放送開始とともに評価を上げてきた作品がいよいよ大団円を迎える。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が考察した。

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『知らなくていいコト』そして『恋はつづくよどこまでも』と、いずれも惜しまれながら幕を閉じ、最終話の視聴率が「自己最高」を記録。有終の美を飾るケースが続いています。数字が右肩上がりということは、視聴者が期待するドラマに仕上がった証しでしょう。同時に、コロナ騒動の影響で外へ出かけられない分、いつも以上にテレビドラマに熱い視線が注がれている、と言えるのかもしれません。

 さて、いよいよ明日最終回を迎える『テセウスの船』(TBS系日曜午後9時)はどうか? ネット上ではすでに考察ブームが巻き起こっていて「音臼小事件の真犯人は誰なのか」真相究明に向けてさまざまな仮説が披露されています。この流れだと、犯人が判明する最終回に最高視聴率をたたき出すことはほぼ間違いなさそう。盛り上がりを前提としつつ、あらためてこのドラマを振り返ってみたい。その見どころ・味わいどころとは……。

●全編に張り詰めた緊張感

 第一に、「誰もが容疑者に見えてくる」その張り詰めた緊張感の持続がすごい。「あれこの人が怪しいな」と思わせたとたん、また次の疑惑の人物が浮上してきてまた次の人が……という展開の鮮やかさ。振り返れば、全話を通して弛むスキが無かったと言えそうです。

●役者の配置の見事さ

 役者たちの「配置」ぶりも見事でした。子どもから大人まで、少女からおじいさんまで。父、母、息子、娘、警官、教師、農家、記者、工場のパート、商店主……バラエティ豊か。性別も年齢も職業も立場もいろいろな人物が、まるで星座のように配置されていて、入れ代わり立ち代わり個性的キャラクターが出てくる面白さ。「村」というコミュニティのリアルさとはそういうことでしょう。

●演技力と集中力

 抜擢された役者一人一人が、持てる力を最大限発揮したことも魅力的でした。例えば主人公・心を演じる竹内涼真さんの眼は、始終潤んでいる。感情が極限まで達した臨場感がその瞳から感じられ、役になりきる集中力の凄さが伝わってくる。一方、父・佐野文吾役の鈴木亮平さんは優しくて包容力があり、どこまでも善い人を演じ切った。父と子、それぞれの持ち味をしっかりと出した二人の対置には文句の付け所がありません。

 女優たちの迫力も見逃せない。麻生祐未さん演じる木村さつきの不気味さ。榮倉奈々さん演じる母・和子のまっすぐさ。そして物語の中盤には、局面を変える力となった記者・由紀役・上野樹里さんの存在感。たった数分間の由紀の演説によって、ドラマの質が一段と濃密になった。今でもその余韻に浸ることができます。

●ロケが生きる映像

 殺伐とした山の稜線、森林と不気味な雪景色。ロケだからこそ、場所性がくっきりと浮かび上がる。どこにでもあるオフィス街では描けないであろう、独特の陰鬱とした雰囲気。どんよりとした集落の空気、過去の陰惨な事件と絡み合う人間関係…場所に潜む「怖さ」というものを感じます。そう、『八墓村』をはじめとして集落での殺人事件というミステリーの系譜上にこの作品も立っている。その意味で過酷ではあってもロケは必要不可欠であったし大きな効果を発揮しました。

 いよいよ犯人が特定される最終回。終わりだからこそ謎解きに留まらず父と子、人と人との絆を描いたヒューマンストーリーとして完結して欲しい。

「善人」「正義の味方」として描かれてきた佐野文吾はいったいなぜ、いかなる時に「殺人犯」の刻印を押される運命を担ったのか。表層的な嫉妬や恨みといった次元を超えて、人の業のようなものが潜んでいるはず。深淵なる理由をきっちりと描き出し「そうだったのか」と納得させて欲しい。また、タイムトリップ前には最愛の妻であり、現代においては記者・由紀を演じた上野樹里さんの存在も気になってしかたがない。最終回、人間ドラマの醍醐味をぜひとも期待します。