若手の中ではオファーが引きも切らない役者の一人である。朝ドラに舞台を移しても「爪痕」をしっかり残しつつある二階堂ふみ(25)について、作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が分析した。

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 NHK朝ドラ『エール』は、滑り出し頃の子ども時代の描写に比べてずいぶんとコメディタッチが目立つ展開になっています。これを「朝から騒々しい」と避ける視聴者もいるもようですが、単純にそうとも言い切れない。このストレスフルな状況下で、しばしの間、明るいドタバタ喜劇を楽しむことは精神衛生上良い作用があるかもしれません。

 ただし、本当の笑いを生むためには、何よりも役者陣の頑張りと才能が問われる。演じる側に少しでも躊躇や迷い、余計な自意識(面白いだろう、という押し付け)があったりすると、視聴者はそれを鋭く感じとり、白けてしまう。それこそナンセンスな振る舞いを、平静な顔で平気の平左でやり切らないと、笑いは湧いてこないはずです。

『エール』の出演者を眺めると……男性陣もものすごく頑張っていますが、私が今押したいのは薬師丸ひろ子さんと二階堂ふみさんの母と娘。薬師丸さんの役者としての素晴らしさは前のコラムでも触れましたが、先週注目したのが裕一の妻・関内音役の二階堂ふみさんの存在感です。

 怒鳴ってもがなっても、どんなにオーバーアクションをしても「絵になる」。「さまになる」役者だと痛感させられました。二階堂さんの、誰にも似ていない不思議な魅力。その力の根源とは、いったいどこにあるのでしょうか? 

●思い切った振り幅

 十代でファッションモデルとしてデビューした二階堂さん。凄いのは、25才という若さに似合わずNHK大河ドラマ『平清盛』『軍師官兵衛』『西郷どん』とすでに三本も出演していること。そこで王道の「保守正統派」を歩むのかと思えば、いやいや。ものすごく守備範囲が広いのも、この役者の特徴でしょう。

 民放ドラマにも多数出演し記憶に残る演技はいくつもあります。例えば『Woman』(2013年日本テレビ)では満島ひかりの義理の妹・栞を演じ、その情緒不安定ぶりがすごい迫力で視聴者をびっくりさせました。あのとき名前を記憶に刻んだ人も多かったはず。かと思えば、『この世界の片隅に』(2018年TBS)では薄幸の遊女・白木リンをしっとりと悲しく浮き上がらせてみたり。ドラマだけではありません。バラエティにもレギュラー出演。『ゴチになります』に出た動機を「知名度を上げたくて」と語る。その振り幅の広さ、すさまじさすら感じさせてくれます。

●透明な器

 振り幅の広さとも通じますが、「自分へのこだわりのなさ」「自分に対する距離感」も特筆すべき点でしょう。どんな奇妙な世界にも飛び込んでいけるし、どんな役も成り立たせてしまう。映画『脳男』で眉毛を剃った連続爆弾魔になり、『私の男』では育ての父と男女関係に堕ちていく少女のような遊女のような存在に。『蜜のあわれ』では老作家を翻弄する赤い金魚に。かと思えば、大反響を呼んだ埼玉県自虐ギャグ映画『翔んで埼玉』で金髪おかっぱ姿の壇ノ浦百美という男役を演じ切ったり。先生から娼婦、殺人犯まで演じられるのは、透明な器だからではないでしょうか。

●孤独を知っている

「友達がひとりもいなかった」と過去を語る。社交的な性格ではなかったそうで「みんなと同じ服というよりは、好きな服が着たい」。孤立と孤独を知っている、だから強い。自分の足でしっかりと立ち、何にも頼らない芯がある。

●過去から多くを学んでいる

 憧れの俳優を聞かれてブリジット・バルドーや高峰秀子の名前が出てくるあたり、過去作からたくさんのことを学んでいそう。愛読書は室生犀星にハイデガー。役者はすべてが芸の肥やしになる職業です。自分について「ルックスは普通ですよ。芝居に関しては誰にも負けない自信があります」と語る理由もそのあたりにありそう。

 大河ドラマで西郷役の鈴木亮平さんから「感性の化け物」と称賛された二階堂さん。実に言い得て妙です。今回、朝ドラといういわば保守本流の本陣の中で、その「感性の化け物」がいったいどれくらい破壊的創造をしてくれるのか。二階堂さんの感性を通してスタンダードナンバーの朝ドラがどう変わっていくのか、今後が楽しみです。