうか。

録画視聴やネット配信視聴の増加。さらにはテレビではなくパソコンやスマホでの視聴など、個人の視聴形態が分散化する中、MCにかかる期待とプレッシャーはこれまで以上に大きくなっていくでしょう。ただ、求められるものが大きくなるほど努力を重ね、MCとしてのレベルは上がりやすいだけに、視聴率調査のリニューアルはテレビ業界にとってチャンスなのです。

【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月20本超のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組に出演。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動している。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』『独身40男の歩き方』など。